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福島恵一さんの連続レクチャー「耳の枠はずし(■http://miminowakuhazushi.dtiblog.com/blog-entry-18.html)」第2回を聴いて、耳のストレッチにもなったのであろうか、独り部屋に戻ってからも耳が遠近の微細なざわめき音を拾ってくる。遠くの救急車のサイレン、アパートの向こうの田柄通りを走る車のアスファルトのひびき、台所の換気扇、PCの静かな唸り、耳の中で鳴っている微小な高音。

福島さんが「フリー・ミュージックのハードコア」と位置付けている選曲(文末参照)、そこで展開される言説とプロジェクタで提示される画像によって耳が拡張するような体験になっている。

おれのベイリー初体験はECM1005番だ。最初はふざけてるのかと思った。演奏者が弾きたい即興、弾ける即興、演奏者を越える即興、国別、レーベル別、サーキット別、組み合わせ別、会場別、コンディション別。匂いと色彩の好みだけで即興のLPやCDを聴いてきたおいらには、とても勉強になるレクチャーだ。次回は4月25日、ドネダの旅路を聴く(■http://miminowakuhazushi.dtiblog.com/)


画像はアフターアワーズで井の頭公園上空に出現した最晩年のデレク・ベイリー。貴重な映像だ。
ウルトラマン世代には人生をつらぬく至福の幻影である。

おいらが「あれだね、ベイリーの死因は運動ニューロン疾患ていうけど、この奏法にして、この死因だよなー」と言うと、すかさず福島さんは「そ、そんな大リーグボール3号ではないんですから」と、会場を沸かす突っ込みの絶妙の冴え、会話においても天性のインプロヴァイザーぶりを示した。

レクチャーにおける、プリミティブとヨーロッパの成立、という文明論のスケールを持つおはなしについてはぜひともまたテキストなり何らかのかたちで触れたいものです。

吉祥寺カフェズミの店主とおやすみなさいをした翌朝に目黒区八雲図書館に行き、美術とか美学のコーナーを見ていたら懐かしいヨーゼフ・ボイスの来日記録集があって、生活と労働に芸術を持ち込んだおいらはその場あたりの情熱に従うばかりの日々を重ねたのはおまえのせいだと不服をボイスの写真に述べると、ボイスの横にカフェズミの店主が写っていたのだった。あ、おはようございます、泉さん。なんでもないです。

だしぬけに本を2冊紹介。

高校生の次男がガールフレンドといちゃいちゃ話したケータイ代でもって破産寸前、さらなる家賃滞納、春からOLになる長女にすでに初年度から年収が下回ることが確定的である、負け組放蕩おやじである小生にとって。こしひかり5キログラムより高い日本のCD、って、どうなのよ。

ほんとなら今ごろ、ポール・モチアンのクリス・ポッター(!)とのトリオECM新譜、とか、リー・コニッツのヴィレッジヴァンガードライブ盤、とか、まさに誰もが待ち望んだジョン・ブライオンがプロデュースのブラッド・メルドーの2枚組、とか、なんとヘイデンとジャレットのデュオECM盤、とか、ひっくるめてレビューして盛りあがりたいところ、平成22年4月、げ!スティーブ・ティベッツがECM新譜を出している!おお、トーマス・ストローネンがフェネスとモルヴァルとバラミーと組んでECM新譜を出している!だから言っただろう、ストローネンは特別な才能があると(■http://www.enpitu.ne.jp/usr/bin/day?id=7590&pg=20071119)・・・。

買うならすべてだ、買わないなら一切買うな、買った場合は今月の食費が無くなる、吉祥寺までの往復交通費すら痛い、毎日やめられないコーラと缶コーヒーとロングピース、日々の生きがいは晴れた午前中のせんたくもの干し、おネエちゃんにたかることもままならぬ。とても哀しい。空を見上げてふと歴史を思う。なぜか、ふとロシアを思う。じゃがいもとパンと情熱と合唱しかない労農ロシア、に、今こそ共感を持って読書の旅に出る。


ボリース・ピリニャーク著『機械と狼』川端香男里・工藤 正廣・共訳(未知谷■http://www.michitani.com/books/ISBN978-4-89642-290-0.html) 2010/01刊行

裏表紙には斜めの文字で「ロシアよ、左に!ロシアよ、前進!ロシアよ、足!全速力で進め、ロッシーアー!!」と。ロシアの冬は、おいらの故郷北海道なんてモンダイにならないほど寒いはずだ。行ったことないけど。おれのおじさんは幼少時に祖父に連れられて樺太まで出稼ぎに行ったときに不注意で凍傷を悪くして片足を切断して大人になって福祉の仕事で坂本九と行動をともにしたらしいがああいうひとはかくかくしかじかうらおもてのあるものでときかされて育ったおいらはとても上を向いて歩くような気になれない。おれのおやじは職場の女性の待遇改善に武士道を燃やして60年代から左翼運動に邁進している。労農ロシアの合唱はコミュニズムと同じものかもしれない。ドストエフスキーは読むのに時間がかかるけど、このピリニャークはポストモダンなフリー・ジャズを読むようだ。田中角栄が日中国交回復の余勢をかって日ソ共同声明に調印した73年、平行して角栄は東大に露文の大学院を鶴の一声で作り、「20世紀のロシア小説」全8巻(白水社)に収められるかたちでこのピリニャークの翻訳はなされた。ピリニャークは26年に来日、日本の作家たちとの交流、「色好みの彼は宮本百合子を誘惑するゴシップも」好きずきだな!、37年には二度にわたる来日にスパイ容疑がかけられ逮捕、翌年に銃殺刑となった。いのちがけだなピリニャーク。


モードリス・エクスタインズ著『春の祭典――第一次世界大戦とモダン・エイジの誕生(新版)』金利光・訳(みすず書房■http://www.msz.co.jp/book/detail/07503.html) 2009/12/18刊行

踊り子が首を傾げるポーズは何かの写真で見たことがあった。ストラヴィンスキーの『春の祭典』、、一度は生で聴いておかないと、と、東京芸術劇場に足を運んだのは最近だ。CDではゲルギエフ指揮のに興奮していた。ゲルギエフは、『春の祭典』の革命と熱狂、を、描いていたのだった。その熱狂は、第一次世界大戦にもんどり打ってなだれ込んでゆくヨーロッパの諸国民的な一体感の熱狂と同じものだ。輝く未来。ちなみにワイマール共和国の成立とユダヤ人の歴史への登場と迫害開始の側面は大澤武男著『ユダヤ人 最後の楽園――ワイマール共和国の光と影』(講談社現代新書)がおすすめ。ノーニューヨークもサージェントペパーズもビッチェズブリューもすごいんだが、世界戦争を告げるような首を傾げる踊り子のポーズ、ストラヴィンスキーなのだ、ロシアなのだ、革命なのだ、モダンが始動したのだ、そのすごさに圧倒される。それにしても、第一次世界大戦、どの国の民衆もみんなで熱中した戦争で、こんなにもリアルに死んでゆく戦争だったのに、ヨーロッパ人もけっこうあほやな!


<track 026>
Beethoven : Piano Sonata No.32 in C minor, OP.111 Adajio molto semplice e cantabile (18:01) / Norie Takahashi from 『Beethoven Piano Sonata No.8,21,24&32』 (Live Notes) 2009

晩年のベートーヴェンが行き着いた32番、て、こんな世界なのか。深遠とか壮大とか言われてるが、なんというか十牛図の最後に来たような。老境の達人が児戯めいた発想を自在につなげた、とも違うか・・・。おれはこのCD、ベートーヴェンのピアノソナタが4つ入った新譜として耳にした。はじめの2回は、柔らかい解釈の演奏だな、と、聴いていた。で、最後に収められた32番だけ、別格の表情を見せるもので、32番の第二楽章だけよく聴いて冬を過ごしたのだった。先週、ライナー解説文をはじめて目を通して、このピアニストは05年の第1回ボン国際ベートヴェン・コンクールで2位になり、この32番演奏に審査したシプリアン・カツァリス、このひとも世界的なピアニストらしい、が、これまで聴いた32番で最高の演奏、と絶賛したのだそうだ・・・。格付けの定まっていないコンクールだし、カツァリスのことも知らんし、鵜呑みにはできねえが。おお。そうだよな。というか、それでいいのか?

ふと、一色まことの漫画『ピアノの森』を連想する。楽譜をカンペキに弾いたり、強烈な個性で楽曲を料理しきったり、プロのスターとはそういうものではあるけれども、それらを越えたところで鳴ってしまう音楽、そういう演奏を手に入れる演奏家がまれにいる。

高橋礼恵(たかはしのりえ)の32番アダージョは、演奏者が消えてしまうような、記された音楽はこういう世界だったか、と、聴く意識が現実から浮遊する奇跡の演奏だ。

32番をずいぶん耳にしてから、CD全体を聴きなおしてみると、なるほどこういう演奏だったかとすべてのピアノタッチと緩急の必然が味わえる体験へと変容した。音楽はやはり不思議だ。聴き終えるとジャケの高島の笑みがモナリザに見えてきた。なんともお恥ずかしい形容ですがに。こないだ偶然レコ芸の評でこの盤が準になっているのを見たけど、あのねえ、『ピアノの森』を読めと言いたい。

いま調べてみたら彼女は故園田高弘、ゲルバー、H・シフ、F=ディスカウら錚々たる名手に薫陶を受けたとあった(■http://www.ne.jp/asahi/pianist/norie-takahashi/osirase200982.htm)。それぞれの名人たちだ。



<track 027>
joe-pye weed (R.Garcia) / Rob Garcia 4 from 『perennial』 (bjurecords) 2009 Noah Preminger (tenor saxophone), Dan Tepfer (piano), Chris Lightcap (bass), Rob Garcia (drums).

かー。1曲目。まさにポスト・マーク・ターナー、と、言えるだろう。バホバホグフウ系の、息が洩れてるようなUS5のジョー・ロヴァーノにも感じた語り口・・・、たまんねえな。ことに、0分40秒目からのフレーズは、ピアノの響きと並ぶせいだろう、アルトとテナーがハモっているようなサウンドに聴こえてしまう、これは技法だろ、分身の術みたいな。すごい発明を耳にしたような気がしてくらくらする。ターナー〜ローゼンウィンケルにも響きの併走技があるように思えるし。ベースはクリス・ライトキャップ、用心棒ギターのジョー・モリス(最近はベーシスト)やピュアなアルトのロブ・ブラウンのリーダー作でおいらにはお馴染み、おやおや03年にはトニー・マラビーとビル・マケンリーの2管(超重要なふたりじゃないか!)を従えたリーダー作まで出していたのか・・・・。

このサックス奏者はNoah Premingerノア・プレミンガー(■http://www.noahpreminger.com/)、サイトをチェックすると09年のデビュー・リーダー作が新人賞総なめ状態である。・・・ミュージシャンをたどると何枚もの購入切望盤が浮上する。・・・日本銀行券がCD交換券にしか見えなくなる実にあぶない兆候だ。



<track 028>
On The Alamo / Stan Getz Quartet from 『The Complete Roost Session』 (1950-1952, Roost)
Stan Getz(ts) Al Haig(p) Tommy Potter(b) Roy Haynes(ds)

ああ、だめだ。そんなサックスを聴いてしまったら、「オンジアラモ」の音色を堪能したくなる。このトラックだけが異様にいい。最初に聴いたときからたましい抜かれた。サックスの音色と音圧とトーンが、ふぁふうふふうー、と、聴くだけで即座に腰がへなへなになりしっこがちびる寸前の切なさにまで至る。運転中に聴くのは危険だ。クール・ジャズとは理知的であることだが、この、ダンディな若い白人男性が甘いトーンで気弱な告白をするような、このトラックだけの特別なかんじ・・・。いとしい彼女への編集CDRの冒頭に入れるのは必殺だ、もとい、反則だ。

「ジャズ世界遺産トラック」の第二回目はこれにしよう!予定ではなかったが。

このサイト「Minha Saudade」(■http://hira-akita.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/index.html)では、このセッションは「評論家の粟村政昭によって編集されたアルバムで、10 インチ盤や 12 インチ盤の Split Kick に収録されていた曲に加えて、SP でしか発売されていなかった音源なども可能なかぎり集めたもの」と紹介されている。おお、70年代ECMの守護神・久保田高司さんや村上春樹さんの言葉も必読だ。

粟村政昭でググるとSJ時代の岩波洋三さんとの確執が書かれてた(■http://www.geocities.jp/bluespirits4196/konoitimai9.html)。ファラオ・サンダースの『カーマ』か。あのだらだらした感じ、おれは好きだったぞ、たしか。



<track 029>
fouilles & rongement / Pascal Battus - Christine Sehnaoui Abdelnour from 『ichnites』 (potlatch) 2010

さて、大西洋を越えて欧州即興ワールドから1曲。

フランスのポトラッチから届いた新譜に耳が釘付けになる。森の中で白抜き図像化した動物たち、というジャケ。おれ好みのざわざわと生命の息吹や明滅する宇宙を感じさせる即興な気がする。楽器構成を見ずに聴く。プシュー、カタカタカタ、ブブブ、ギ、スー。ずっと反応しあっている、という点では即興のオールド・スタイルではあるけれども、反応の良さ、これは強い即興の誇示というより室内楽のやり取りを思わせるものである、そしてサックス奏者の高い技能、それから選択しあう音色の感触が一定範囲に収まっているように予想される心地よさ、というものがある。

アルトサックス奏者と「surfaces rotatives」奏者のクレジット。ギターとマイクロフォンとオブジェクトとエレクトロニクスで切れのいい高音とかを出しているらしい。

「耳の枠はずし」第1回ではデレク・ベイリーの変遷を含めての選曲の中で、ことごとく00年代以降のものに感応しなかったおいらの耳・・・。ただし、終盤でかかった2曲、ジョン・ブッチャー(サックス奏者)のソロ、ロードリ・デイヴィス(ハープ奏者)のソロ、には、これは独奏者であるという前提が揺らぐほど良かった。密度と強度。

おいらにとっての即興聴取の旅は、ミシェル・ドネダ〜齋藤徹の『春の旅』(2002)を至高点として、以降ほとんど興味が持てなくなってしまっていた。ポトラッチ・レーベルは寡作ながら血の味のする即興を感じさせるレーベルで、つぶさに聴いてはいるが、中村としまるの盤(■http://www.jazztokyo.com/newdisc/456/guionnet.html)、このレビュー文、なにげにおれは気に入ってる、だけは良かったかな。横井一江さんがほかの中村としまる盤レビュー(■http://www.jazztokyo.com/newdisc/349/doerner.html)で触れているペーター・ニクラス・ウィルソンの講演「即興音楽の新たなパラダイム」も気になったままだ。ポトラッチ、空振りが続いていた、と、アンドレアノイマンとアネッタグラブスの『Phosphor』01年には感動していたが、09年の『Phosphor II』は聴くなり、まだそんなこと演ってんの?とそのままトイレ前のゴミ箱に捨ててた、そんな状態であった。「耳の枠はずし」レクチャーで、耳が戻ってきたのであろうか。

このCDが気持ちいいのには理由があるのだろうと思う。密度と強度と反応の良さのある即興、おれの好みはそれではないのかもしれない。ミシェル・ドネダも屋外に出てからが特別に好きだ。エヴァン・パーカーのエレクトロアコースティックアンサンブル(来日公演はメンバーが揃っていないボロボロなものだった・・・)だって、ロンドンにいる若い女の子が「ライブ聴きました!目のたまの裏側をざわざわとくりくりされているような気持ちよさでしたよ」と報告を受ける、その、生命感みたいなものが好きだ。

このポトラッチの新譜について、カフェズミで即興に詳しいアナトミア船長が「クリスティーヌは美人ですよ」「ほんとに美人なんですよ」「美人ですからねえ」と3度耳元でささやく。いや、おれはインフォメーションのない状態で即興を聴くんです!このサックス奏者の息のコントロールはじつに素晴らしいもので・・・、えっ・・・これ、若い女性の息なの?・・・美人なの?・・・。び、美人の息なの?



<track 029>
The Greatest Living Englishman / David Sylvian from 『Manafon』 (samadhisound) 2009

昨年の『マナフォン』、若林恵さんは年間ベストに挙げ(■http://www.jazztokyo.com/best_cd_2009/cd2009.html)、シルヴィアンの「ヴァージン・レコードと契約していたときよりも、自主レーベルで制作している今のほうが、実は収入が多いんだ」という発言を紹介している。そうなのかー。だけど、6年も新譜を出さないで遊ばれるのも、な!

前作『Blemish』ではデレク・ベイリーが3トラック、クリスチャン・フェネスが1トラック入っているだけで、声とサウンドの対立関係は1:1でじつにすっきりしているんだが、『マナフォン』は日本勢・ヨーロッパ勢の10にんくらいの即興演奏家がトラックごとに5・6にんサウンドを担っているから、ざわざわ次々音が到来する様相で、しかも非常にサービス精神旺盛な即興演奏を奏でているもの、とても狭い意識での即興活動にも聴こえるし、デヴィッドとの声との対立関係を見ると、即興演奏がせせこましい地にしかなっていない。なればそこはノイズの審美で受信せざるを得ないことに、なる。ということになると、ノイズの耳でセンスがいいのはやはり日本勢なのであった。ノイズの「間の美学」は日本のものだ。

この曲が格別にいい、と、思ったら、サウンドは秋山徹次、中村としまる、サチコM、大友良英、ジョン・ティルバリーによるもの。待てよ、ティルバリー、居るか?居ないと思うな。ラストでピアノをポロポロ弾いてるのがそうか。この日本勢4にんとシルヴィアンだけで良かったんじゃないか?おや、作曲者のクレジットは日本勢4にんとシルヴィアンだけになってた。



<track 031>
Blemish / David Sylvian from 『Blemish』 (samadhisound) 2003

いまだにシルヴァイアンの冒頭、「I found ・・・」が耳に鳴る。この作品は静寂との対話が基になっている。これに比べるとやっぱやかましいぞ、マナフォン、前作をはるかに上回る衝撃的な作品(日本盤コピー)なわけないだろ!

そういえば『Blemish』を聴いて「デヴィッド・シルヴィアンはグローバリゼーションに加担する(■http://homepage3.nifty.com/musicircus/rova_n/rova_r04.htm)」を書いたけど、おまえ何考えてんだ?意味わかんねーよ、と6年前の自分に言いたいが、ジェジェクの引用はいいな。タオの倫理とグローバル資本主義の倫理、か。そういえばそうなのだ。なむー。このコラム、タガララジオはおれの耳のエレクトロパレードに過ぎないじゃねえか。



<track 032>
The River あの川 / 小沢健二 from 『Ecology Of Everyday Life 毎日の環境学』 (EMI Music Japan) 2006

1曲目のこのトラックには、『ライフ』の1曲目「愛し愛されて生きるのさ」のグルーブが響いている。

”2006年3月8日、『Eclectic』以来約4年ぶりとなるオリジナル・アルバムとして、全曲ボーカルレスの『毎日の環境学: Ecology Of Everyday Life』をリリース。エレクトロニカ、クラブ・ジャズ、ラウンジ・ミュージック、インストゥルメンタルR&B、アンビエントといったジャンルに分類される作風。参加ミュージシャンは、Vincent Chancey、Marty Ehrich、Erik Friedlander、Aaron Heick、Steve Kahn、Steve Nelson、Adam Rogers、Benjamin Love、Kenny Seymourなどのジャズミュージシャンのほか、、Mike Hampton(ファンカデリック)等のメンバーが名を連ねる。” (ウィキペディア)

ヴィンセント・チャンシーはサン・ラ、レスター・ボウイ、カーラ・ブレイで吹いたチューバだし、マーティ・アーリックはTzadikやPALMETTOでリーダー作(なんや、おもろそなのがぎょうさん!■http://diskunion.net/progre/ct/list/0/3007)を出すマイラ・メルフォードとデュオもするサックス、なぜにかギタリスト、スティーヴ・カーン、スティーヴ・ネルソンはデイヴ・ホランドのグループの中核、アダム・ロジャースはマイケル・ブレッカーやクリス・ポッターと共演するレベルのギター、と、なかなかのミュージシャンたち。

小沢健二は歌わない、インストアルバムということで、売り上げは振るわなかったし、おれのまわりのジャズファンからも評価を得られなかった。だけど、この、他には無いグルーブが放つヴィジョン、は、差し込むひかりのようなものだったり、高原でキャンプをして深呼吸するかんじだったり、と、喚起するものがある。それに。なにかこの音楽は聴く者を屋外に連れ出すようなところがある。小沢健二の表現は、スタイルは変遷しているように聴こえるけど、つねに変わってきていないと、深化しているとおれは見る。

ただね、エコロジー、おれはね、ミスチルのAP BANK FESに行ったときから、リサイクルというやつは胡散臭いと思っている。2年前に武田邦彦著『偽善エコロジー』(幻冬舎新書)”エコ生活は、環境を悪化させ、企業を太らせ、国や自治体の利権の温床となっている”、を読んで、やっぱりな、と、異論はあるらしいが、100ぱではないにしても、大方こんなものだろう、と。・・・音楽とは関係ない話だが。

このトラックを聴くと、今年13年ぶりに全国ツアーをする小沢健二、『ライフ』期のサウンドを宣言しているが、ただのカムバックではなさそうに思える。



<track 033>
Theme from Canary for Shiota Akihiko / Otomo Yoshihide from 『ギター・ソロ 2004年10月12日 新宿ピットイン +1』 (doubtmusic) 2005

こんなギター・ソロを聴き逃していた。昨年の9月に図書館から借りて聴いたんだが。大友良英を即興ギタリストとはあまり認識していなかった。ターンテーブルとかコンポーザーとかディレクター的な側面に耳がいってた。アコースティックとエレクトリックのギターでの、ソロ・ライブ。従来の、デレク・ベイリーから始まる即興、ギタリスト高柳昌行が放った領野、そういう巨大遺跡を前にして、そもそも即興ギター・ソロは可能なのか、くらい思う。たまにはソロ・ギターも弾きます、そんな態度の演奏家でもない。

1曲目のこのトラックだけで、巨大遺跡のくびきから放たれている、超克した場所に立って弾く、大友が聴こえた。もう即興演奏で感動することはないだろう、と、思っていた2009年。1・2曲目あたりで感動でまじ泣けてきた。こういう自由があるなんてな。このCDは全体としての作品だ。スタンダード曲の「ミスティ」もいい。終曲「ロンリー・ウーマン」に起こる偶然もすてきだ。古いジャズ・ファンが聴いても、この作品の強度には脱帽だろう。間違いなく00年代の歴史的一枚だ。これは、ダウト・レーベルの1番である。



<track 034>
Peace on Earth / John Coltrane from 『Infinity』 (Impulse) 1972 ■http://en.wikipedia.org/wiki/John_Coltrane:_Infinity


ジャズ世界遺産トラック、第三回はこれだ。入手困難なので再発を希望します。

『インフィニティ』は、ジョン・コルトレーンの死後に、夫人のアリスがハープやらオーケストラ・サウンドをダビングして完成させた作品である。落ちる空のように下降してくる大仰なストリングスに導かれて、アリスのハープ音が上下左右に回遊し、まるで東映怪獣映画のようにコルトレーンの咆哮が登場する。

この奇怪な盤を評価するジャズ・ファンはいない。ネット広しとはいえ触れられているのはかねがね愛読しているサイト「イカれた駄耳にジャズの洪水(■http://damimijazz.blog78.fc2.com/blog-entry-557.html)」さんだけ。コルトレーンなのに。

LPジャケットは全面にわたってマンダラがデザインされており、わたしは『インフィニティ』を聴いた夜に、48階だての空中寺院のような場所で生まれる順番を待つ列にお経を唱えながら走り回る夢を見た。



<track 035>
ストトン節 / うめ吉 from 『ストトン節』 (オーマガトキ) 2005

「ストトン節」は、大正十三年頃流行した俗謡で、大震災後作曲され最も普及の勢いが盛んだったという。ソウル・フラワー・モノノケ・サミットもカヴァーしているのか。

どうでもいいけど、このうめ吉さんの声が、ちょっとたまんない。芯のしっかりした、凛とした性格をほのめかす、媚は売らないわよ、わたし、もしかしたらおいらに優しくしてくれるかもしれない、そっとおちょこにお酒をついでくれるだけでうれしいかもしれない。

かぞえ唄みたいに、だじゃれだの、お遊びだの、すととん、すととん、と、唄ってゆく。「好いて好かれて相惚れて 一夜も添わずに死んだなら 私ゃ菜種の花となる あなた蝶々で飛んでおいで ストトン」、最後に「蝶々で飛んでおいで」とさらっと、言う。

この声、この詩情、この妄想。生死を賭けるような恋愛の場面で、このような言い方で、このコとそんなところへ行ってしまっていいのか、いいのかもしれない、と、耳をすますわたし。日本にもすごい芸術がある。この演奏の大太鼓の鳴りもじつにいい。どん、どん。

もし、永谷園の広報のかた。うめ吉さんにお茶漬けのCMを歌わせてくだされ。聴くたびに思いまする。




<track 036>
Come on! Feel the Illinoise!: Pt. 1: The World's Columbian Exposition Part 2: Carl Sandburg Visits Me In A Dream / Sufjan Stevens from 『Illinoise』 (Spunk) 2005

スフィアン・スティーヴンスの『イリノイ』のジャケに、スーパーマンが飛んでないヴァージョンもあるようですね。風船が飛んでるヴァージョンも。

00年代でもっともすばらしいポップ・ソング!むかしスティーブ・ライヒを初めて聴いたショックも混じってる。計算され尽くした構成、アレンジの楽器それぞれに演奏している快楽を憑依させて聴いてしまう、バックにストリングス、には、ことに弱いおれ、指揮棒を振りながら陶酔して歌ってしまう、6分45秒。邦題は「さあ!イリノイを感じよう」。こういう巨星のようなナンバーはジャズファンクラシックファン言わずに。スフィアンの、この緻密な集中ぶり、00年代はルーファス・ワインライトとスフィアンなだけに、ロックはディランとかベテランの力投以外には無くなっていることもふまえて、聴きたい。

あれだね、パット・メセニーのひとり自動楽器作『オーケストリオン』、これはトラック1だけしか聴く価値ない代物だが、そのトラックと並べて聴いてもいい。スフィアンにも、メセニーにも、加速し浮遊する楽想、これについての技術的側面には共通項があるように感じる。

スフィアンの楽曲はサントラとかカヴァー・アルバムにも転がっているので集めるのたいへんだ。スフィアンの昨年リリース、全面インスト作品の『The BQE』はちっとも面白くなかった。



<track 037>
Welcoming Morning / Chappie (Sony Music Entertainment) 1999

スフィアンの「イリノイ」を聴いて、下降するコーラスの妙味やミニマル・ミュージックを感じさせるという点で、Jポップにも革命的なポップがあったと思い出すのがこのチャッピーの「ウエルカミング・モーニング」、ちっともブレイクしなかったけど。中身が謎のまま、数作まったく手触りの異なる作品(森高千里が歌うシングルもあった)を出して消滅したチャッピー。この最初のトラックは別格の仕上がりを見せていた。

「だいすきだいすき・・・」と囁くベーストラックがサブリミナル的で危険。透明、永遠、飛翔、生命、を、暗示する宗教的な歌詞。終盤は「おもちゃのチャチャチャ」というフレーズがわきあがり、ストローでジュースをぶくぶくするサウンドで終わる。このシングル・ヴァージョンがいい。ジャケの着せ替えキャラのコンセプト、服を着ているスリーブを上げるとどの女の子も統一された白い下着。

どさくさにまぎれて選曲してるんだが、この曲を気持ちよく聴いているということこそ気色悪いのは言わんどいてくれ。東横線沿線の年収1000万以上のご家庭のお嬢さんたちが歌っているイメージでんな。こないだ彩の国さいたま芸術劇場にマタイ受難曲を聴きに行くのに電車を乗り違えてあきらめて帰ってきた埼京線の電車広告にこの着せ替えキャラがどこかの大学の広告にデザインされていたが、埼京線ではない。

はたちの誕生日の23にち前に生まれてはじめてのガールフレンドができたとふやけたスルメのような笑顔になっていた長男に、まーあれだな初めての彼女というのはそのコ個人をこえて女性全体を象徴していて、それを獲得した全能感というものがあるだろ、はやくフラれろ、そこから芸術と文学がはじまるぞ、と、クギをさしておいた。



<track 038>
出来るでしょ!! / 森高千里 from 『TAIYO』 (One Up Music) 1996

どさくさにまぎれて森高の胸キュンPOPをかける。森高千里、作詞、ドラムス。この曲は古びない。はじめてできたガールフレンドのことをサークルの中ではひみつにしておくのだそうだ、うらやましいぞ。それならこの曲を聴け!会社の中ではつきあっているのをひみつにしているOLという設定の歌で、ほかのコと話すあなたへの嫉妬とか、会社のあなたは冷たい、明日から変わって「できるでしょ、あ・な・た・な・ら」と、そのあとの・・・。

森高が歌うからいい。おれも言われてみてーし。しかし。世の女性たちはおしなべて森高に反感を持つようであった。ガールフレンドに森高を聴いていることを知られてはならなかった。




<track 039>
強い気持ち・強い愛 Metropolitan Love Affair / 小沢健二 (東芝EMI) 1995

作詞:小沢健二、作曲:筒美京平。この前年に小沢健二は不朽の名作『LIFE』を発表している。Nokkoは『Colored』を発表していて、そこで名曲「人魚」、「人魚」はその後安室奈美恵がカバーしている、を、書いていた筒美京平。『LIFE』が出た夏と秋が過ぎて、「小沢健二=筒美京平ソングブック」と題されたシングルが発表された2月のさいごの日。Jポップの黄金期、コトバの天才と、メロディーの神さま、歌謡曲の大御所がタッグを組んだ、火花を散らすような名曲になった。

なみだがこぼれては ずっとほおをつたう
つめたく つよいかぜ きみとぼくはわらう
いまのこのきもち ほんとだよね



<track 040> Old Haden Family Show 1939 (KMA, Shenandoah, IA)
<track 041> Oh, Shenandoah / Chelie Haden Family & Friends from 『Rambling Boy』 (Decca) 2008

なにやってんだ、ヘイデン、ジャズ・ミュージシャンはジャズを演れ、なんでカントリー・アルバムを家族総出で、メセニーも担ぎ出して、ブルース・ホーンズビー、ロザンヌ・キャッシュ、エルヴィス・コステロ・・・、豪華なメンバーで、と、しばし敬遠していた作品。

ヘイデンは子どもの頃から両親のカントリーミュージックのバンド『ヘイデン・ファミリー』でラジオにレギュラー出演しており有名だったそうだ。オーネット・コールマンのベーシストで、69年の反戦メッセージ名盤『リベレーション・ミュージック・オーケストラLiberation Music Orchestra』を主宰、という大きな足跡の前には小さなことのように思っていたが。

このふたつのトラックは、チャーリー2さいになるかならないかの歌声と、70さいを越えたチャーリーの歌声だ。

アイオワ州シェナンドー生まれのヘイデンが歌う「シェナンドー(Shenandoah)」は、19世紀始め頃から歌われるアメリカ民謡、とのこと(■http://www.worldfolksong.com/songbook/usa/shenandoah.htm)。寄り添うメセニーのギター。ちなみにこの曲、ジャレットが『Melody At Night With You』で弾いていたとは杉田宏樹さんの解説がなければわからなかったです。

チャーリー・ヘイデンは集めたな。25さいのとき、新婚旅行で京都へ行っても中古レコード屋ばかりに入り浸って、そこで見つけたヘイデンとオーネットのデュオ盤『ソープ・サッズ』、今でこそ、そこそこ知名度がある盤だが、当時は忘れられた駄盤扱いだった。それに感動している自分は孤独なリスナーであったが、孤独でいいのだ。

今週、もっとも泣かされたトラックだ。


Niseko-Rossy Pi-Pikoe:1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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