Jazz Right Now - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート

by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 吉田野乃子 Nonoko Yoshida

情報の灯台と関係と
text by齊藤聡 (Akira Saito)

『The New York City Jazz Record』という月刊誌がある。2002年に創刊され、これまでに第163号までが出されている。ミュージシャンへのインタビューや特集記事、CDのレビュー(最新号には、本号「ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報」でも取り上げられている蓮見令麻『UTAZATA』のレビューがある)、クロスワード・パズルなど、盛り沢山の内容。特筆すべきは、巻末に数頁にわたり小さい字でびっしりと書かれた、その月のニューヨークにおけるライヴ・スケジュールだ。私はニューヨークを訪れる際には必ずチェックするし、カタルーニャから来たというジャーナリストも同じことを口にしていた。

このマガジンは、ニューヨークのライヴハウスや映画館で無料配布しており、また、やはり無料でダウンロードもできる。紙質も印刷もさほど上等ではないのだが、それが長続きしているミソかもしれない。レコード会社やライヴハウスからの広告収入だけでは、運営は楽ではないだろうからだ。

この9月、Cornelia Street Cafeにおいて、このマガジンに寄稿しているライターとたまたま隣あって座り、休憩時間にジャズ話に花が咲いたのだが、テキサスからさらなるジャズとの接点を求めてニューヨークに出てきたという彼の知識は、高木元輝、阿部薫、大友良英など日本のフリージャズにも及んでいた。熱と情報のベクトルは、双方向であればもっと愉しい。最近の日本のミュージシャンをあまり知らないんだよと呟く彼に、11月にThe Stoneで行われる吉田野乃子のレジデンシーをぜひ観に行くべきだと薦めておいた。

東京にも、『ト調』という、東京近辺のライヴ情報を収集・公開しているすばらしいサイトがある。以前に、南青山のBody & Soulにおいて、テルアヴィヴ出身だという人に「このようなライヴ情報をどこで探したらよいのか」と尋ねられたので、『ト調』のことを教えた。日本語を読むことには苦労するそうだが、活用してくれたらいいなと思う。

もちろん、情報の海にあって位置と方向を見定めるための手がかりは、これらの灯台だけではない。多くの漂流する個人の熱い受発信とゆるやかな関係が、いつでも新たな海流を作り出しているはずである。

The New York City Jazz Record
http://nycjazzrecord.com/
ト調
http://www.tochoh.com/

齊藤 聡(さいとうあきら)
環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。
ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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連載第8回
ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
text by シスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley)
translated by 剛田武 (Takeshi Goda)

蓮見令麻 Rema Hasumi

ピアニスト/ヴォーカリストの蓮見令麻 Rema Hasumiの『Utazata』はニューヨークの最高のアーティストを迎えての、暖かくしかし最小限の作曲と即興の領域への興味深い侵犯である。レコードの成功の多くは、蓮見による、短い瞬間に多くを語ることの出来る共演ミュージシャンの選出に始まる。この慎ましいアプローチの典型がオープニング曲「Azuma Asobi」で蓮見とデュエットするトロンボーン奏者ベン・ガースティン Ben Gersteinである。この曲で設定されたトーンが全体を貫き、アルバムはメランコリーたっぷりに導かれる瞑想的な楽曲の連続へと進む。楽曲の親密さが、織り成される音楽物語に沿って、聴き手を蓮見の世界へと誘う。ガースティンは、トーマス・モーガン Thomas Morgan (b)、ビリー・ミンツ Billy Mintz (ds) 、セルジオ・クラコウスキ Sergio Krakowski (perc)からなるリズム隊と共に、ブルー・サウンド 〜悲劇的なダウンテンポの子守唄〜 の旅へ誘う。そこに時折、トッド・ニューフェルド Todd Neufeld (g)による火炎放射が加わる。そうしてトッドはしばしば他のサイドメンを引き立てる。そして蓮見のピアノ・ラインと時折のヴォイス・ワークが、伸縮する音楽宇宙の中心を形作り、楽器の間を楽々と動き回るリード・ヴォイスと共に、サウンドが暫時的に進化し続ける。

Rema Hasumi Official Site
http://www.remahasumi.com/

L to R:Billy Mintz, Rema Hasumi, Todd Neufeld,
Thomas Morgan, photo by Suguru Ikeda
Rema Hasumi, photo by Akira Saito 『Utazata』

永井晶子 Shoko Nagai

2014年3月10日にブルックリン・ルーレットでライヴ録音され、今年初頭にリリースされた永井晶子 Shoko Nagaiの『テイクン・シャドウズ Taken Shadows』は、興味深い音響表現のパノラマの中に、攪乱され、急速に膨張/消滅/復活を繰り返す、はためく音と形態を備えている。永井とベーシストの武石務 Stomu Takeishiとドラマーのジム・ブラックJim Blackは、交替でリズムの核となる音楽を基礎作る。一方、一人二役の永井、トッド・レイノルズ Todd Reynolds (vln/electronics)とジョナサン・ゴールドバーガー Jonathan Goldberger (g/effects)のメロディー隊は、肌理のある多面的で変幻する基底部を切り開く。両者の融合から出現する音楽は、折衷的でバランス良くドライヴする。三つのリード・ヴォイス(永井、ゴールドバーガー、レイノルズ)は見事にタイミングをずらして頭上を横切る。永井の作曲は決して零れ落ちることなく、あふれんばかりの感嘆と、折りに触れての孤独への退行の間を行き来しながら中心を見出す。エレクトロニクスやその他のエフェクトが、サウンドの暗めの装飾部分を効果的に強調する。永井はニューヨーク・シーンのユニーク且つ予測不能な存在であり続けるだろう。

Shoko Nagai Official Site
http://www.shokonagai.net/

Shoko Nagai, photo by 武石聡 『Taken Shadows』
Download & 試聴サイト
http://www.cdbaby.com/cd/shokonagai1

アンドリュー・バーカー Andrew Barker 、ポール・ダンモール Paul Dunmall 、ティム・ダール Tim Dahl

2013年にNew Atlantisからリリースされたもうひとつのレコードが新たなレビューの価値がある。アンドリュー・バーカー Andrew Barker (ds)、ポール・ダンモール Paul Dunmall (ts, bcl)、ティム・ダール Tim Dahl (b)のコラボレーションによる『ラッダイト Luddite』は、豊潤且つ強力なサウンドを持つ情熱的な世界を創造している。バーカーとダールがそびえ立つ構造の外郭を成し、その内側でダンモールが朗々と歌う。三人のプレイヤーが皆、枠組みにお互いの余地を残したまま、官能的なほど肉厚で美味しそうなサウンドを提供する。ダールの雷鳴のようなベース・ラインは時に洞窟の中にいるような感覚を喚起し、他の二人がその途轍もない空間を探索することを可能にする。「ノー・ピティ・パーティー No Pity Party」は、とりわけ効果的な楽曲で、バーカーとダンモールがお互い輪を描いて駆け回る中で、ダールの指揮により、絶えず放出されるエナジーの感情が常に前方に向かうように導かれる。最初にリリースされた時に見過ごした人たちは、再度このレコードを手に入れて再聴するべきだし、そうする価値があることは間違いない。

Andrew Barker,  photo by Peter Gannushkin 『Luddite』

Andrew Barker + Paul Dunmall + Tim Dahl - 'Spells' (Official Video)
https://www.youtube.com/watch?v=LC9ycFBtADM


ジェイミー・ブランチ Jaimie Branch/トーマス・ヘルトン Thomas Helton

ライヴ・シーンの注目は、9月13日JACKアーツに於けるジェイミー・ブランチのクルークス Jaimie Branch’s Crooksの燃えるようなプレイだった。この若いトランペット奏者は、6ヶ月前にシカゴからユーヨークへ居を移して以来、目覚ましい活躍を続けてきた。ブランチと共演したのはジョン・ウェルシュ John Welsh (g)、ブランドン・ロペス Brandon Lopez (b)、そしてサム・オスポヴォット Sam Ospovot (ds)という有望なプレイヤーたち。その夜、才気あふれ真っ直ぐなブランチの持つ大量のエナジーに、バンドメイトたちが見事に応えた。

Jaimie Branch's CROOKS - at JACK, Brooklyn - Sep 13 2015
https://www.youtube.com/watch?v=vY6vMp3_9BA

ブランチの後に、トーマス・ヘルトン Thomas Helton (b)、トニー・マラビー Tony Malaby (ts)、そしてウィット・ディッキー Whit Dickey (ds) からなる即興トリオが出演し、マラビーの猛火のメロディシズムの導きと、二人のベテラン・リズム奏者の起動力で、会場の熱狂を更に拡大した。

Thomas Helton Band w/ Tony Malaby - at JACK, Brooklyn - Sep 13 2015
https://www.youtube.com/watch?v=vZaiPfcjZ4s

以上がニューヨーク・シーンの最新動向である。
シスコ・ブラッドリー 2015年9月30日
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/

シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley
ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。80年代東京地下音楽に関する書籍を執筆中。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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よしだののこのNY日誌 第6回
text by 吉田野乃子 Nonoko Yoshida

段々と寒くなって参りました、みなさまお元気でしょうか?

今回のNY日誌では、私の音楽の師匠の一人でありますジョン・ゾーン氏の、最近のコンサート活動の一部についてレポートしたいと思います。

<World Premiere of John Zorn's Bagatelles @ The Stone>

2014年7月から、“バガテルシリーズ”と称して、The Stoneにて、毎週日曜日の午後3時に新しいコンサートシリーズが始まりました。

stone_bagatelles

Bagatelle(バガテル)とはクラシック音楽の用語で短い楽曲のことを言うようですが、ゾーン氏が2014年の3月から5月までに書いた300曲の短編楽曲集の名前だそうです。(これより前に書かれた500曲以上が収録されている楽曲集が、有名な“マサダ”ブックです。ジャズプレイヤーで言うところのスタンダードナンバーが収録された楽譜集、“リアルブック”や“フェイクブック”のようなものですね。)

マサダブックからの楽曲は、ゾーン氏自らサックスを吹いて参加しているジャズ色の強いカルテット『マサダ』での演奏が最も有名ですが、他にもエレキ楽器が参加した大人数編成の『エレクトリック ・マサダ』、ヴァイオリン、チェロ、ウッドベースによる『マサダ・ストリング・トリオ』、室内管弦楽団風の『バル・コクバ』、女声アカペラグループ『ミカレ』など、様々な編成のバンドで演奏され、アルバムも多数リリースされています。最近では、パット・メセニーが“マサダ”の曲を演奏するアルバムが話題になりましたよね。

ジョン・ゾーンのツァディックレーベルのページより
Pat Metheny - Tap: The Book of Angels vol. 20
http://www.tzadik.com/index.php?catalog=8307

バガテルもマサダブックと同様に、楽譜は至ってシンプル。ジャズスタンダードのスコアにも似て、数行のメロディー、たまにコードやその他即興の指示等が書かれたようなものです。なので、演奏するグループによって、様々なアレンジが可能なのです。

バガテルシリーズのコンサートでは、ゾーン氏の監修のもと、毎週、違ったグループが世界初公開の曲を演奏しています。観に行ったコンサートをいくつか紹介いたします。

■ 8月23日(日)
THEATRE OF OPERATIONS
Shanir Blumenkranz (bass) Kenny Grohowski (drums) Brian Marsella (keyboards)

第4回目の私の『NY日誌』でご紹介しました、パーカッショニスト、シロ・バティスタ氏率いるBanquet of the Spiritsにも参加しているベーシスト、シャニーアと、キーボード奏者ブライアン、そして、元々はハードコアロックやメタルのシーンで大活躍しており、最近ゾーンファミリーのプロジェクトにもいろいろと参加しているケニーが、新たにトリオを組んでのライヴでした。三人の、ロック寄りのボキャブラリーをフィーチャーした、ディストーションをゴリゴリ効かせたヘヴィーなセット(もちろんバスドラはツインペダルです!)に、お客さんもノリノリでした。

しかし、歌うような美しい旋律も多く登場するマサダブックの楽曲とはひと味違って、バガテルは、atonal(無調性)の複雑なメロディーや、とんでもない数学的な変拍子も多く登場します。演奏する方は大変だろうなぁと思いながら聞いていました。 (変拍子ロックにノル方も大変ですが。)

全く同じメンバーではありませんが、ベースのシャニーアのAbraxasというバンドを参考音源としてご紹介いたします。キーボードのブライアンはいませんが、ドラムのケニーが在籍、エレキギターが二人、入っています。

Shanir Blumenkranz' Abraxas at Aperitivo in Concerto - Teatro Manzoni, MI
https://www.youtube.com/watch?v=bcaT4vK9V7U
この動画では、シャニーアはギンブリという楽器を弾いています。

■ 8月30日(日)
TRIGGER
Will Greene (guitar) Simon Hanes (bass) Aaron Edgcomb (drums)

Triggerの三人は、私と同世代の20代。彼らは、前衛音楽教育にも力を入れている、ボストンのニューイングランド音楽院の出身で、この日は大学時代の友達もたくさん見にきているようで、同窓会のような雰囲気でした。こちらも、前の週のトリオと同様、ロック色の強いユニットでしたが、前週の中堅ミュージシャンの安定感のある迫力とは少し違うパワーとエネルギー、勢いを強く感じました。同世代のミュージシャンの活躍はとても嬉しいです。無名有名、年齢に関係なく、頑張っているミュージシャンにチャンスを与えてくれるゾーン師匠に感謝です。

Trigger のライヴ映像。少々古いものですが、ジョン・ゾーンの曲を演奏しているそうです。

TRIGGER @Deep Thoughts JP
https://www.youtube.com/watch?v=qS71-QWcc5U
(前半4分ほどまでがTrigger、その後は違うバンドの演奏です。)

■ 9月20日(日)
MEPHISTO
Sylvie Courvoisier (piano) Ikue Mori (electronics) Jim Black (drums)

NY前衛音楽シーン、ゾーンファミリーでも重鎮的なピアニスト、シルヴィーさん、ラップトップエレクトロニクスのイクエさん、そして、いつもはスージー・イバラさんがドラムを担当している、MEPHISTAというトリオ。今回はドラムにジム・ブラック氏を迎え、MEPHISTOという名前でのライヴでした。

大注目は、普段はエレクトロニクスで不思議で素敵なサウンドを作り出していらっしゃるイクエさんが、このプロジェクトでは、五線譜に書かれたメロディーやベースラインも演奏されるところなのです。これには、長年イクエさんの演奏を聴いていらしたダウンタウンミュージックシーンのみなさんもびっくりで、ライヴに来ていた他のミュージシャンの方々も演奏終了後に「誰がベースラインを鳴らしているのかと思ったらイクエだったのね?!」と大絶賛のコメントを伝えていました。ジムさんの迫力満点のドラミング、うねるようなグルーヴに、シルヴィーさんの十八番、プリペアドピアノも絶妙なタイミングで繰り出され、大盛り上がりのライヴになりました。

Sylvie Courvoisier Solo - Schaffhauser Jazzfestival 2013
https://www.youtube.com/watch?v=6tt7pQRHJWU

■ 9月27日(日)
JON IRABAGON
Jon Irabagon (sax) Matt Mitchell (piano) Drew Gress (bass) Nasheet Waits (drums)

NYジャズシーンでも大活躍のサックス奏者、ジョン・イラバゴン氏のカルテットも、バガテルを演奏してくれました。ゾーン氏は、それぞれのグループの一番得意とするスタイルでの演奏を求めているため、このグループは<テーマ、ソロ回し、後テーマ>というようなオーソドックスなジャズのスタイルを基本に各楽曲を演奏。イラバゴン氏の、ソロにおけるテクニックとフレーズの“歌い方”は圧巻でした。最後には、その週の夜にストーン・レジデンシーを行っていた、トランペットのピーター・エヴァンス氏がゲスト参加しての、スピード感溢れるパフォーマンスで締めくくられました。

今後もバガテルシリーズのコンサートはつづきます。様々なシーンのミュージシャンが登場しますので、 日曜日の午後3時にはぜひストーンにお越し下さい!

さて、私事ですが、前回お知らせさせていただいたサックスソロアルバム『Lotus』が完成いたしました。自主販売をしておりますので、ご購入ご希望の方は下記の販売用メールアドレスまでご連絡をいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします!

Nonoko Yoshida - Sax Solo Album "Lotus" (アルバムサンプル動画)
https://www.youtube.com/watch?v=yZrizTB31lY&feature=youtu.be

野乃屋レコーズ連絡先: nonoko_yoshida@yahoo.co.jp

吉田野乃子 Nonoko Yoshida

1987年生まれ。北海道岩見沢市出身。10歳からサックスを始め、高校時代、小樽在住のサックス奏者、奥野義典氏に師事。2006年夏、単身ニューヨークに渡る。NY市立大学音楽科卒業。前衛音楽家John Zornとの出会いにより、完全即興や実験音楽の世界に惹かれる。マルチリード・プレイヤー、Ned Rothenbergに師事。NYで結成した6人組のバンド“SSSS (Super Seaweed Sex Scandal)”で、2010年5月、ドイツ、メールス音楽祭に出演。2週間のヨーロッパ・ツアーを行う。2009年からNYで活動している前衛ノイズジャズロックバンド“Pet Bottle Ningen (ペットボトル人間)”でJohn Zorn主宰のTzadikレーベルより2枚のアルバムをリリース。4度の日本ツアーを行う。2014年4月、ベーシスト、Ron Andersonの前衛プログレバンド“PAK”のメンバーとして、ドラマー、吉田達也氏と日本ツアーを行う。

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夏の終わりのニューヨーク
text by齊藤聡 (Akira Saito)

エヴァン・パーカーの来襲

2015年9月、半年ぶりのニューヨーク上陸。宿に着いたらもう夕刻。急いで荷物を開けて準備し、イーストヴィレッジのStoneに向かった。それというのも、ヨーロッパ・フリージャズの猛者エヴァン・パーカーもまた、新作の録音を兼ねてニューヨークに上陸したばかりなのだった。
この日は、即興音楽ファンの間で人気が高いトランぺッター、ピーター・エヴァンスの連日のライヴ初日ということも相まって、ハコはすぐに満員になった。ファースト・セットは「US Electro-Acoustic Ensemble」。パーカーとエヴァンスに加えて、パーカーとはまた異なる循環呼吸奏法を得意とするネッド・ローゼンバーグの3人が管を吹き、背後で、サム・プルータ、イクエ・モリ、ジョージ・ルイスが、エレクトロニクスによりファンタジックな宇宙を創出してみせた。そしてセカンド・セットでは人数を減らして「Rocket Science」。パーカーのサックスが時空間を力技で捻じ曲げて自らの周りにまとわりつかせ、エヴァンスのトランペットが破裂音で時空間にスパークを発し続けた。ピアノのクレイグ・テイボーンが最後まで現れず、どうも勘違いらしいとわかって会場は笑いに包まれた(残念だったが)。

パーカーは翌日もブルックリンにあるRouletteに現れ、マーク・フェルドマン(ヴァイオリン)、シルヴィー・クルボアジェ(ピアノ)の夫婦、連日のイクエ・モリと共演した。会場では、前日に見知った愛好家たちと笑顔で挨拶を交わしあう。このフランクさがアメリカの良いところだ。演奏は、コズミックと言ってもいいほどの広がりを持つものだった。前日を含め、エレクトロニクスがここまでチャーミングで可能性を秘めたものだと発見したステージでもあった。さらに別の日には、パーカーとローゼンバーグとがデュオで演奏したようだ。

果たして今回のパーカーのレコーディングがいかなる作品として発表されるのか、今から楽しみでならない。

Evan Parker, Ned Rothenberg and Peter Evans Evan Parker Evan Parker and Mark Feldman

レジデンシーの面白さ

ここでは、「レジデンシー」という興業の形が少なくない。中心となるミュージシャンが、一定の期間同じハコで、自身のさまざまな側面を見せるべく工夫を凝らすやり方である。Stoneは基本的にレジデンシーを中心に予定を組んでおり、ミュージシャンは、それに向けて、スーパーヴァイザーのジョン・ゾーンと相談しながらプログラムを組んでいくようだ。この11月にレジデンシーを予定するサックス奏者の吉田野乃子さんも、ゾーンにあれこれと助言をもらいながらプログラムを組んでいるのだと、愉しそうに悩んでいた。

先述のピーター・エヴァンスは6夜のレジデンシー。様々な貌を持つ人でもあり、別の日には、「Pulverize the Sound」というトリオを観に行った。エヴァンスは循環呼吸奏法などで汗を噴き出させながら耳をつんざくような音を出し続け、マイク・プライド(ドラムス)は片手でバスドラムがぶっ飛んでいかぬよう押さえながら足で叩き続ける力技。全力疾走の1時間は、バンド名通り、サウンドを粉々にした。

客席にはサックス奏者のクリス・ピッツイオコスも姿を見せた。残念ながら今回プレイを目撃できなかったのだが、別の日に、「パンクロックのようにドラムスを叩く」のだという。ピッツイオコスがそんな話をすると、Stoneの面々も意外そうに眼を見開き、驚きながら笑った。ここからまた新たなクリス旋風が巻き起こるのかもしれない。

Peter Evans Mike Pride The Stone

もうひとつ足を運んだレジデンシーは、ノルウェー出身のベース奏者アイヴィン・オプスヴィークがブルックリンのSeedsで繰り広げた4夜の最終日。ずっと観たかったバンド「Overseas」だ。旅の不安とエキゾチシズムを体現するようなブランドン・シーブルックのバンジョー、さまざまな周波数の音を豊かに惜しみなく提示するトニー・マラビーのサックス、柔らかく暖かいオプスヴィークのベースと作曲など、限りない魅力に満ち満ちた音楽だった。オプスヴィークのシャイなインテリ風はご愛敬。

Eivind Opsvik’s Overseas Eivind Opsvik Tony Malaby

公園で尖ったジャズを

「Arts for Art」という団体が、ニューヨークの公園で、無料の野外ライヴを行っている。土日の昼間ずっと観ていて、わたしたちが想像する野外ステージのコンサートとはまったく違うことを体感した。小さく親密な空間であり、ぶらりと犬を連れて入ってくる人もいるし、子どもたちは歓声をあげて走り回っている。そして、土や樹々や家の壁に反響する音楽はまた特別のものだ。

ちょうど、先述の吉田野乃子さんとピアニスト・蓮見令麻さんが覗きにきて、マンハッタンの街中にこんなところがあったのかと、笑顔で面白がっていた(ふたりは同じニュー・スクールの先輩後輩で、3年ぶりに逢ったとのこと)。

蓮見令麻(左)、吉田野乃子

無料だが、演奏する面々は豪華。日本から帰国したばかりのトッド・ニコルソン(ベース)は世話人も兼ねている。あちこちで注目されはじめている実験的なトロンボニストのベン・ガースティンらが参加したバンド。シカゴ出身の渋いアンドリュー・ラム(サックス)。まるで伴奏するようにユニークな旋律を展開するダニエル・カーター(サックス)。未来人のように知的で鮮烈なサウンドを構築するジョナサン・フィンレイソン(トランペット)・・・。リラックスして、かつ刺激的な2日間の午後なのだった。

While We Still Have Bodies Andrew Lamb Daniel Carter and Todd Nicholson

スモールズという解放区

Smallsは他に類をみないハコだ。入り口の横に座る男に20ドルだかを払って地下に下りると、そこはまるで異空間。みんなが談笑し、客も店員もイチャイチャし、中には酔っぱらって踊り、「カモーン!」などと客を煽る女の子もいる。それでもみんな音楽が大好きなようで、隙さえあれば前の良い席を狙い、スマホで写真を撮り、演奏に拍手喝采。以前には、突然演奏者の足元に座り込み、絵を描き始めた男を見たこともある。

賑やかというか、はっきり言うとやかましいのだが、演奏者も客も店員も誰も気にしない。それどころか、なぜだか奇妙に心地いい場なのだ。良し悪しは別として、ちょっとでも音を立てようものなら睨まれる、相互監視下にあるようなハコとは対極にある自由空間である。私はここを「解放区」と名付けた。

マイク・ディルーボ、アダム・ラーション、ジョシュ・エヴァンス、サシャ・ペリー、ルディ・ロイストン。今回も何度も足を運び、さらに癖になってしまった。
特にわたしが注目しているプレイヤーはジョシュ・エヴァンスだ。曲のどこからでも再ブーストする勢いがあり、かれのトランペットはメタリックに響く。

Josh Evans Mike Dirubbo Adam Larson

愉しさは尽きない

55 Barという細長いバーもまた特徴的なハコで、少しマッチョな音楽であることが多いのかなという印象だ。今回の収穫は、ハイテク・サックスのダニー・マッキャスリンとハイテク・ドラムスのマーク・ジュリアナ(本当に自分だけで叩いていた!)。そして誕生日パーティーを兼ねたマット・ウィルソン(ドラムス)のバンドに誘われた、中国生まれのブライアン・ツウの才能溢れるサックス。ここの名物オヤジは、ウィルソンがスピーチするたびにかれをこきおろし、バーを爆笑の渦に巻き込んでいた。

Cornelia Street Cafeでは、イングリッド・ラウブロック(サックス)の新バンド「UBATUBA」の披露があった。なんと、ティム・バーンとのツインサックスである。ラウブロックのテナーの音には周囲の環境を包み込むように深い味わいがあり、バーンの強烈に粘っこいアルトと素晴らしい対照をなしていた。そしてここにも、ベン・ガースティン(トロンボーン)が狂騒的な風を吹き込んだ。

日本のレジェンド・穐吉敏子のピアノも、Mezzrow(Smallsの姉妹店なのにこちらは上品)で観ることができた。バド・パウエルを追った彼女が弾いた「Un Poco Loco」には、不覚にも涙腺がゆるんでしまった。一方、Smallsで弾いたサシャ・ペリーは、以前はパウエルのようなピアノを弾いていたはずなのに、今回はセロニアス・モンクのエピゴーネンと化していて、悲しかった。

Village Vanguardでは、カート・ローゼンウィンケル(ギター)の新トリオを観た。予想通りというべきか、かれのみがマニアックに独走した。

数えてみると、6日間で20を超える数のギグに立ち会った。一方、オッキュン・リーとオプスヴィークとのデュオ、ピッツイオコスのドラムス、ジョン・イラバゴンが参加するバリー・アルトシュルのバンド、スティーヴ・リーマンが参加するマット・ブリューワーのバンド、ケヴィン・シェイのバンド「Talibaum!」、リー・コニッツなど、他のギグと時間が重なって涙を呑んだものもあった。ニューヨークは無限の魅力を持つジャズの街なのだ。

Ingrid Laubrock Tim Berne Matt Wilson’s band and pleasant bartender

齊藤 聡(さいとうあきら)
環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。
ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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