
ソプラノ・サックスといえば、ストレートなクラリネットのような形状のものがスタンダードであるが、なかなかこなすのが難しいときく。シドニー・ベシェにはあまりはまったことはないけれども、ジョン・コルトレーンの『マイ・フェイバリット・シングス』(Atlantic) には、すっかり取りつかれてしまった。あの衝撃に打ちのめされたソニー・ロリンズが『ネクスト・アルバム』(Milestone)
で初めてソプラノ・サックスを吹くまで一体何年かかったのだろう?
そのソプラノ・サックス1本に1950年頃から2004年に死去するまで、ずうっとこだわり続けて血肉化したのが、スティーヴ・レイシーである。レイシーの生と初めて出会ったのは、75年6月、東京である。クロスオーバー〜フュージョンなるものが、ジャズ・シーンを席巻し、“時代はさらに寒く”へと、まるで転がる石っころのように向かっていく。その閉塞情況は、未だ出口なしだと思われる。
正直いって、ぼくは、レイシーの孤高のソプラノ・ソロが殆ど唯一の突破口だと実感する。
レイシーは、34年ニューヨーク生まれ。“現代のシドニー・ベシェ”として、ディキシー・シーンで、名声を独り占めする。50年代中葉に入り、ボストンのシェリンガー音楽院(バークリーの前身です)に学び、モダン・ジャズに開眼。レスター・ヤングに多大な影響を受けたといわれている。
ニューヨークに帰ったレイシーは、セシル・テイラー、ギル・エヴァンスと共演。60年代に入るや、セロニアス・モンク、ジミー・ジュフリー、ラズウェル・ラッドらと次々に共演。たちまちのうちに、オーネット・コールマンのフリーの方法を自らのものとしてしまう。“現代のシドニー・ベシェ”が、“ソプラノのオーネット・コールマン”と呼ばれるのに、ほんの10年ばかりしか必要としなかったわけ。
63年、レイシーはヨーロッパに渡り、あの戦慄の名作『森と動物園』(GTA)をものにする。以来、根拠地=ホームを、ニューヨークからパリに移す。
75年のジャズ、そのありどころを真摯に見すえる者は、ジャズが「個的なもの」から「個」へのベクトルが強靭に働きかけていることをいやというほど知り尽くしている。それはコンテンポラリーな時代意識そのものである。
集団即興演奏という劇的なフリーの方法を積み重ねた後に、試行されるのは、個としてのインプロヴァイズド・ミュージックである。その大きなテーマは、ポスト・フリーであり、情況としては、ポスト・ヴェトナムととても奇妙に暗号する。
どういうわけか、銀座<十字屋>で行われたスティーヴ・レイシーの記者会見__。「ヨーロッパには、アメリカにはないフリーの基盤がある」と、たんたんと言い切る。富樫雅彦(perc)と、吉沢元治(b)がシラ〜っと同席。同メンバーに、佐藤允彦(p)、池田芳夫(b)、翠川敬基(cel)らが加わり、日本コロムビアでレコーディング。
未だにポスト・モダンの位相にすらない日本のジャズ・シーンにあって、ポスト・フリーなんて関係ねえよ、でしょうか?
ところで、最近、カーブド・ソプラノと通称されるカワいい楽器を手にする日本のミュージシャンが増えている。カーブド〜は、柳沢楽器に在籍していた金剛進(ts)が発明、製作したすぐれもの。習得するのが、ものすごく楽なのだそう。ポスト・モダン〜ポスト・フリー〜、そしてポスト・コンテンポラリーには、最もふさわしい楽器であるかも知れない。
それにしても、スティーヴ・レイシーを超えるソプラノ・サックス奏者は未だに現出していない。
* 杉田誠一氏の個展『JAZZ meets杉田誠一』が、「横濱ジャズ・プロムナード 2010」の<特別展示>として、10月9日(土)、10日(日)ランドマークホール・ホワイエで開催される。
入場は「プロムナード」のフリーパス(バッジ)購入者にのみ限られる。
キュレーターにJazzTokyoのアート・ディレクター大江旅人を迎え、新開発の特殊プリント用紙を使った特大のプリントも展示される。
なお、希望者には額装プリントも頒布の予定。
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杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>
♪ Live Information
| 9/18 | Sat | 岡 恵美(p) 仲石祐介(b) |
| 19 | Sun | 小島伸子(vo) 金井英人(b) 田村 博(p) JUNマシオ(MC,perc) |
| 24 | Fri | 佐藤綾音(as) |
| 25 | Sat | 金剛 進(ts) 林あけみ(p) |
| 26 | Sun | ジャム・セッション:名取俊彦(p) 田富美咲(b) |
| 29 | Wed | Soon Kim(as) 石井康二(b) 宇野光俊(el-b) |
| 30 | Thu | 佐藤綾音(as) |
■ COLUMN: 連載フォト・エッセイ「JAZZ meets 杉田誠一Vol.56スティーヴ・レイシー 1975年6月 東京」/ 「音の見える風景 Chapter7.ミシャ・メンゲルベルク 1985年9月 新宿」望月由美/ 連載フォト・コラム「撮っておきの男たちVol.7高橋悠治」林 喜代種/ 「タガララジオ15 radioTagara 15〜Classic Tracks 89-91」Niseko-Rossy Pi-Pikoe ■[東京JAZZ]特集: INTERVIEW: #84「マティアス・アイクtp」稲岡邦弥 ■[東京JAZZ]特集: LIVE REPORT: #273「東京ジャズ・プレミア・クラブ:オーストラリアン・ジャズ・ウェーブ2010〜マイク・ノック・トリオ」栃久保敬/ #274「<GROOVE>メイシオ・パーカー」高谷秀司/ #275「<GROOVE>マーカス・ミラー with NHK交響楽団」高谷秀司/ #276「<WOMEN IN JAZZ>綾戸智恵 meets ジュニア・マンス・トリオ」栃久保敬/ ■FIVE by FIVE: #722『Cynthia Felton/Come Sunday〜The Music of Duke Ellington』(Felton Entertainment)悠雅彦/ #723『坂田明 trio/チョット ! I’m here』(ダフニア/BRIDGE)望月由美/ #724『カート・ローゼンウィンケル/アワー・シークレット・ワールド』(Song Xジャズ)稲岡邦弥/ #725 『後藤ミホコ/accordionist〜アコーディオニスト』(T’s Records/バウンディ)悠雅彦/ #726『スガダイロー/渋さ知らズを弾く』(CooL FooL/velvetsun)稲岡邦弥
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