Vol.22 | ルイ・スクラヴィス@メールス・ジャズ祭2000
Louis Sclavis @Moers Festival 2000
(C)2012 横井一江 Kazue Yokoi

 ルイ・スクラヴィスのステージを最初に観たのは1988年のメールス・ジャズ祭。彼がNATOから出していたアルバムは聴いていたものの、強い印象が残っていたわけではなかったので、特に期待していたグループではなかった。だが、彼のクインテットの演奏は、出演していた他のグループとは違った風を運んできた。メンバーは、ドミニク・ピファレリ(vln)、フランソワ・ローラン(p)、ブルーノ・シュヴィヨン(b)、クリスチャン・ヴィレ(ds)。たぶん、重機関車のようなフリー・ミュージックが発展したドイツで、しかも前衛ジャズを紹介するということで知られたジャズ祭で観たということもあるだろう。スクラヴィスのクインテットの演奏は色彩豊かで、その軽やかさが新鮮だった。
 時代の感性が変化していたということもある。その年のメールス・ジャズ祭で強烈なインパクトを与えたのはドゥドゥ・ニジャエ・ローズだったのだが、その次ぐらいに記憶に残ったステージだった。4日間で20以上のステージを観るわけだから、印象に残るものとそうでないものがあることは事実。メールスで印象に残ったミュージシャンは、当時まだあまり知られなくても皆その後活躍している。驚いたことに翌年も彼はメールス・ジャズ祭に登場した。異なったプロジェクトではあったが、二年続けて出演するのは例外中の例外で、「89年のワイルド・カード」と音楽監督のブーカルト・ヘネン自身が書いていたくらいである。彼もスクラヴィスに「なにか」を感じたのではないだろうか。88年にジャンゴ・ラインハルト賞を受賞し、ヨーロッパのジャズ・即興音楽シーンで大きく注目されるようになったのもこの頃だろう。その年の9月には初来日している。
 メールスでもベルリンでもその後何度もスクラヴィスを観る機会があり、それぞれ違うプロジェクトで観ることが出来たのは幸運だった。たぶん最も多くそのステージを観ている海外ミュージシャンのひとりだろう。不思議なことに日本以外で観たのはフランスではなくドイツ。フランスとは嗜好が異なるドイツの、しかも著名なフェスティヴァルで、聴衆も評論家からも高い評価を得ていたのは、時代に即した音楽的な魅力があったからに他ならない。彼の主要なプロジェクトはECMで続けてリリースされている。この写真を撮った2000年のメールス・ジャズ祭ではニュー・クインテットで演奏、イマジナティヴな中にもインテクレチュアルな美しさを持ったサウンドが印象的だった。そのクインテットでは後に『ラフロントマン・デ・プレタンダン』をリリースしている。

 

 今年に入って、スクラヴィスは新たなプロジェクト、アトラス・トリオでECMから『Sources』をリリースした。彼は若いが才能のあるミュージシャンを抜擢し、新たな構想で上手くその才を生すことに長けている。彼のバンドで何人ものこれはというミュージシャンを知ることが出来た。『ナポリの壁』のメデリック・コリニョン(pocket trumpet, voice, per, electronics)、ヴァンサン・クルトワ(cello)、ハッセ・プールセン(g)がそうだったし、『ロスト・オン・ザ・ウェイ』でもマクシム・デルピエール(g)、オリヴィエ・レテ(b)、マテュー・メツガー(ss,as)もそうだった。『ロスト・オン・ザ・ウェイ』がリリースされた頃、もう「ナポリの壁」はやらないのかと聴いたことがある。曰く、みんな忙しくてなかなか日程を合わせられないのだよと笑っていた。それはともかく、今までの共演者とは違うメンバーでの新たな編成のプロジェクトを立ち上げ、そのために曲を書くことで、スクラヴィス自身も新たな刺激を得ているに違いない。バンジャマン・ムッセー(p, fender rhodes, key)、ジル・コロラド(g)を起用したアトラス・トリオは、これまでにない楽器編成のトリオだ。これはスクラヴィスにとってもちょっとした冒険だったろう。彼のプロジェクトでピアノが入っているのも随分と久しぶりだ。これは高瀬アキとのデュオでピアノとの共演の可能性を再び感じたのではないかと想像する。トリオという小さい編成なのでチェンバー・ミュージックかと思ったら、ミニマルなパターンがあり、ポリリズムあり、多面体のように変化していくところが面白い。ムッセーとコロラドが持つフリージャズ世代にはないジャンルにとらわれない感性とスクラヴィスの上手すぎるバス・クラリネット/クラリネットがレイヤーのように重なりあう。そんなサウンドを聴きつつ、スクラヴィスのこれまでのキャリアを思い起こしていたら、音の旅人という言葉がふと出てきた。
 録音ではCDとして鑑賞するのにふさわしいカタチで作品と即興が完璧なバランスを保っているが、これまで観てきたプロジェクトでは全てそうだったように、ライヴではもっと自由に即興演奏が展開して、サウンドが広がっていくのだろう。このトリオを早くライヴで観たいものだ。

横井一江:北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。趣味は料理。

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