カンザス・シティの人と音楽

33(EXTRA).横森良造さんの想い出


 はじめに、私のこの話が、誰にでもあるプライベートな昔話かもしれないことを読者の皆さんにお断りしておきたい。

 この秋に、姉が朝日新聞の追悼記事と手紙を送って来た。そこでアコーディオン奏者の横森良造さんが8月27日に79才で亡くなっていたことを知らされ、とても大きなショックを受けた。朝日新聞で報道されたのは9月13日。私はちょっとした個人的なイベントの準備で忙しくしており、新聞やテレビのニュースでもまったく気がつかなかった。自分で気がつかなかったことにまたショックを受けた。朝日新聞の記事は、横森さんのことを ”心優しき職人”、と人間的な側面を大変上手く表現された追悼文だった。

 何を隠そう、私にジャズのベーシックな知識を最初に教えて下さったのは横森良造さんである。今から遡ること40年近く前の話である。当時、私は高校2年から美大受験のためにお茶の水にある予備校に通っていた。夕方5時からデッサンなどを習うのだが、毎回教室内のデッサンの場所だけ確保し、その後は数人のグループで 「響」「NARU」「Smile」といったジャズ喫茶に出入りし、受験勉強どころではなく遊びまくっていた。その仲間の一人に横森さんのご子息がいたのだ。その頃の私はすでにジャズを聴き始めており、アメリカのミュージシャン達とも交流を始めていた生意気盛りだった。

 仲間とはジャズ喫茶だけでなく、渋谷区某所にあった横森邸にかなり頻繁に遊びに行っていた。当時、“アコーディオンの横森さん” は世間の誰もが知る存在だっただろう。こう言っては失礼かもしれないが、横森邸はとても質素な2階建ての家だった。その2階に横森さんのお部屋があった。狭い部屋のなか一杯に、ピカピカに磨かれたアップライト・ピアノ、趣味の鉄道模型、そして壁一面に山ほどジャズをはじめとしたLPがあり、ガラスの扉がしっかり閉められていた。家族でも触れたら怒られる、と当時聞いていた。 ご家族には相当気難しい方だったと記憶している。
 その頃の横森さんは、テレビ番組の「スター誕生」「お笑い頭の体操」「NHKのど自慢」などでアコーディオンの伴奏を務めておられた。アコーディオンの第一人者として有名だったが、現在はもう存在しない「アマンド赤坂店」で、長年にわたって毎晩ジャズ・ピアノを弾いていたことを知る人は少ないのではないのだろうか?
 正真正銘のジャズ・ピアニストでもいらしたのだ。アコーディオンもピアノの演奏も独学と聞いている。おそらく戦後、進駐軍のジャズなどを聴いて肌で身につけられたものだろう。ピアノの練習を兼ねた演奏は良く聴いた。とくに、オスカー・ピーターソンがお好きで、その真似を披露するのも大変お得意だった。
 私は何故か気に入られていた。クラシック・ピアノのレッスンをとっていたり、ジャズ・ミュージシャン達を知り始めていたことで、気にかけて下さったのだろう。家族でさえ勝手に触れられないLPも私はタッチOKだった。いつもニコニコして、私が選んだLPをかけて聴かせて下さったり、数々のピアニストを始めとするジャズ・ミュージシャン、ジャズの基本的なコード進行など、本当に多くのことを教えて下さったが、一番はやはり “ジャンルを超えた音楽の持つ楽しさ、素晴らしさ”だったと思う。あの頃教わったことは今の私の貴重な財産である。
 先に亡くなられた奥様にも随分良くして頂いた。根っから明るい方で、歌が大変お上手だった。<オーソレミヨ> <ザッツ・アモーレ> <想い出のサンフランシスコ> などの洋楽ヒットソングを唄いながら、楽しそうにチャーハンとお味噌汁(三つ葉と豆腐が定番)を作っていらした姿を思い出す。

 私が美術学校に入り、卒業する頃には仲間達も皆バラバラになってしまった。その後はテレビでお見かけしたり、風の便りで様子は伺っていた。社会人になって数年後、私は偶然にも横森邸の近くに住むことになった。バスに乗って近くを通るたびに、『いつか立ち寄って、お礼が言いたい。』とずっと思い続けていたが、忙しさにかまけてそれも叶わなかったのが悔やまれる。当時、横森邸に頻繁に伺っていたのは、やはりあの横森夫妻の優しさをはじめ人間的な魅力に惹かれて行っていたような気がする。

 横森さんは、戦後の日本のショウ・ビジネス界に大きく貢献されたことはもとより、アコーディオン奏者としては、 “昭和の横森良造、平成のコバちゃん” となるのだろうが、私にとっては完璧な “ジャズの師匠” だった。
 横森さんからジャズを教わった人は私だけではないだろう。 誰にでもその人生に大きな影響を与えた人がいるだろう。 人生に “もしも” はつきものだが 、もしも横森さんに出会わなかったら、私は今こうやってジャズ業界の片隅にいなかったかもしれない。このJAZZ TOKYOの “カンザス・シティのコラム”もなかったかもしれない。
 多くの偉大な先輩方が亡くなっていくが、このニュースは本当に寂しい。ご冥福をお祈りするとともに感謝の気持で一杯である。

 最後に、亡くなられる2週間ほど前の演奏<枯葉>のリンクを付け加えて筆をおく。

http://www.youtube.com/watch?v=bs_Pg-YEkBw&feature=relmfu


http://bigkahuna.blog129.fc2.com/blog-entry-2207.html

合掌



望月由美

竹村 洋子:美術学校卒業後、マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、 カンザスシティ中心にアメリカのローカルジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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