Jazz Right Now - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート

by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley & 剛田武 Takeshi Goda

はじめに
text by剛田武 (Takeshi Goda)

昨年末にあるライヴイベントの打ち上げで偶然に巻上公一氏にお会いした。30年以上前からヒカシューのファンで、氏が音楽監督を務める「JAZZ ARTせんがわ」に毎年通っているにも関わらず、ご本人と直接話をするのは初めてだった。

ヴォイス・パフォーマーとして世界的に活動する巻上氏は、ジョン・ゾーンのTzadikレーベルからCDを何枚もリリースし、ニューヨーク音楽シーンへの造詣が深い。昨年クリス・ピッツイオコスを「発見」して以来、筆者が大きな関心を寄せているニューヨーク即興シーンについて尋ねたところ、ピッツイオコスのことはご存知なかったが、ニューヨークのミュージシャンとは数多く共演していて、特に昨年10月ライヴハウス「ザ・ストーン」のレジデンシーで滞在した折にデュオで共演したトランペット奏者のピーター・エヴァンス(FIVE by FIVE #1162参照)は、「とんでもないバカテクの奴」(巻上氏談)だったという。想像していたニューヨーク即興シーンの活況ぶりが、実際に体験した巻上氏の話によって、決して筆者だけの思い込みではないことが確認できた。

そんな折、Facebookのタイムラインで『Jazz Right Now』というアメリカのウェブサイトの存在を知った。「21st Century Improvised Music on the New York Scene(ニューヨーク・シーンの21世紀即興音楽)」をキャッチフレーズに、現代ニューヨーク・シーンの多種多様な情報を詳細に掲載したサイトである。「VIDEO」ページには現地で開催されたライヴ動画が月別に多数リンクされ、「ARTISTS」「BANDS」ページを見れば、いかに多くの才能が現在のニューヨーク・シーンにひしめいているかが俯瞰できる。

時代と共に意味を変えながら「今ここで起こっている(Right Now)」ものを意味するのが「ジャズ(Jazz)」である、という主宰者シスコ・ブラッドリー氏のジャズ観が、筆者がYouTubeと音源だけで妄想した「ハードコア・ジャズ」説(Five by Five #1148 参照)と、根底で相通じるように思われ共感した。

この膨大な情報のほんの一部すら日本では知られていない状況に於いて、最もリアルなのは現地の生の情報を直接伝えることに違いない。ブラッドリー氏とメールで何度も情報交換し、今号からマンスリー・コラムを開設することになった。今後はインタビューやライヴレポートを含め、今ニューヨークで起こっている即興音楽の魅力をお伝えしていきたいと思います。なにとぞよろしくお願いします。
(剛田武 2015年3月13日記)

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連載第1回
今ここにあるリアル・ジャズ
text byシスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley)
translated by剛田武 (Takeshi Goda)

現代ニューヨークの即興ジャズ・シーンの月刊コラム『ジャズ・ライト・ナウ』へようこそ。このコラムは、特に若い新進気鋭のアーティストを中心に、ニューヨークで現在進行中の音楽ルネッサンスに大きな光を当てることを目的とする。
ニューヨークは現在も、多くの創造的な音楽家の歴史的業績の上に築かれた、世界中の最もエキサイティングな音楽シーンの拠点のひとつである。しかし同時代の創造的即興音楽は、得てしてオーネット・コールマン、ジョン・コルトレーン、エリック・ドルフィー、チャールズ・ミンガス、セシル・テイラーなどこのジャンルの創世記に偉大な功績を残した先達の影になりがちである。だが、近年のアヴァンギャルド・ジャズの音楽家たちが一般的に知られていない現状を考えれば、シーンにおける現在進行形の動向を今まで以上にクロースアップする必要性があることは間違いない。今日の音楽家は、前の世代の偉大な創造者に劣らぬ創造性、エネルギー、革新性、そして信念をもって活動しているのだから。
またこのコラムの目的は、前の世代が陥った「ジャズ戦争」や「ジャンル戦争」を乗り越えることでもある。「純血性」を望むあまりジャズだけ孤立させたり、「ジャズとは何ぞや」の定義に終始したりすることは、全く実のない試みである。実際にこのコラムで取り上げる音楽家の多くは、ジャンルを越えて活動し素晴らしい成果を生んでいる。ここで「ジャズ」という用語を用いるのは、スタートラインの基準点を意味するだけであり、定義や分離のための限定要因ではない。音楽はあまりに興味深すぎて、簡単に分類してしまうことはできない。ここで取り上げる音楽家は、ジャンルやサブ・ジャンルに囚われず、我々の両親や祖父母の世代が定義した「ジャズ」の境界を交差し超越して活動している。「ジャズ」とは柔軟さ(可鍛性)と変化(過渡性)に富んだ用語であり、常に新しい意味を加えたり古い意味を洗い流したりして、過去の分類に関係なく、「今ここにある」ものを意味するどんなものにもなり得るのである。

今日のニューヨークには驚くほど多くの革新的演奏家が集まっている。
ネイト・ウーリー Nate Wooleyは同世代の他の音楽家の誰よりもトランペットのボキャブラリーの拡大を続けている。ソロ作品でも大編成のアンサンブルでも、ウーリーは彼の楽器(トランペット)の可能性を塗り替えてきた。ウーリーは1月19日マンハッタンのワイルド・プロジェクトでの素晴らしいパフォーマンスに於いて、『フォー・ケネス・ギャブロ(For Kenneth Gaburo)』という作品を初演し、音声音響(フォニック・サウンド)の演奏テクニックと、それによる調性的(トーナル・プロダクション)効果を追求した結果を披露した。ウーリーの音は、虚無から現れ、成長し、拡大し、サウンドの可能性を伸長し、その後波が引くように、徐々に忘却の淵に回帰する。この作品は、ウーリーの3年に亘るトランペット連作プロジェクト『シラブルズ(Syllables・音節)』の第3番にして最終章にあたる。

ここ数年の間に登場した最もエキサイティングな新たな才能のひとりがアルト・サックス奏者のクリス・ピッツイオコス Chris Pitsiokosである。彼については別項クローズアップを参照いただきたい。

3月1日にはベテラン・エレクトロニクス奏者フィリップ・ホワイト Philip Whiteとのデュオ・アルバム『パロクシズム(Paroxysm)』(Carrier)をリリース。この作品についてピッツイオコスは「今まで制作した中で最も残虐な作品」と語る。
6月(予定)にはマックス・ジョンソン Max Johnson (b)とケヴィン・シェア Kevin Shea (ds)からなるクリス・ピッツイオコス・トリオのデビュー・アルバム『ゴーディアン・トワイン(Gordian Twine)』をリリース予定。ニューヨークで定期的に活動するこのトリオでは、ピッツイオコスは演奏家と作曲家両面の才能を発揮し、よりメロディックな即興理論を取り入れている。

他に今月の注目リリースには、アルト・サックス奏者マタナ・ロバーツ Matana Robertsのコイン・コイン・プロジェクトの最新作『リヴァー・ラン・ジー(River Run Thee)』 (Constellation)がある。話によると全部で12のパートからなるプロジェクトの3作目にあたる本作で、ロバーツはスポークン・ワード(語り)とオーラル・ヒストリー(口述記録)と神話と燃えるような前衛ジャズを、ソウルフルでありながら電気的かつ挑発的な生々しい楽曲と融合させた。

ドラマーのハリス・アイゼンシュタット Harris Eisenstadtもマイケル・ムーア Michael Moore (sax)、サラ・シェーンベック Sara Schoenbeck (bassoon)、 マーク・ドレッサー Mark Dresser (b)からなる彼のバンド「ゴールデン・ステート(Golden State)」のセカンド・アルバム『ゴールデン・ステートII(Golden State II)』を3月12日にリリースした。2014年のカナダ・ツアーの最終公演、ヴァンクーヴァー・インターナショナル・ジャズ・フェスティヴァルに於けるライヴ録音である。
(シスコ・ブラッドリー 2015年2月26日Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/

Nate Wooley photo by Peter Gannushkin Matana Roberts / River Run Thee Harris Eisenstadt photo by Ziga Koritnik

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クローズアップ
〜アルト・サックス奏者クリス・ピッツイオコスの活躍
text byシスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley)
translated by剛田武 (Takeshi Goda)
photo: courtesy of Chris Pitsiokos

24歳の若さにして、ピッツイオコスは既に自分の楽器に独自のボキャブラリーを付加し進化させている。活動の勢いを証明するように、今年前半に3枚のも新作をリリースする。

まず2月1日にアヴァン・メタル・ドラマーのウィーゼル・ウォルターとのデュオで『ドラウン・アンド・クウォータード(Drawn and Quartered)』(One Hand Records)をリリースした。燃えるような生々しい即興演奏を収めた豪快な作品である。

3月1日には実験電子音楽家フィリップ・ホワイトとのデュオ作『パロクシズム(Paroxysm)』(Carrier Records)をリリース。この作品についてピッツイオコスは「今まで制作した中で最も残虐な作品」と語る。怒りに満ちた抽象的ノイズ・インプロヴィゼーションの真骨頂。

6月下旬にはマックス・ジョンソン Max Johnson (b)とケヴィン・シェア Kevin Shea (ds)からなるクリス・ピッツイオコス・トリオのデビュー・アルバム『ゴーディアン・トゥワイン(Gordian Twine)』(New Atlantis)をリリース予定。バンド・リーダーであるピッツイオコスが初めて「作曲されたジャズ」を志向した作品。持ち前の実験性に富んだテクニックに加え、伝統的なジャズ演奏家にも親しみ易い”メロディー=即興=メロディー”の曲構造を取り入れている。メロディーが一転して正反対の即興へと変貌して唯一無二の叫びを上げる。やはり、それこそピッツイオコスの音楽の神髄に違いない。昨年活動を始めたクリス・ピッツイオコス・トリオがライヴを重ねるにつれて徐々に理解力に富んだユニットへと成長していく様子を見るのは大きな喜びだった。今後数年間の彼らのさらなる進化が楽しみである。

【クリス・ピッツイオコス動画】
Chris Pitsiokos & Weasel Walter - at Palisades, Brooklyn - Feb 9 2015
https://www.youtube.com/watch?v=EJ0Ilhpe1pE

Chris Pitsiokos Trio - at Spectrum, NYC - July 8 2014
https://www.youtube.com/watch?v=8TG2OcR2gTI

【関連リンク】
Five by Five #1148
『Chris Pitsiokos, Weasel Walter, Ron Anderson / MAXIMALISM』
http://www.jazztokyo.com/five/five1148.html

Five by Five #1190
『Chris Pitsiokos, Philip White/PAROXYSM』
『Weasel Walter and Chris Pitsiokos/Drawn and Quartered』
http://www.jazztokyo.co,/five/five1190.html

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley
ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

JAZZ TOKYO
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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