Vol.4 “ここ”で生まれる音楽
text & photos by Ayumi TANAKA

 ノルウェーに来てちょうど1年。この一年で沢山のノルウェー音楽に触れた。思っていた以上に様々なユニークな音楽に出会った。
 ノルウェーのジャズ・ミュージシャンと呼ばれている人々が演奏する音楽は様々。彼らは彼ら自身のことを“ジャズ・ミュージシャン”とは思っていないのではないだろうか。ノルウェーのCDショップのジャズ・コーナーには、クラシック音楽や教会音楽、民族音楽やロックやポップ、ノイズ音楽、環境音楽の要素を含んだものなど、様々な音楽が存在する。彼らの奏でている音楽は、ただ、“彼らの音楽”であり、スタイルは音楽とのつながり方の一つの方法であるように思われる。ジャンルやスタイルにとらわれず、自分自身の中から来る音楽を表現する。それが彼らの音楽に対する姿勢であるように感じられる。
 ノルウェーのジャズについて、いいなと思ったのは、民族音楽や暮らしからの影響が多く見られること。民族音楽によくみられる限定された音を用いた旋律やハーモニー、字余りなリズムなどがよく用いられている。
 ノルウェーで日本の古楽器や民族音楽に影響を受けている音楽家にも出会った。
 大学でクラシックの現代音楽の授業をしている、サックス奏者Rolf-Erik Nystromは、日本の民族音楽について「日本の人はつまらないとよく言うけれど、僕らにとっては、日本の民族音楽は、全く新しくてとても斬新な音楽だ」と話してくれた。
 私がノルウェーに来てからとても好きになった、サックス奏者Trygve Seimもその一人だ。彼のコンサートを聴いた後、彼は私に「僕の演奏から尺八を感じたかい?」と尋ねた。彼の音は例えばドからレに移る時に、いくつもの音程を奏でるのだが、それが日本の尺八に通じるものだと思われる。
 もう一人、尺八から影響を受けているであろう音楽家の一人にトランぺット奏者のArve Henriksenがいる。彼のアルバムに『Sakuteiki』というのがあり、1曲目<sanmon>を聴くと、それはまさに尺八の様な音色から始まる。でも、その後に続くメロディーはノルウェーの民族音楽の香りが強く感じられる。“尺八”というエッセンスに彼のルーツが融合されて、彼自身の音楽が表現されている。
 今の様にインターネットも普及していなかった頃に生まれたおとぎ話には、世界各地で共通する話が多く存在するそうだ。民族音楽にも、どことなく世界各地で共通する部分があるように思う。日本の音楽に影響を受けたノルウェーの音楽家たちは、新しいものという側面と共に、彼らが本来もっている共通する何かを日本の音楽に感じたのかもしれない。
 ところで、暮らしに密着した音楽について、隣国スウェーデンのベース奏者Anders Jorminから友人が聞いた興味深い話を紹介したい。彼のアルバム『In winds, in light』の9曲目、<Gryning>でスウェーデンのシンガー Lena Willemarkの叫ぶ様な声を録音する際、初めは近くにマイクを設置したが、ノイズが入ったので、次に50メートルほど離れた場所で録音したそう。それでも、ノイズが入った。その時、彼女は誇らしげにこう話したらしい。「そうよ、この声はマイクで録れる音じゃないわ。マイクに入り切らない何かがあるのよ。私はこの声を羊を呼ぶ時に使っているの」。田舎で遠く離れた羊を呼ぶ時には、遠くまで届く特別な声が必要だ。これも一種の民族音楽なのかもしれない。その土地で、その時にしか生まれない音楽があって、そういう風に土地と溶け合って音楽は生まれるのではないだろうか。
 ノルウェーの永遠と続く白樺の木々を見ていると、それらはノルウェーの音楽に時折みられる、ミニマル音楽の様。長い冬を乗り越えた後の、愛おしい春の太陽は音色に輝きをもたらす。静かな森、湖、永遠に続くフィヨルド、冬の雪景色からは、まさにノルウェーの音楽が聴こえる。
 ノルウェーを歩いていると、時折ふと日本を感じる瞬間がある。それは匂いだったり、空気、緑だったり。他のヨーロッパの国を旅して気づいたことだが、ノルウェー人は他のヨーロッパ諸国の人に比べると、とても優しいと思う。困っているとすぐに知らない人でも、声をかけて助けてくれたり、道を渡りたくて車が通り過ぎるのを待っていると、車が止まって行かせてくれたりする。それらは日本人が本来持っている“親切な心”や“譲り合いの心”に通じるものではないかと感じる。

 ノルウェーの図書館で、日本の民族音楽のCDを借りて聴いたり、博物館で日本の絵画などを見た。そこには、日本の文化が持つ独特の間があり、息づかいがあった。日本にいる間はあまり気に留めなかったが、しばらくノルウェーで暮らした後に日本の文化に触れると、それらはすごく美しくてとても衝撃的なものであった。
 「日本には日本のジャズっていうのはあるの?」とノルウェーの友人に聞かれたことがある。ここに来てちょうど1年が経つ今、日本人である自分自身を見つめ直す必要があるように感じる。ノルウェーの人々や自然がそう感じさせてくれた。








田中鮎美:
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。
その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。

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