カンザス・シティの人と音楽

38.活気づいて来たカンザス・シティ・ジャズシーン


 このところ、カンザス・シティのジャズシーンが急激に活気づいて来た様子だ。私が一昨年、2012年6月にカンザス・シティを訪問した際、「新しい世代の若いミュージシャンが台頭して来ており、ジャズシーンが世代交代の時期である。」という報告をした。
http://www.jazztokyo.com/column/takemura/part032.html
元気が良いのは若手ミュージシャン達だけではない。ベテラン陣も、マイク・メセニー、スタン・ケスラー、ボビー・ワトソン、デヴィッド・バッセ、エヴェレッタ・デヴァン等が次々と新しいCDをリリースしている。
 この1年間に『グリーン・レディ・ラウンジ(Green Lady Lounge)』と『ザ・ブロードウェイ・ジャズ・クラブ( The Broadway Jazz Club)』という2軒の新しいジャズクラブがオープンし、その盛況ぶりはフェイスブックの投稿からも窺える。『ザ・ブロードウェイ・ジャズ・クラブ』 はチャーリー・パーカーが、カンザス州からミズーリ州カンザス・シティに移って来た時に住んでいた家(3527 Wyandotte)のほんの数ブロック先にある。チャーリー・パーカーの住んでいた家は私が最初に訪ねた2005年には、まだ発見されたばかりで誰も住んでいない荒れた空き家だった。この5年間に亘る修復で、奇麗に化粧直しされ、『YardBird SUITES Est. 2005』として一般公開されている。
2011年、ダウンタウンの南端に2つのコンサートホールを有する『カウフマン・センター・フォー・ザ・パフォーミング・アーツ』もオープンし(http://www.jazztokyo.com/column/takemura/part033.html)、 ミュージシャン達の活躍の場は着実に増えて来ている。 ダウンタウンの再開発プランも現在進行中と聞いている。 今、カンザス・シティのジャズ・コミュニティの中でとくに注目されるのは、ジャズをサポートする新しい組織団体『KC Jazz A.L.I.V.E.』が本格的に活動を開始し始めた事だろう。
また、昨秋2013年10月に出版された『バード:ザ・ライフ・アンド・ミュージック・オブ・チャーリー・パーカー(bird: The Life and Music of Charlie Parker)』の著者、チャック・ヘディックス氏の活動もこの街のジャズシーンを多いに活気づけている。


♪ Kansas City Jazz A.L.I.V.E.

KC Jazz A.L.I.V.E.のロゴ チャーリー・パーカー・バースディ・セレブレーションのポスター

カンザス・シティにはジャズをサポートするいくつかの団体がある。『カンザス・シティ・ジャズ・アンバサダー(Kansas City Jazz Ambassardors)』(註1)、『エルダーステートメント・カンザス・シティ・ジャズ(Elderstatement Kansas City Jazz Inc)』(註2)、『UMKC ジャズ・フレンズ(UMKC Jazz Friends)』(註3)、『ミュチュアル・ミュージシャンズ・ファウンデーション(Mutual Musician’s Foundation)』、『アメリカン・ジャズ・ミュージアム( American Jazz Museum)』等が主要なところだ。
これらの組織は、それぞれに質が高く、カンザス・シティのジャズの興隆に長年貢献して来た。中でも『カンザス・シティ・ジャズ・アンバサダー( 以下KCJA)』は1984年に設立され、現在500人のボランティアのジャズ・ファンからなる大きなNPOとして、地元に根付いている。
こういった組織に加え、この街は ジャズクラブ、コンサートホール、多くの音楽教育機関を擁している。また、優秀なミュージシャン、学識研究者達も数多くいる。これらはカンザス・シティ・ジャズ・コミュニティーの持つ素晴らしい財産であり、大きな誇りでもある。
『KC Jazz A.L.I.V.E. 』はカンザス・シティがこの認識を高めるために組織され、活動を始めた。この組織はジョン・マクグロウ(元UMKC Jazz Friendsプレジデント、KCJAスポンサー)、スティーヴ・ハーグローブ(元KCJAプレジデント)、グレッグ・キャロル(アメリカン・ジャズ・ミュージアムCEO)、パム・ヒダー・ジョンソン( ESKCJ・ボードメンバー)の4人が1年前に寄り合ってスタートした。この『4人の企画グループ』は「若者達にジャズに対する関心をもっと高めさせ、ジャズのファン、サポーターにさせよう! 」という共通の認識を持っていた。2013年12月、この4人と25人の参加メンバーで開催された委員会で、組織の活動内容とそれを遂行するコミッティがA.L.I.V.E.の頭文字と共に設立された。以下、『KC Jazz A.L.I.V.E.』各コミッティの活動内容である。

A : AWARENESS
ジャズ・コミュニティを創り出すニーズを認識(アウェアネス)し、それを高めるための活動をする。ジャズ・イベントや参加者達のデータベースを充実させる。ウェブ・サイトやEメールでジャズ・イベントをインフォメーションし、演奏会場、ミュージシャンのスケジュールをカレンダー化していく。

L:LISTENING
ジャズの聴き手(リスナー)のために活動する。リスナーのニーズを理解し、KC Jazz A.L.I. V.E.と演奏会場、ミュージシャン、スポンサー、大学、地方政府を結びつける連絡機関として活動する。

I : IDEAS (アイデア)
アイデアを結集する場を提供する。ミュージシャン、演奏会場、ファン、組織間をコーディネートする方法を探る。
『チャーリー・パーカー・バースデイ・セレブレーション』は目下の懸案事項となる。

V : VOICE
ジャズ・コミュニティに向けた声(ヴォイス)を機能させる。各種組織、機関に対し発信する組織を新たに立ち上げる。

E : EXPOSURE
ジャズ・コミュニティに適した人材資源を表明(エクスポージャー)する。現存する組織を横に繋ぐ活動の他、寄付やスポンサーを得る知識を深める。

また、『G コミッティ』、即ち、運営委員会(GOVERNANCE)を設け、KC Jazz A.L.I.V.E.の法的体制と仕組みを形成する役割がある。

『KC Jazz A.L.I.V.E. 』は組織発足後、最初の正式なミーティングを今年1月に開き、以後、月1回のペースでミーティングを行っている。リーダーのジョン・マクグロウは、「私達は2014年内には、次の未来を見据えた核となるプロジェクトを進めていくだろう。私達の動きに対してのジャズ・コミュニティの反応にとても興奮している。私達はジャズ・コミュニティの資金援助をする人達に利益をもたらす活動をして行こうと思っている。ジャズ・コミュニティ内のいくつかの組織間をコーディネートする活動を通じ、単独組織では成し得ない事柄を成功させていきたい。すべての船(jazz boats)を持ち上げる波となりたい。」と言っている。
 既に、新しいウェブ・サイトも出来上がり、地元ベテラン・ピアニストのジョー・カートライトがコンテンツ・マネージャーを務めている。ウェブ・サイトは一部、All About Jazz ともリンクしている。
また、8月29日のチャーリー・パーカーの誕生日にちなんで毎年催される、『カンザス・シティ:チャーリー・パーカー・セレブレーション』の具体案も進行中である。今年は8月14日〜31日を、セレブレーション・ウィークとし、コンサート、ワークショップ、レクチャー、チャーリー・パーカーのお墓でのセレブレーション等、盛り沢山のイベントがプランされている。チャーリー・パーカーのお墓でのセレブレーション・イベントは、音頭をとっていたアーマド・アラディーンが2010年に亡くなってから規模が小さくなり、ここ数年は集まるのも数人のミュージシャンだけ、という非常に寂しいものとなっていた。今年は8月30日に、21人のサックスプレイヤー達による『21サックス・サリュート』も復活させる予定になっている。美しいイベントのポスターも出来上がっている。こんなポスターも私の記憶する限り、何年もなかったと思う。ジョン・マクグロウは、「今後、このイベントに関してはカンザス・シティ政府と連携していくようになってくるだろう。」と言っている。今年の夏の盛り上がりが多いに期待されると共に、新しいグループ、KC Jazz A.L.I.V.E.の新たな挑戦がためされる。

註1:『カンザス・シティ・ジャズ・アンバサダー(Kansas City Jazz Ambassardors)』
1984年に設立されたボランティア500人から成るカンザス・シティのジャズをサポートする団体。隔月刊のフリージャズ誌『Jam』を発行している。パット・メセニーの兄、マイク・メセニー(tp)はこの編集長を長年務めた。ジャズが好きで会費を払えば、国内外、誰でも入会出来る。

註2:『エルダーステートメント・カンザス・シティ・ジャズ(Elderstatement Kansas City Jazz Inc)』
1983年設立された団体。現在まで約400人のカンザス・シティ・ジャズを創造して来たベテラン・ミュージシャン達を擁して来た。メンバーにはチャーリー・パーカー、ジェイ・マクシャン、クロード・フィドラー・ウィリアムス、アーマド・アラディーン、ルクマン・ハンザ、ジミー・ウィザースプーンなどもいる。メンバーの活動は、クリニック、個人レッスン、コンサートでの活動等。

註3:『UMKC ジャズ・フレンズ(UMKC Jazz Friends)』
『ミズーリ大学、音楽・ダンス学校』のジャズ教育プログラムを支援する組織。


♪チャック・ヘディックスの活動

新しいクラブ『ブロードウェイ・ジャズ・クラブ』でチャーリー・パーカーについてレクチャーするチャック・ヘディックス。左からアンドリュー・スティンソン(b)ボビー・ワトソン(as) ハーモン・メハ(tp)
『シカゴ・ショウケース』で。チャック・ヘディックスとスタンリー・クロウチ

チャック・ヘディックスの活動

 2013年10月、UMKCニコラス・ライブラリー、マー・サウンド・アーカイブスのディレクター、チャック・へディックス氏は、チャーリー・パーカーの伝記『バード:ザ・ライフ・アンド・ミュージック・オブ・チャーリー・パーカー』を出版した。彼はこの出版に絡めて、チャーリー・パーカーをトリビュートするイベントを行った。ヘディックス自身によるチャーリー・パーカーとカンザス・シティ・ジャズに関するレクチャーと、ボビー・ワトソンを中心とする地元のミュージシャン達によるパーカーゆかりの音楽を演奏する、というものだ。その後ヘディックスは、地元誌『カンザス・シティ・スター』、『ピッチ 』をはじめとするメディアへのインタビュー、ラジオやテレビ出演は積極的に受け、本屋でのサイン会など、多くの活動を精力的に行っている。
出版記念イベントで行った様なレクチャーや音楽イベントも、ジャズクラブに始まり、インターナショナル・アソシエーション・オブ・ジャズ・レコード・コレクション(International Association of Jazz Record Collection )や、フォーク・アライアンス等、音楽関連団体のコンファレンスまで、様々な場所で昨年秋以降、合計10回以上行っている。それはカンザス・シティにとどまらず、ロス・アンジェルスやシカゴにも及ぶ。6月7日には、同じく昨秋『Kansas City Lightning: The Rise and Times of Charlie Parker 』を出版したスタンリー・クラウチとのディスカッションがシカゴの『ジャズ・ショウケース』で行われた。このイベントは同じ月にカンザス・シティに於いても、ミュチュアル・ミュージシャンズ・ファウンデーションがスポンサーとなって開催され、話題を呼んだ。
ヘディックスは「バードのトリビュート・イベントに集まる聴衆は20人の時もあれば、200人、300人まで。もっと多い時もある。みんな本当に楽しんでくれているんだよ。特にボビー・ワトソンと一緒の時は最高だね。僕はバードの話をしている時は本当にいい気分なんだ。みんなの反応もとても良い。いつもイベントが始まる前には、何か面白い話でスタートし、その場のムードを良くしようと努めている。本を買ってくれた人達の顔を一人一人見ながらするサイン会もとても気に入ってる。」と言う。

私はこのコラムの#37(http://www.jazztokyo.com/column/takemura/part037.html)で、「この本は、カンザス・シティ・ネイティブであるチャック・ヘディックスが書いた事に大きな意味があり、それは評価されるべき。」と書いた。
ヘディックスのパーカー伝記本の出版とそれに関する様々な活動は、カンザス・シティのジャズシーンを明らかに活気づけている。彼はジャズ・ファンのみならず、カンザス・シティの人達に、音楽史上、偉大な功績を残したチャーリー・パーカーが、カンザス・シティの誇りである事を再認識させ、人々のジャズに対する意識を喚起させる事に、多いに貢献していると言えるだろう。

この街は1930年代 に栄え『カンザス・シティ・ジャズの黄金期』を作り出した。その後アップ&ダウンはあるものの、現在までジャズの伝統を守り抜いて来た。それは多くの優秀なミュージシャンと彼らの活動の場がある事、そして地元の人達のジャズに対する深い愛情と理解抜きではあり得なかった事だ。
新しい動きは始まったばかりである。ミュージシャン達の活動の場が増えたとて、彼らの生活は相変らず楽なものではない。歴史的18th & VINE ジャズ・ディストリクトの再興やまだまだ多くの問題が山積みだ。今後のこの街のジャズシーンの行方を見守りたい。

竹村洋子(2014年7月10日記)

関連サイト
*ジャズクラブ
https://www.facebook.com/BroadwayJazzClub?fref=ts

https://www.facebook.com/GreenLadyLounge?fref=ts


*ジャズ・サポート団体
http://kcjazzalive.org

http://www.kcjazzambassadors.com

http://elderstatesmenkcjazz.org

http://mutualmusiciansfoundation.org

http://americanjazzmuseum.org


*チャック・ヘディックス関連
http://www.jazztokyo.com/interview/interview121.html

http://midtownkcpost.com/haddix-book-details-charlie-parkers-midtown-roots/

http://www.youtube.com/watch?v=pVVyIA4s3LU&feature=youtu.be


望月由美

竹村 洋子(たけむら・ようこ):
美術学校卒業後、マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
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#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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