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Vol.27 |
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私が、巨匠パコ・デ・ルシア(スペインが誇るギタリスト)の音を初めて聞いた頃スペイン人の生き方の本質に触れたことがあった。
「何で働くの?」
「何言ってるの。働くのは人生を楽しむためでしょうに・・・・。おかしな人。」
「働くのは人生楽しむため」と、誰もが口をそろえて言うスペイン人。
その楽しみの一番は、なんと言っても夜。だから、夜にそなえてシェスタ(昼寝)をするといっても過言ではないかもしれない。
夕方五時頃、店が再び開く頃、そろそろ人影が増えてくる。
「今日は、パセオ(散歩)を楽しんでいる人が多いね。」
「?、・・・」
「一緒に歩かない?」
「いいわよ。」
「喉が渇いた。」
そうと決まれば、アペリチフ(食欲増進のための食前酒)タイム。
夏は、屋外のテラッサに限る。
シェスタからのお目覚めは、スペインの特産、ヴァレンシア・オレンジの絞りたてジュースと、シェリーをシェイクした、冷えた「アンダルーサ」。
きりっとしたコクのある味わいは、私のアイ・オープナーだった。
さっ、目が覚めたところで、その後のメニューは、レストラン、バー、街の広場、クラブと、その日の気分次第。
驚いたことに・・老若男女、乳母車の子供まで、真夜中の町を満喫している。
今日のメインは、競馬。夜の11時のレース開始に、郊外の競馬場は人の山。
中には、食べる所も呑む所も踊る所もある。だから楽しみ方は人それぞれだ。賭けに専念する人もいれば、呑みながらおしゃべりに夢中の人もいる。
浮世の語らいに本腰を入れている人もいる。
勿論私は、賭け。夜風が心地よく、照明に照らし出される馬たちは、一段と輝いて見えた・・・・。
で、結局負けた。一文無しだ・・・。でも、賭けで負けた人のために、市内まで行く無料のバスがあった。粋なはからいとは、このことを言うのだろう。
これで帰れる。助かった。憂鬱なバスの中かと思いきや、「負けたから飲み明かそう」と大騒ぎである。
いきなり気分はハイになる。回りで飛び交う早口の、人懐っこいスペイン語の響きのせいか、「オラ・・」と気さくな挨拶のおかげか、心はスキップ気分。
闇夜に不似合いな、素っ頓狂で陽気なお祭りバス・・・・。突如弾き出したギタリストが、パコ・デ・ルシアであるなんて誰も気付こうはずもない・・・・。
暖色の都市マドリッドの夜のフェスタ(祭り)はまだまだ続く・・・。
翌日は、気まぐれにも、南の古都セビリアに足を伸ばしてみる。
とにかく、暑い。真夏には、夜は四十度を軽く越える暑さだ。外に出ていてもボーっとしてくるだけだ。
「どうする?」
連れ合いに尋ねてみた。
「そうねぇ。いいとこ連れてってあげる。」
「?、・・・」
不承不承に行った先。四方を石壁に囲まれてひんやりとした空気が流れ、吹き抜けの高い天井は青空だ。
「ここは、何?・・・」
「patio」
連れ合いの言葉によると、パティオとは、中庭。
古来からの涼み処だそうだ。なかなか快適である。日差しがあまりに強いときには、薄明かりが差し込む日よけで、天井を覆う。涼しさと陽光の両方を楽しめる。
屋外としても屋内としても両方使える贅沢な空間だ。
「アンダルシアのパティオはもっといいよ。」
「へぇー」
「花が咲き乱れて、色鮮やかな壁面を飾っている。それに、時には、小さな噴水があってね、それに・・・・。」
饒舌な口を、私の吐息でふさいだ・・・・。
心地よいパティオで、暑い午後をやり過ごしたあとは、やはり夕暮れのパセオ。
サンタ・クルス街(十一世紀〜十五世紀、セビリアがイスラムの都市であった頃、裕福なユダヤ商人が暮らしていた。当時の姿を残す街は美しい。)
を、ぷらぷら歩いていると、フラメンコショーのタブラオの前で、カンテ(歌)とギターの練習をしている。おそらく出番前なのだろう。軽く喉を鳴らすカンタオール(歌い手)のその声は、朗々として思わず聞きほれる。
向こうのほうの広場では、弾き語りの青年が、情緒たっぷりにセビリアーナを得意げに歌っている・・・・。
「すわろうか?」
「うん。」
広場にテーブルを並べたカフェに座って、街角に流れる哀愁の調べに耳を傾ける。
と、女の子がやって来た。ジャスミンの花を束ねた髪飾りを差し出した。心得たもので、私(カップルの男の方)に差し出してくれる。小銭と交換に受け取ると、濃密な甘い香りがふわりと漂った。その甘い香りごと彼女にあげた。
おもわず「オーレ」。
アナ(彼女の名)は、小躍りして、私を呼吸困難にした。
部屋に戻って、一段高いベッドに横になると、明日の日の出をそのままの体勢で見られると確信して・・・ふと思い出した。
そう言えば、アナの喜色満面の笑顔は、昔バルセロナで見たお日さまの顔の絵にそっくりなのだった。
「オーレ」。
パコの繊細な音の原点は、「生への享楽」だ。
高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
:
#900『Samuel Blaser/in Motion』(kind of blue) 悠 雅彦/
#901『北浪良佳/Love Me Tender』(Airplane) 望月由美/
#902『ワルツの革命〜モーツァルト、ランナー&J.シュトラウス1世:ダンス、ワルツ&ポルカ集』(ソニー・クラシカル)大木正純/
#903『ウェス・モンゴメリー/エコーズ・オブ・インディアナ・アヴェニュー』(Resonance/キング・インター)高谷秀司/
#904『『Sara Serpa Quintet/Mobile』(inner circle music)伏谷 佳代/
#905『橋爪亮督グループ/アコースティック・フルード』(クタイルサウンド・レコーズ)多田雅範/
#906『Dan Tepfer/Goldberg Variations/Variations』(Sunnyside Communications) 悠 雅彦/
#907(アーカイヴ篇)『Andreas Schmidt/Hommage à Tristano』(Konnex)|『Pieces for a Husky Puzzle』(Jazzwerkstatt) 伏谷佳代/
#908(アーカイヴ篇)
『Irina Karamarkovic Band/Songs from Kosovo』(GLM Music) 岡島豊樹/
#909(アーカイヴ篇)『Lou Reed|Laurie Anderson|John Zorn/The Stone: Issue Three』(Tzadik) 杉田誠一/
#910『MIZUHO & タイガー大越/Dear DUKE』(House Of Jazz) 稲岡邦弥
:
今月の論点:悠々自適 Vol.49 「ライヴ音楽食べある記 VII」悠 雅彦/
JAZZ meets 杉田誠一Vol.82「Morry Burns」/
Reflection of Music Vol.21「高瀬アキ」横井一江/
撮っておきの音楽家たち #40「ビセンテ・アミーゴ」林 喜代種 /
世界音楽紀行(ふみくら)Vol.30「ピンク・マティーニの甘美で艶やかな香り...」G2us高谷秀司/
タガララジオ26「Classic Tracks 140 - 153」Niseko-Rossy Pi-Pikoe/
及川公生の聴きどころチェック #141『クレア・マーティン & ケニー・バロン/トゥー・マッチ・イン・ラヴ・トゥ・ケア』(LINN/東京エムプラス)/
「知名定男さん、引退宣言はまだ早い」本郷 泉/
特別寄稿:「From Russia with Jazz」フランソワ・キャリエール/
新連載:「オスロに学ぶ」田中鮎美
:
#103「レオナルド・パブコヴィッチ」 (Moon June レコード主宰) 須藤伸義/
#104「ロベルト・マゾッティ」(フォトグラファー)稲岡邦弥
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#413「パウル・バドゥラ=スコダ/ピアノ・リサイタル」佐伯ふみ/
#414「原田英代連続演奏会 SERIES 作曲家の絆 Vol.1/ボロディン弦楽四重奏団&原田英代」佐伯ふみ/
#415「東京フィルハーモニー交響楽団/第68回東京オペラシティ定期シリーズ/広上淳一/黛敏郎4大傑作」伏谷佳代/
#416「プラハ・フィルハーモニア管弦楽団東京公演」丘山万里子/
#417「東京フィルハーモニー交響楽団第813回オーチャード定期演奏会/山田和樹/小山実稚恵」伏谷佳代/
#418「東京・春・音楽祭 ふたつの《四季》〜ヴィヴァルディ&ピアソラ」
佐伯ふみ/
#419「Jazz & Photo Talk 1961~2012」稲岡邦弥/
#420「坂田明 7 Days@Bitches Brew 白楽/第2夜 坂田明 vs 坂田学」稲岡邦弥
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JapzItaly〜東日本大震災と福島原発事故による被災児童支援のための日伊ジャズ・エイド
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