Vol.19 | ポール・ニルセン・ラヴ @ブロッツフェス2011新宿ピットイン
Paal Nilsen-Love @BrotzFest 2011, Pit-Inn Shinjuku
(c) 横井一江 Kazue YOKOI

 今年はブロッツマン年と言っていい年だった。3月に古稀を迎えたので、このフォト・エッセイで取り上げたのだが、その後の主たる動きを追ってみたい。
 ドイツ・ジャズ界に貢献した音楽家に贈られるアルバート・マンゲルスドルフ賞を受賞、ジャズ界では常にアウトサイダー的な存在だったブロッツマンだが、遂にジャズ界の権威も彼を認めたということか。ブロッツマンを追ったドキュメンタリーが制作され、ドイツのジャズ雑誌やオンライン・ジャーナル「ポイント・オブ・デパーチャー」などで特集が組まれた。また、毎年異なったミュージシャンが音楽監督を務めるオーストリア、ヴェルスで開催されるミュージック・アンリミテッド・フェスティヴァルでは音楽監督を務めた。「ロング・ストーリー・ショート」というテーマで、シカゴ・テンテットを始めとするブロッツマンのさまざまなプロジェクト、セッションを中心にプログラミング、日本からも長年共演してきた近藤等則、また佐藤允彦、森山威男、坂田明、豊住芳三郎、大友良英、八木美知依、灰野敬二、本田珠也を招聘した。fukushima projectと題したチャリティ・イベントも企画されていたのは、311以降の日本に対する彼の思いの現れだろう。
 それに先立つ10月にポール・ニルセン・ラヴとフレッド・ロンバーグ・ホルムと共に来日。新宿ピットインで3日間の生誕70周年記念ブロッツフェスが開催された。初日は灰野敬二と大友良英、2日目はジム・オルークと八木美知依、3日目は坂田明と佐藤允彦をゲストに行われ、それ以外にも横濱エアジンや稲毛キャンディ、アケタの店でのセッションも行われ、さながら「ロング・ストーリー・ショート」のプレ・イベントのようだった。

 その時、ブロッツマンと共に来日したポール・ニルセン・ラヴが、以前にも増してパワーアップ、ひとまわりスケールが大きくなったように感じた。ブロッツマンについてはVol.12で取り上げたので、ニルセン・ラヴのことを少し書こう。
 2005年の初来日で日本でもかなりの注目を集めたノルウェーのグループ、アトミック。そのメンバーのひとりでもあるドラマー、ポール・ニルセン・ラヴの逸材ぶりが広く知られるようになったのもその来日以来ではないだろうか。私がその非凡さを強く感じたのは、ペーター・ブロッツマン、八木美知依のトリオに、びっくりゲストに坂田明が参加した2007年の新宿ピットインのライヴにおいてだった。その日はノルウェーのコングスベルグ・ジャズ・フェスティヴァルで初共演しただけのトリオだったが、その後もヨーロッパや日本でツアーを行うことになることを予感させるような未知の可能性を大きく感じさせる演奏だったことが記憶に残っている。その後もアトミックあるいはザ・シング、そしてブロッツマンなどと度々来日を重ねたニルセン・ラヴは、毎回ステップアップ、進化しているようでそれが彼の演奏を見るひとつの楽しみとなっていったのだ。
 彼が度々来日するようになったのとほぼ時を同じくして、ヨーロッパの第一世代のミュージシャンからもその名前をちらほら聞くようになった。北欧のミュージシャンはドイツなどのフェスティヴァルにもいろいろ出演しているが、ひとりのインプロヴァイザーとして個性や音楽性を問わず広く評価されている人はそう多くはないと思う。いわんや世代を超えたミュージシャンから「彼はいいドラマーだね」と言われる人は滅多にいない。

 

アトミックで演奏し、ブロッツマンともジョン・ブッチャーとも共演しているニルセン・ラヴ。その柔軟性に富んだアプローチは、両親が経営していたジャズクラブで子供時代からさまざまなミュージシャンに出会ったことが大きいのだろう。最初に好きなったドラマーがアート・ブレイキーで、トニー・オクスレーやジョン・スティーブンスを聴いていたコドモがいたとは。考えてみれば、子供は名前やジャンルで音楽を聴かない。このような少年時代が今の彼のベースとなっているのだろう。住んでいる国の違いからか、エルヴィン・ジョーンズを知ったのは随分後になってからだと言っていたのが興味深い。ミュージシャンは音楽ファンでもあるわけで、来日中ディスクユニオンで富樫雅彦と佐藤允彦の共演盤を見つけたと嬉しそうに言うではないか。ジャズオタク顔負けである。
 ブロッツマンのようにムーヴメントの真っ只中で音楽的に新局面を拓いたミュージシャンと違って、ニルセン・ラヴは幅広い音楽を聴いて育ち、それらから多くを学び、自身の音楽に取り込んできた。彼の引き出しの中に持っているものの多様性が、音楽性の異なるミュージシャンとも共演可能な選択肢を与えているのだろう。さまざまな音楽活動も彼の中で繋がっていて、どこかにフィードバックされていくに違いない。まだ30代のニルセン・ラヴだけに、今後の活動もまた楽しみである。

 と、ここまで書いたところに、ニルセン・ラヴから彼が中心になって毎年1月に開催している即興音楽のフェスティヴァル、オール・イアーズの来年のプログラムへのリンクを貼ったお知らせメールが飛んできた。来年でもう11回とは。バリー・ガイ、エヴァン・パーカー、キース・ロウといった大ベテランに、トーマス・レーン&マーカス・シュミックラー、地元のミュージシャンなのか知らない名前も幾つもある。即興音楽といってもフリージャズ、インプロ、ノイズ、エレクトロニクスがバランスよくプログラミングされている。
 フェスティヴァルを始めたわけを聞いたところ、モルド、コングスベルグなどのジャズ祭では即興音楽は1、2ステージしかない。だったら、自分達でやろうと始めたという。フリージャズというと昔の名前で出ていますといった感がある日本、当然聴く人の平均年齢も高く、またインプロとなると特定のファン層以外には馴染みがない。ところが、彼のフェスティヴァルには若い人も多く来るという。60年代のフリー・ムーヴメント以降、ヨーロッパのミュージシャンは演奏するだけではなく、自ら企画・制作に関わってきた。ブロッツマン達がそれを始めた頃は、音楽そのものだけではなく、その行為そのものがアヴァンギャルドだった。今ではそれは珍しいことではないが、継続することは大変なことである。だが、それはひとつの推進力となっていく。オーガナイザーに彼のような人物がいれば、周囲も動き、若い聴衆をも引きつけることが出来るのだろうか。ニルセン・ラヴは言う。「もうちょっと聴衆を信じるべきだよ」と。

*Reflection of Music Vol.12 ペーター・ブロッツマン@新宿ピットイン2008
http://www.jazztokyo.com/column/reflection/v12_index.html

横井一江:北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。趣味は料理。

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