Vol.83|
石田幹雄
text by Seiichi SUGITA





 かくも永き不在__。
 「ポスト山下洋輔」と目されているピアニストが、どうして「かくも永き」にわたって出現しないのか? ここでの「山下洋輔」とは、1970年台前葉において、ヨーロッパの「ニュー・ジャズ」シーンを席巻した山下洋輔トリオにおける山下である。
 このユニットの前身が、1969年初頭(と記憶している)、<ピットイン>でデビューしたときは、サックスは坂田明ではなく、中村誠一、ドラムスは同じく森山威男、それから、もうひとり、ベースが入っている。当時ぼくは、<ピットイン>でバイトしてるから、確かである。それ以前は、病気療養のため、約2年ほど演奏活動をしていない。
 そうそう、69年といえば『ジャズ批評』誌から原稿を依頼された年でもある。それから42年後、再び『ジャズ批評』の松坂比呂編集長から原稿を依頼される。編集長は、もともと銀座<オレオ>のママであり、ぼくは<ピットイン>の前は、<オレオ>でバイトしていたことがあるのです。
 2012年1月号の特集「映画音楽とジャズ」において、アンケートに応えて欲しいというのが依頼内容。好きな映画を日・米・欧、各1本ずつあげて、400字以内でコメントをというもの。ぼくの3本はコレ。
『荒野のダッチワイフ』(大和屋竺監督/1967年)
『アメリカの影』(ジョン・カサベテス監督/1960年)
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)
『アメリカの影』の音楽は、チャーリー・ミンガス(b)。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の音楽は、ジョン・ルーリー(as)。『ザン・パラ』をあげた人は、さすがに他に誰もいない。いかに、ジャズという音楽を狭義なジャンル・プロパーとしてとらえているかってこと。
 ジョン・ルーリーは、オーネット・コールマンから多大な影響を受けている。『ザン・パラ』のサントラをぜひ聴いて欲しい。「アンビエント・ジャズ」とでもいうべきか? ひとによっては、「フェイク・ジャズ」なんて呼ぶこともある。サントラには、アルバート・アイラーに対する熱烈なオマージュが収められている。
 『荒野のダッチワイフ』の美術は、わが写真の師匠、朝倉俊博である。そして、音楽は山下洋輔トリオ。メンバーは、吉沢元治(b)、豊住芳三郎(ds)。つまり、山下の沈黙直前の記録というわけです。誰もが、あのパーカッシブなセシル・テイラーをオーバーラップ、想い起こすに違いない。
 何故ならば、聴く側の価値尺度の共通項がたまさかセシル・テイラーだからに他ならない。ところが、69年の山下ユニット以降は、その共通項が、セシル・テイラーから山下、その個的性に移行するのである。
 坂田明もまた、しかりである。それまでユニットを支えてきた竹田和命、中村誠一までは、巨星ジョン・コルトレーンの呪縛からは乗り超えられずにいたのだけれども、価値尺度の共通項が、トレーンから坂田の個的性へと移行するのである。
 それにしても、何故「かくも永き不在」が続くのか? その理由のひとつがここにある。『これならもう何をやってもよいということではないか、ハナモゲラではないか、と不肖山下はその体質上喜んでおります。しかしながら、何をやってもよいというそのことだけでは何も面白くない。そのことを利用して何をやるかが問題なのです。
 ここでもまた先人たちの「言いまわし」がヒントになります。それを学び、いずれは自分自身の「言いまわし」を発見してください』。そう、問題は自分自身の「言いまわし」なのだ。何をかくそう(別にかくす理由は何もないのだけれども)、ぼくはNHK教育テレビ(1998年6月4日〜8月3日)『山下洋輔のジャズの掟(オキテ)』の試聴者のひとりである。引用は、第7回目「あいうえお」 から「ハナモゲラ」へ〜スケール自由自在』からである。ぼくは、ニュー・ジャズ=フリー・ジャズとは、ジャズの「掟」破りのことだと単純に考えていたのだけれども、「掟」破りにもルールや方法があるってこと。とどのつまりが、山下洋輔以降、『自分自身の「言いまわし」を発見する』ことが、なかなか至難のワザだということなのだ。
 そういう意味で、石田幹雄は、その「発見」の最右翼として見られる。
 石田は、北海道大学の出身。西日すらあたらないアパートで暮らしつつ、ジャズ・ピアニストを目指し、上京。セシル・テイラーよりも、セロニアス・モンクをその原点としているように思われる。
 初めて石田の生と出会ったのは、<Bitches Brew for hipsters only>における“纐纈雅代 7Days”(2012年3月)におけるデュオである。もし、石田の生と出会うならば、石田の真後ろの席をリザーブすることをおすすめする。
 石田は、石田自身の何ものでもない「タイム感覚」を持っている。始動からカタストロフィ=劇的終末へ向かうプロセスは、そのままハイ・ブラウな舞踏と対峙しているようである。肉体の部位ひとつひとつの動きが、みずみずしく伝わってくる。筋肉の律動、骨がなめらかながらもきしむ。
 もうこれ以上のカタストロフィーはないという位相に到達するや、ふっと纐纈(as)を見上げるのである。石田の弾くテーマもアドリブも、等しくインプロである。
 ぼくたちは「かくも永き」にわたって、セシル・テイラーを意識しすぎてきたのかも知れない。石田幹雄は、確実に『自分自身の「言いまわし」を発見』したピアニストである。
 ところで、気になる山下洋輔はいま、どこにいるのか? 
 2012年6月23日、24日、7月6日は、ゲストにN響の首席オーボエ奏者、茂木大輔を迎えての「スペシャル・ビッグバンド」。6月30日は、金聖響指揮、東京フィルのもと、ガーシュインの「へ調のコンチェルト」。7月21日は「ジャズ in 芸大」で、人間国宝山本邦山(尺八)と共演する。
 ポスト・山下洋輔は、実のところ、“山下洋輔のいま”にほかならないのかしら。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://hakuraku-bb.tumblr.com/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.facebook.com/Hakuraku.BB
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>


♪ Live Information
open 7:00pm/show 8:00pm

7/02 Mon 大由鬼山(尺八)他
7/03 Tue Morry Burns (mono-synth, cymbals) 他
7/04 Wed 吉野敦子(vo) 永井隆雄(p) 小沢基良(b) 黒崎 隆(ds)
7/05 Thu “モチ・ラボ”後藤輝夫(ts) バナナUG(p) 望月孝(g, perc)
7/06 Fri 須藤秀平(p) 山田晃路(b)
7/07 Sat うめだけんさく(ポエトリー・リーディング)
福田みすず(ポエトリー・リーディング)
金子秀夫(ポエトリー・リーディング)
尾山修一(ts)
7/08 Sun サトウ・アキラ(liquid light) 五十嵐普(as)
7/09 Mon 永井隆雄(p) 小沢基良(b) 黒崎 隆(ds)
7/10 Tue Morry Burns (mono-synth, cymbals) 浅野広太郎(sax)
7/11 Wed 吉野敦子(vo) 鈴木 学(p) 小沢基良(b) 黒崎 隆(ds)
7/12 Thu 大由鬼山(尺八)他
7/13 Fri 土田晴信(org) 南野陽征(p)
7/14 Sat 城田有子(p, vo) 他
7/15 Sun 大由鬼山(尺八) 他
7/16 Mon 鶴川晋司(サクセロ)
7/17 Tue Morry Burns (mono-synth, cymbals)
松本健一(ts) 航(p, vo)
7/18 Wed 堀越理絵(p) 小沢基良(b) 黒崎 隆(ds)
7/19 Thu “TRUBASS” 氷井昆布(tp) 吉良晃一(b)
7/20 Fri ブル松原(vo) 土田晴信(org)
7/21 Sat JIBO(vo) 山見慶子(p) 遠藤光夫(g) JUNマシオ(ds)
7/22 Sun “伽藍〜ドローン”山内勝司(el-b) 井上史朗(el-b)
7/23 Mon Wagane N’diaye Rose(perc) 金剛 督(ts)
7/24 Tue 森 順治(reeds) 金剛 督(ts) 林あけみ(p)
7/25 Wed 大沼志朗(ds) 金剛 督(ts) 林あけみ(p)
7/26 Thu 児玉 朗(朗読) 西本朝子(朗読) 金剛 督(ts) 林あけみ(p)
7/27 Fri Neil Dtalmaker(tp) 金剛 督(ts) 林あけみ(p)
7/28 Sat 角田 健(ds) 金剛 督(ts) 林あけみ(p)
7/29 Sun 竹内 直(ts,fl,b-cl) 金剛 督(ts) 林あけみ(p)
7/31 Tue Morry Burns (mono-synth, cymbals) 国際オバケ連合

問)Btches Brew 090-8343-5621(杉田)
http://hakuraku-bb.tumblr.com/
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COLUMN
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