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Vol.33 |
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人は、様々な景色に自分の思いを託けながら成長し、年をとる。
だから追憶のよすがとなる情景は、そのままであって欲しいと願う。
東西ドイツが取り沙汰され、そして統一されてから久しい。
今回は東西ではなく、南北について考えてみよう。
「北ドイツには歌はない」という古いドイツの諺がある。北と南では、ドイツでもかなり様相が違う。
北ドイツは実際、歌わないようである。ハンブルグでも、ベルリンでも、そのあたりの古い民謡を集めた本を買うのはかなりむつかしい。
もし、街角や台所などで、歌声が聞こえたとしたら、それはたいていその時々の流行歌(はやり歌)である。
やはり、ビートのきついものが多い。
いつか、リューネベルクの荒野を歩いた時、そのあたりの村での「踊りの音楽」のあるのを知った。
そしてとうとうその楽譜を探し当てた。私は、村の古本屋で民謡の古本を見つけた。
ドイツの友人もこれは珍しいと言っていた。
南ドイツでは少し様子が違う。ヨーデルンを聞く機会が三度ほどあった。
日本で、山を歩く人は、良く大きな声で、「ヤッホー」という。あれはどう考えても日本語とは思えない。
おそらくはあちらの人の物まねであろう。
そしてあのようなものであろうと。そのぐらいにしか考えていなかった。
しかし、実際にヨーデルンを聞くと、そんなものではなかった。れっきとした玄人の芸当である。
私がはじめてヨーデルンを聞いたのは、ウィーンのある酒場での「ホイリーゲ」である(ホイリーゲとは、新しいぶどう酒ができたお祭りである)。
我々外国人は、このような所には、もの凄くて長くはいられない。
酒場の中は、酔っ払いの巣窟である。時折、何を間違ったかシャンパンの栓まで飛んでくる。
また、何を血迷ったか火のついたタバコも飛んでくる。危っかしくていられやしない。
いい酒場に行けば、こんなことはないのだが、生憎私は、それほど懐はあたたかくはない。仕方がないので部屋の片隅で小さくなっていた。
と、その時 楽隊の中の一人が、ヨーデルンを歌った。
私の隣にいた小粋な女性に声をかけた。ウィーン大学の学生だという彼女をシャイに誘って、喧騒な室内から外へ出た。
静かなカフエでのひと時の語らい。彼女の話ではヨーデルンではなくて、ドウデルンというものだというのである。
言葉のない掛け声のようなドウデルンの文句は「ドウリ、ドウリドウリエ」というのだそうである。
因みに、ドウデルンという言葉を、あとで音楽辞典でひいてみたが載っていなかった。彼女の話から考えると、ヨーデルンもドウデルンもだいたい同じものだと思う。
この歌は、半音が多くて、かなり面白かった。
私が二度目にヨーデルンを聞いたのはオーストリア、ザルツブルグの町外れにあるカフェの夜である。
私は、その地で知り合いになったスウェーデン夫妻とカフェに行った。
そこに一人の辻音楽師のような人がいた。ドイツ人特有の彫りの深い横顔。充分すぎる位の顎鬚をたくわえていた。
帽子に、鳥の羽を刺し、ギターを持っていた。
幸いこのカフェには、ほかに誰もいなかった。そこでこの人にこのあたりの古い民謡を歌ってくれないかと頼んだ。
二つ返事で引き受けて、詠い始めた。このあたりの国言葉の「ラームスグルナブン」という歌を歌った。歌詞を書いてもらったがよく読めなかった...。
と、その歌の終わりに、なんとも言いようのない奇妙な声で、歌詞でない掛け声のようなものを繰り返した。
何を言っているのかわからないのだけれども、何かしら熱い魂が伝わって来る。
意味不明の言葉にならない言葉が繰り返されるだけなのだけれども、心の叫びがある。我々は、あまりの迫力と凄さに顔を見合わせた。
楽師が出て行ってから、あとで、このカフェの店主が、「あれが本物のヨーデルンというものだ」と教えてくれた。
それで私はもう少しヨーデルンを聞きたいという衝動に駆られて、その辻音楽士を探しにカフェを飛び出した。しかしとうとう見つからなかった。
三度目にヨーデルンを聞いたのは、ヘレネンタールに散歩に出た時の事である。
ここから先は、次号に席を譲ることにする。
人間の発する音楽表現は、言葉を超えた魂の叫びがある。(続く)
高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
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#987 『奥平真吾 THE FORCE/Live At PIT INN〜I didn't know what time it was』(ピットインミュージック)望月由美/
#988『Alex Cline/For People in Sorrow』(Cryptogramophone)稲岡邦弥/
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