#  1014

『木村文彦/キリーク』
text by 剛田武


時弦プロ/CHITEI RECORDS
時弦007
2,500円(税込)

all tracks improvised by 木村文彦Kimura Fumihiko percussion
duo improvisation with
磯端伸一 Isohata Shin’ichi(3,10 ) guitar
向井千惠 Mukai Chie(12) 胡弓、voice
additional played by
山口ミチオ Yamaguchi Michio on synthesizer(5)
宮本 隆 Miyamoto Takashi on electric bass (8)

1. Track 1
2. Track 2
3. The middle line
4. Track 4
5. The land of ‘YOMI’
6. Track 6
7. Track 7
8. 奔馬
9. Track 9
10. To white
11. Track 11
12. New sights

recorded by 大輪勝則 Owa Katsunori at studio You 8/21/2011-10/02/2011
except track 4, 6, 11 recorded by Miyamoto Takashi at studio You 7/27/2011
edited and mixed by Miyamoto Takashi
mastered by Owa Katsunori
produced by Miyamoto Takashi

関西即興シーンの中心人物・木村文彦の一発録音による生演奏集

先月紹介した磯端伸一と.es(ドットエス)という大阪在住の演奏家によるユニークな作品を聴いて、関西の即興音楽に興味を覚えた。磯端のCDのリリース元である時弦レコード主宰者、宮本隆に関西即興シーンについて尋ねたところ、「そんなシーンがあるとすれば、木村こそがその中心にいる人物です。」とのメッセージと共に紹介されたのが、大阪在住のパーカッショニスト、木村文彦のライヴ動画だった。
木村文彦 percussion、橋本孝之 sax (.es ドットエス)、宮本隆 bass(時弦旅団 Time Strings Travellers)、原口裕司 drumsのカルテットの昨年8月30日common cafeでのセッションで、肝心の木村は画面手前に背を向けており演奏の様子はほとんどわからないが、何やら忙しく動き回る仕草と、ドラマーがいるにも拘らず、くっきりと際立つ打撃音の連続に、.es橋本のいつもながらの刹那的なアルトの咆哮をはじめとする不穏な即興演奏が、さらに魔術的な空間へ導かれ、まさに只事ではない切迫感を醸し出していた。大阪で凄いことが起こっている、ということがひしひし伝わってきた。
早速昨年4月にリリースされた木村のデビューCD『キリーク』を取り寄せた。同郷の磯端伸一に加え、長年ワークショップを開き、即興演奏を追求・伝授するベテラン向井千惠をゲストに迎えた作品。フリージャズ/即興音楽に似合わぬポップなアートワークに目が行く。一見ミスマッチに思えるが、演奏内容を吟味すれば、まさに意を得て妙なイラストである。
『キリーク』とは千手観音を意味する梵語だそうだ。ドラムやパーカッションを叩きまくる打楽器奏者が、千の腕を持つ仏像に自らを例えることは不思議ではないし、次々と繰り出される音の連続体に、両手両足を使って激しく動き回る演奏風景を想像することも容易である。しかしここで注目すべきは、敢えて梵語、すなわちサンスクリットを用いたことである。古代インドでは、サンスクリットのことをサンスクリタ(saṃskṛta)と表現する。これは「精錬された」「磨き上げられた」などを意味する言葉で、「自然のままの」「平凡な」「普通の」という意味の単語で呼ばれる諸々の俗語、プラークリットと対比した呼び名である。すなわち、サンスクリットの『キリーク』を称することで、鍛練を重ね磨き上げた卓越した演奏家である、という自信と誇りを宣言しているのではなかろうか?本人に尋ねたら、恐らく深読みの挙句のこじつけと言われるに違いないが、ここに収められた演奏からは、この妄想が決して的外れではないことが伝わってくる。
打楽器のソロ即興演奏として最も広く知られるのは、富樫雅彦の『リングス』と『フェイス・オブ・パーカッション』であろう。オーバーダビングにより抒情的な音楽詩を描いた富樫に対して、一発録音の生演奏による木村の作品には、違った形のストーリー性と情景描写が満ちている。何よりジャズをはじめとするジャンルの束縛から解放されているのが素晴らしい。その意味では80年代に度々向井と共演し、現在も多様な楽器・道具を演奏する打楽器奏者、風巻隆に近い。ただし、現在の風巻の現代美術に近い即物的アプローチに比べ、木村の演奏はエモーショナルな人間性に満ちた感情表現である。「芸術家」ではなく、あくまで「音楽家」と呼ぶべきであろう。
使用楽器は、タムタム・ミニスネアドラム・シンバル類・大太鼓・玩具太鼓・鉄琴・ゴミ箱・スリットドラム・スプリングドラム・タブラッカ・サンバホイッスル・ポリバケツ・フライパン・ホーロー鍋・スチールパン・電気ストーブ・声・身体、その他。プロデューサーの宮本隆がライナーで「正真正銘のリアルタイムインプロバイザーである木村文彦に‘二回目’はない。」と書いている通り、デュオ演奏の5トラックを含め、収録されたトラックは、すべて一回限りの演奏の断片記録である。舞踏のような身体運動から産み出されるスポンテニアスな情動は、生演奏の現場でこそ体感すべきものに違いない。
木村、磯端、.es(ドットエス)、宮本...。未知なる大阪(関西)即興シーンに、他にどんな逸材が潜んでいるのか、探究したいという興味がふつふつと沸きあがってくる。(2013年7月12日記:剛田 武)

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