☆Niseko-Rossy Pi-Pikoe Music Prize No.036 受賞☆
長谷川冴子 指揮者 生年不詳〜 コンサート・レビュー「ペルゴレージ・フェスタ」


<084> 「二日酔い状態のファジル・サイ」

日本フィルハーモニー交響楽団第622回定期演奏会
2010年7月10日(金) サントリーホール 大ホール
指揮:広上淳一 ピアノ:ファジル・サイ

ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 op.37 (カデンツァ/ファジル・サイ版)
スクリャービン: 交響曲第2番 ハ短調 op.29

赤ら顔でステージに出てきた、メタボなおなかも目立ってきた40さいの兄ちゃんがファジル・サイだった。椅子に座って、重たい荷物を降ろすようにピアノに手をついて客席を見たまま礼をするのは、相当疲れているカンジ。オケが鳴りはじめ、指揮者をピアノから見上げるファジルの風情は、「まあ、この程度の鳴りで、我慢しとくか・・・」というもの、相当に倦んでおるな。ファジルの手によるカデンツァは、ベートーベンの巨大な石柱にポスターカラー色のネバネバゴム塗料を貼りつけているようなもの。

かつて破格なピアノ演奏で耳の度肝を抜いたファジル・サイ、「鬼才!天才!ファジル・サイ!」というコピーだったそう。一度はナマで聴いておきたかったファジル・サイ。なにやらエイベックスのプレス向け興行はファジル・サイと辻井伸行と加古隆カルテットの豪華3点盛りであったそうだから、このところのスケジュールはさぞかし忙しいスター街道なのだろう。

いまのファジル・サイ、いやならピアノ弾くのやめればいいのに。


<085> 「笹久保伸の軽やかさは高橋悠治の軽やかさ」

笹久保伸(ギター) ライブ・イン・ロゴバ

2010年10月22日(金) ロゴバ (千代田区平河町)

メタテーシスU(高橋悠治)1968年作曲
重ね書き(高橋悠治)2010年度委嘱作品
しばられた手の祈り(高橋悠治)1976年作曲(ゲスト:金庸太)
ジョン・ダウランド還る(高橋悠治)1974年作曲(ゲスト:高橋悠治)
〜 休憩 〜
3つのペルー伝承音楽(音源採集、編曲:笹久保 伸)
プリペアドギターの為の3つ(笹久保 伸) 時間とプロセス/蜘蛛の糸/人魚への捧げ物

評判のギタリスト、笹久保伸を聴いてきた。麹町から徒歩2分、平河町ロゴバという家具屋のオープンスペースでのコンサート。ギタリストの目の前で108万円のソファにひっくり返って聴いてきた。ギターをこれくらいの至近距離で、というのは現代ギター社のホール以来だろうな、音がいい!ゲンダイオンガクだとか、インプロの聖地のひとつ埼玉ホール・エッグファーム(懐かしいゆで玉子屋だ)で演奏したとか、このギタリストのことを怖いもの見たさであったけれど、ナチュラルで物怖じしない表現に楽しんだ。

高橋悠治の68年作品、どこかに68年らしい表現の感触があるかと耳をそばだてたが、するすると(たぶん難解な)楽譜が足元に落とされ音は空気に溶けてゆくようだった。

ゲストを迎えてギター2台での「しばられた手の祈り」、悠治さんが朗読で登場する「ジョン・ダウランド還る」も楽しかったなあ。

クラシックのギタリストだと思えない柔らかさ、というんか?褒めてんだか、よくわかんないだろ。

だいたいこの界隈の音楽は、ブリザードが吹き荒れていたり、ずっぽりと足元が底無し沼のようなシャーベットだったり、凍えるところでどう戦うかというものなんだが。強度のヒエラルキーや、技術や見事さの採点基準の共有によって、オリンピックでも観せられているようなギタリストが主流のなか、自作曲の自然な楽しみも好ましい。笹久保の歩む雪原はじつに軽やかだ。


<086> 「素朴だといえば素朴なのか伝統芸能のわざ」

モスクワ・クァルテット 〜グランプリ・コンサート2010〜
2010年11月12日(金) ヤマハホール(銀座)

アレクサンドル・ツィガンコフ ドムラ
ヴァレリー・ザジーギン バラライカ
インナ・シェフチェンコ グースリ&ピアノ
ラリーサ・ゴトリブ ピアノ

ロシア音楽メドレー(カリンカ、カチューシャ、ポルシュカポーレ、ステンカラージン、百万本のバラ 他)
G.ロッシーニ : 「セリビアの理髪店」序曲
P.サラサーテ : ビゼー「カルメン」幻想曲
I.フロロフ : 「ポギーとベス」の主題による幻想曲
N.パガニーニ : ヴェネツィアの謝肉祭 他

銀座に出てヤマハホールのモスクワ・クァルテットを聴いてきた。ばーらー、らいかあー、と、あがた森魚の歌詞をくちずさみながら、バラライカを聴きたかったのだ。エバーハルト・ウエーバーの『Fluid Rustle』でビル・フリーゼルが実にいい風情でチャンチャカ弾いていたバラライカを聴きたかったのだ。

銀座を散歩しながらコンサートに行くのはとても気持ちいい。

ドムラとバラライカを演奏するふたりはロシアの人間国宝に相当する存在だそう。名人芸にはジャンルをこえた共通するにおいがするような気がする。ロシア音楽の独特な音階は、バラライカの音色を通じて、アタマではちょっとやそっとでは分析や納得に至れない、歴史の匂いまでさせているようであった。


<087> 「第3楽章には感動したのだが・・・」

日本フィルハーモニー交響楽団第625回定期演奏会
2010年11月13日(土) サントリーホール 大ホール
指揮: 高関健 

ブルックナー:交響曲第8番(ハース版)

午後2時からのサントリーホール、平和台で地下鉄に乗ると1時8分、ギリギリかと思いきや、7分前にきちんと到着した。ブルックナー第8番ハース版、オーケストラは対向配置、ハープは3台使用、高関健指揮、日フィル、演奏時間約80分、休憩なし。これはなかなかの演奏だったのではないか。

第3楽章がとくに素晴らしかった。ホルンの鳴りもなかなかいい、たぶんもっと上はどこかにあるが、おいらの耳で鳴っていたホルンがある。楽曲の構成の難しさはすごいな、休止してしまって何気に再開するなんてかなりアヴァンギャルドではないかい?オケが揺らめいて、至福な時間が続いたのであった。

第4楽章はいらない。そんなことを言う観客は居ないに違いない。盛り上がって終わらないと気がすまないのか!第3楽章だけ演れ。

この80分の演奏が終わって、まだ残響音が残っているのに、ブラボーといち早く叫ぶ大馬鹿野郎が居ることに大変不愉快になる。こういう行為も、場内アナウンスの注意事項にするわけにはゆかないけれど、おれの近くに座っていたら怒鳴って説教をしてやる!このやろう!ますます第4楽章なぞ要らない!

しかし。師匠は、その第4楽章こそがこの作品の山場だという。


<088> 「逃れられないベートーベンの偉大さが刻印されたブラームス1番」

東京都交響楽団 プロムナードコンサートNo.341
2010年11月20日(土) サントリーホール 大ホール

指揮:エリアフ・インバル
ピアノ:デヴィッド・グレイルザンマー

一柳慧:インタースペース ― 弦楽オーケストラのための
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品 68

一柳作品はなかなか美しいもの。タケミツ・トーンには及ばないものの。息をのんだ9分間。日本の作曲家は、それぞれのざわめくトーンの決め技があるのではないか?そこにスポットをあてたプログラムがあってもいいと思う。

モーツァルトを弾いたグレイルザンマー、そういうプレイをしたいのならジャズのフィールドへ来てみろ、そこでも通用しないから。

ブラームスはなるほどベートーベン第10交響曲と呼ばれるだけある魅力を味わうことができた。本日のメイン・ディッシュ。逃れられないベートベンの偉大さ、なんて感じたことはなかったが。ブラームスのこの作品に、それが刻印されているというのは衝撃だった。


<089> 「オケの響きを透視するように現れた響紋のかごめかごめ」

NHK東京児童合唱団第39回定期演奏会
2010年11月28日(日) 東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアル

T N児が選ぶ日本の歌50選―「みんなのうた」シリーズ第T集 [2010年委嘱初演] 編曲:加藤昌則、上田真樹
演奏:ジュニアクラス、シニアクラス、ユースシンガーズ
U 日本民謡による四つの女声合唱曲  [1965] 編曲:間宮芳生
演奏:ユースシンガーズ
V 児童合唱のためのコンポジションXll「はるかな あしたから」  [1985年委嘱作品] 作曲:間宮芳生
演奏:シニアクラス、ジュニアクラス
W 童声(女声)合唱とオーケストラのための「響紋」 (ピアノ・リダクション版) [1984] 作曲:三善晃
演奏:ジュニアクラス、シニアクラス、ユースシンガーズ
X マリンバと童声合唱のための「かみさまへのてがみ」  [1985] 作詩:谷川俊太郎 作曲:三善晃
演奏:ジュニアクラス
Y 唱歌の四季  [1979年委嘱作品] 編曲:三善晃
演奏:ジュニアクラス、シニアクラス、ユースシンガーズ

三善晃の「響紋」のピアノ3台によるリダクション版に息をのんだ。童謡の「かごめかごめ」、これの不吉な謎については昔荒俣宏の「帝都物語」を読んだときに触れた記憶があるが、その「かごめかごめ」を三善晃が合唱構成してオーケストラとともに配置した傑作が「響紋」である。「うしろの正面だあれ」は歌われない。合唱をになう少年少女たちの顔が、あまたの死者の顔に二重写しになっていた。

間宮芳生の合唱コンポジションにもやられたぜ。いままで気にしていなかった!


<090> 「渋谷・市野・外山のトリオを目撃せよ!」

「王政復古」

2010年11月6日(土) 荻窪ベルベットサン

スガダイロートリオ = スガダイロー(pf) 東保光(cb) 服部マサツグ(dr)
市野元彦(gt) 渋谷毅(pf) 外山明(dr)
Shinpei Ruike 4 Peace Band = 類家心平(tp) ハクエイ・キム(pf) 鈴井孝司(cb) 吉岡大輔(dr)

スガダイロー、CDでは聴いていたが、圧巻なライブに接してその評価にじつに納得する。ベースとタイコの作り出すグルーブが尋常ではなかった。トリオの主導権をリズム隊に渡した場合に、このトリオはどんな音楽を発展させることだろう、ピアニストはどう挑むことだろう、と、わくわく想像しながら聴き進める。それにしてもベースの東保光がいい。なにかとてつもない才能を発見したような気持ちになる。

市野元彦トリオ。浮遊する天才トリオ。すべての音とタイム感覚に必然を感じてしまうような名人芸の域。自然体で無理をしないのね。もう少し渋谷毅のピアノのありようにピントを合わせて聴きたかった。腹八分目。おかわりを言いたくなるあたりがちょうどいいのか。寝るなみんな、世界最前線と同期している感覚がこれなんだぞ。

4ピースバンド。うううむ。力作なコンポジションではあるが、4にんとも演奏力がないぞ。1曲40分以上もある演奏はど根性でつないで完走しただけの駅伝チームのようだ。キム・ハクエイのピアノはCDで聴いて良かった記憶があるけど、何もしていないようだった。タイコの突発連打はただの芸風のようだ。

この企画「王政復古」は、スガダイローが選んだ3バンドが揃ったもの。スガダイローはシーンを引っ張るような豪快な演奏家である。

最盛期の山下洋輔トリオは時代の熱気も背負っていた。その山下トリオの力量80%増量の21世紀版がスガダイロー・トリオであることには疑いはない。どしゃめしゃフリーの作法なり効用は、あるだろうし、その需要もまた。わたしはLPも買ったしライブにも通ったが山下洋輔に感動したことがない。ジャズだとは思っていない。アメリカのミュージシャンをサイドに弾く山下の演奏には何もない。いつだかテレビを観ていたら山下洋輔と坂本龍一がピアノ2台で即興を演っていた、聴けたものではなかった。

スガダイロー・トリオはエキサイトさせる。そのグルーブがキモだ。サックス奏者がいてもいい。ヨーロッパのジャズ・フェスに登場して聴衆を圧倒することだろう。ただ、そこから先をうまく想像することができない。

Niseko-Rossy Pi-Pikoe:1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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