#  1001

『Selected Signs III – VII』
text by 多田雅範


Music selected for the exhibition ECM – A Cultural Archaeology at Haus der Kunst, Munich


収録曲の詳細に付いては下記を参照願います;
http://www.ecmrecords.com/Catalogue/ECM/2300/2350-55.php?cat=%2FLabels%2FECM&we_start=0&lvredir=712

曲目を見ないでこのマンフレート・アイヒャー編集CDR6枚組を聴くことは、もうひとつのあるいは未知の耳の旅路だ。

ミュンヘンのHaus der Kunstで開催されたECM展;ECM – A Cultural Archaeology用にコンパイルされたサウンドトラックが6枚組ボックスセット『Selected Signs III-VIII』としてリリースされた(会場でバラで販売されていた)。

Selected Signs(ECM1650)は97年に、 Selected SignsII (ECM1750)は00年に発表された。前者はアンソロジー、後者がサンプラーとサブタイトルされている。クラシックの New Series ではない、従来のECMのラインで選曲、構成されている。単に最近のECMはこんなですよとマーケットに拡販するにとどまらない、曲順のアイヒャー・マジックが感じられる、カタログ番号が与えられるに相応しい出来の「作品」だった。

アイヒャーがミュンヘンのECM展会場で6種のコンピを発表、販売している、と、知らされた。彼はイベントに際してそういうことをしたことはない。なんと、Selected Signsと題された、6種類のコンピ。これは聴かなければならない。

会場で入手されたものを聴いた。失敗したと思ったのは、つい1枚目の曲目を目で追ってしまったことだ。えっ、1曲目は・・・。2曲目スティーブ・ライヒの「エイティーン・ミュージシャン」11分30秒のexcerptなんて、編集CDRに使えるぞ。おおお、な、なんていい音なんだ。

結論、先に書く。これはアイヒャーの考えるベストヒットECMでも、70年代ECMを飾ったジャズ系スタープレイヤーの音源が入っているわけでも(6枚のうち数曲はある)、レアトラックが入っているわけでもない。アイヒャーはこのイベントの参加者に対して、クラシック(New Series)の制作の歩みをベースに、ちょっとした回顧とちょっとした選曲の驚きとをおみやげに持たせたかのような構えだ。他でもないアイヒャーがこの曲順にしてリスナーを歓ばそうとしているわけで、曲順の効果を狙うアイヒャーの才能を体験できる6枚組だ。2000枚を超える膨大なカタログを手がけた張本人が手がけた6枚組、これは21世紀への遺産となるべき作品ではないか。

(正確には、5枚目ECM非クラシック系によるこれまでのSelected Signsに近く、6枚目はジミー・ジュフリー3のトラックから入るというスティーブ・レイクが選曲したものだろう。)

そう、アイヒャーのちょっと回顧、New Seriesの来し方を並べる手つきに、その動かし難さにわたしは打たれた。圧倒的な現在形のECMセレクションの彼方に、かつてジャズファンに知られたECMサウンドという同じ風景と、ソリッドな感性が息づいている。

さあ、あとは買った買った。そして、曲名を見ずに聴くこと。響きの旅路に不意に出かけること。精神のジェットコースターだ。

(以下、内容に関するスケッチになるので、でも、書かなければ編集長に面目が立たないので記す。読み飛ばし推奨。)

1枚目、Selected SignsIII 。
ディス・ヒート(ポストパンク期の最先鋭のバンド)のチャールズ・ヘイワードが叩くトラックから始まるなんて、まったく想定外。アート・リンゼイのギター、ジョージ・ルイスのトロンボーン、そう、ハイナー・ゲッペルス『エレベーターの男』の語りからスタートする。ドイツ語なのであるから、このコンピの冒頭に配置してセリフの異化効果を狙っているのに違いないし、参加者と知的ユーモアなりを交わすところなのだろう。おれにはわからん、すいません。そして、ライヒ、ペルトの「現代音楽の風景を一変させた」名曲が3連打(!)なのだ。アイヒャーもこう聴かせたいのか!クルターク、バッハ、マンスリアン、オリヴェロ、CPEバッハ、ハイドン、Mモンクと、時代と地域を飛び越えた選曲が続く。この揺るぎなさ。ラストにまた『エレベーターの男』の朗読。ドイツ語わからんのが哀しいが。圧巻。

2枚目、Selected SignsIV 。
冒頭にゲッペルスの作品からブレヒトのテキストの朗読+演奏。カンチェリ、タヴァナー、ショスタコーヴィチ、ペルト、シルヴェストロフが並ぶ。驚くべきは、揺るぎない曲順ロジックを果たすために、アイヒャーはここでのタヴァナーのトラック(5分13秒)は他レーベル「ハルモニア・ムンディ」から許諾を得て収録していることだ(!)。音楽ロジックの鬼、アイヒャーの祈りが現出する。

3枚目、Selected SignsV 。
エレニ・カラインドルーのアテネでのライブ(ECM2220)のハイライトを12トラック並べ、ヤン・ガルバレクの「Dis」(!)、あの風によって鳴るウインドハープとガルバレクの竹笛による70年代ECMファン随喜の画期的トラックだ、そして10年代ECMの傑作『Siwan』2トラック、古楽アンサンブルが4トラック。30年を隔てた録音が、違和感なく並ぶ。ヨーロッパの古層を旅するようだ。

4枚目、Selected SignsVI 。
『The Return』(ECM1923)サウンドトラックから10トラック、ニルス・ペッター・モルヴァル大ヒット盤『Khmer』のラストを抜かした7トラック(ほぼ全部)、ラストをアイヴィン・オールセットのキラー・チューン「Close(For Comfort)」で締める。CD3枚、手抜きではない、夢のリレー聴取だ。クラシック・ファンに、ちょっと手土産にしたい統一感がある。そりゃ、クメールを聴かせたいだろ。

5枚目、Selected SignsVII 。
ヨーロッパ系ECMの近作のコンピ、14トラック。従来のSelected Signsに近い一枚。聴いたことあっても、こう重ねられるとかなりの破壊力だ。聴いたことない盤もあるし。ジスモンチの登場する4・7曲目はいいアクセントだ。まだリリースされていないラルフ・アレッシ、ジェイソン・モラン、ドゥルー・グレス、ナシート・ウェイツの作品『Baida』(ECM2321)が1トラック、これにはドキっとする。

6枚目、Selected SignsVIII 。
これはスティーブ・レイクが選曲したものだろう。名門ヴァーブから音源買い取ってリマスタリングしたジミー・ジュフリー・3を冒頭に、エヴァン・パーカー、バール・フィリップス、オールド・アン・ドニュー・ドリームス「ロンリー・ウーマン」、シニッカ・ランゲラン、Frode Halti 「Psalm」名演、ゲイリー・ピーコック、スティーブ・キューン、ワダダ・レオ・スミス、ロビン・ウィリアムソンで幕。

曲順というのは言うまでもなく、音楽体験における重要なファンクションのひとつだ。ECMの作品は69年の第1作から確固たるものを持っている。キース・ジャレットが自選ベストを編集したときの、手つき(「ジャレットが示した一貫した音楽のロジック」http://homepage3.nifty.com/musicircus/ecm/rarum/r_01.htm)。パット・メセニーがゲフィンでリリースした『ソングX』をその後音楽的に正しい曲順にして再リリースした事実。キース・ジャレットとチャーリー・ヘイデンがセッションして、ジャレットが構成してリリースに漕ぎ付けた『ジャスミン』。菊地雅章、トーマス・モーガン、ポール・モチアンのセッションを、数年かけてモチアンが構成しなおして菊地雅章の耳を変化させた『サンライズ』。そんなことも、思い出す。

2000枚を超えるECMのカタログから、アイヒャーが構成したこの Selected Signs は、単なる企画に終わってはならない。(Niseko-Rossy Pi-Pikoe=多田雅範)

 

(後記)

わたしはこの10年間日夜編集CDRを作る、風呂上りの一枚、夜更かしの一枚、文京区小石川図書館の10枚からセレクトした一枚、を、グランディスで大音量で聴くのが一番幸福であるリスナーである。それ以前は編集カセット交換会を20年やっていた。コラム「タガララジオ」はその副産物であり、あの手この手でカンドーを引き出すがためなのである。編集CDR作成の徒として、アイヒャーも同じ行為をしていたかと思うとなんともうれしい。

それにしても、アイヒャーの現在はやはりクラシックへの関心が大半を占めているようだ。ECM展の観客を意識した可能性は、ある。・・・いや、かの地でも、もしやジャズ〜インプロ〜フォーク、よりも、クラシックのほうが芸術として上であるというヒエラルキーがあるのか?クラシックのレーベル・オーナーのほうが階級が上なのだろうか?モテるのだろうか。ドイツで名士になるとは、そうなのだろうか。

まあ、わたしの今日の思いつき『Selected Signs Niseko-Rossy Pi-Pikoe』を、You Tubeで構成してみよう、アイヒャー、聴いてる?

Alfred Harth: Transformate, Transcend Tones & Images
http://www.youtube.com/watch?v=AxCSQwvm6gw

Paul Giger "Bombay II" foto de Fernando Figueroa Sánchez y Clara Ivanna Figueroa
http://www.youtube.com/watch?v=xKWj51HwCug

Ketil Bjornstad The Sea Part II
http://www.youtube.com/watch?v=D627sFeuBh0

Ulrich P. Lask - Unknown Realms (Shirli Sees)
http://www.youtube.com/watch?v=-tVTSuoRgr0

Keith Jarrett Staircase Part 3
http://www.youtube.com/watch?v=ePQ-JJn8r08

Hajo Weber & Ulrich Ingenbold - Karussell
http://www.youtube.com/watch?v=mT8lb8sy-LQ

Miroslav Vitous Group When Face Gets Pale
http://www.youtube.com/watch?v=_HoyrxOptEE

Egberto Gismonti Group - 7 Anéis
http://www.youtube.com/watch?v=0k5tTdNzRvU

AMM III - Radio Activity
http://www.youtube.com/watch?v=2Fh9FYUDCp0

Ralph Towner - Oceanus
http://www.youtube.com/watch?v=5DE7ScoLmp8

Jansug Kakhidze The Moon over Mtatsminda
http://www.youtube.com/watch?v=eP-BHfmotw

*Themes from an Exhibition: ECM's Selected Signs Box
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=0-l0YqMFkv0

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