#  1029

『あまちゃん 歌のアルバム(大友良英)』
text by 神野秀雄


ビクターエンタテインメント
VICL-64071 \2,625(税込)
(2013年8月28日発売予定)

1. 潮騒のメモリー 天野春子
2. 暦の上ではディセンバー アメ横女学園芸能コース
3. 地元に帰ろう GMT
4. いつでも夢を 橋幸夫&吉永小百合
5. 南部ダイバー(教室バージョン)磯野先生&北三陸高校潜水土木科生徒たち
6. 潮騒のメモリー(太巻デモバージョン)荒巻太一
7. 地元に帰ろう(太巻デモバージョン)荒巻太一
8. CM いらないバイク買い取るぞう!
9. 潮騒のメモリー(お座敷列車バージョン)潮騒のメモリーズ
ボーナストラック
10. 南部ダイバー(種市高校フルバージョン)種市高校海洋開発科生徒たち
11. 暦の上ではディセンバー(オリジナル・カラオケ)
12. 地元に帰ろう(オリジナル・カラオケ)
13. いつでも夢を(1964バージョンカラオケ)
14. 南部ダイバー(カラオケ)
15. 潮騒のメモリー(スナック梨明日カラオケ)

JAZZ TOKYOで、もう「あまちゃん」ネタはいいんじゃないの、と思う方も多いだろうし、いちばんそう思ったのは自分だが、これだけ社会への影響力を持ってしまった「あまちゃん」をジャズ関連メディアでまじめにとりあげているところもあまりないし、9月放送終了までしばらくおつきあい頂きたい。そして、何よりも、フリージャズやノイズミュージック、ターンテーブル奏者を含めた活動に軸足を置きながら現在に至る大友良英の音楽・音響が日常ワールドにインパクトを持つ結果になっていることは、重要な事件と言えるのではないか。
宮城出身の宮藤官九郎の脚本、福島出身の大友良英の音楽、能年玲奈の主役によるNHK連続テレビ小説「あまちゃん」は最高視聴率22.8%、数字がどうのというよりテレビを取り巻く環境変化の中で、半年にわたり、日本中でストーリーと音楽を広く共有できている久しぶりのドラマである。元気に溢れながら、多様性を内包した<あまちゃん オープニングテーマ>が世代を超えて大人気となり、インストの劇伴では異例なことに「大友良英&あまちゃんスペシャルビッグバンド」が東北と関西を中心に全国でコンサートを行う。8月15日の「フェスティバルFUKUSHIMA!」でも、福島市・街なか広場に約5千人が集まる中、大友の地元・福島では初となるライブが行われた。「今日、アコーディオンの大口君が来られなかったんで、えー、電話して急遽トラで来てもらったメンバーがいます。」と大友から紹介されて、坂本龍一もピアニカでビッグバンドに参加。ちなみに、大友良英×坂本龍一×勝井佑二×U-zhaanのセッション(盆踊りに向けて浴衣姿)でも坂本はピアニカで参加し、<テクノポリス>、<あまちゃん オープニングテーマ>を演奏した。同時期に福島・会津出身の新島八重を主人公にした大河ドラマ「八重の桜」の音楽を坂本が担当していることもひとつの縁である。
さて、「あまちゃんオリジナル サウンドトラック」が6月19日に発売され、オリコンアルバム1位、初日2万枚という記録的なセールスとなったが、その際、歌が収められなかったことを残念に思う声が多数あった。もともとサウンドトラックには歌は収録されないことも多い上に、これには出し惜しみや権利関係ではない理由があった。『あまちゃん』のストーリーは、主人公の天野秋(能年玲奈)、母の天野春子(小泉今日子)、祖母の天野夏(宮本信子)の過去と現在と未来が交錯している。いわば『スターウォーズ』がエピソード4から始まるような作りになっていて、大切な歌が誰の歌なのかというオーナーシップさえ不明であった。東京・芸能界編が進行し、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)名義であった<潮騒のメモリー>が、実は17歳の天野春子(役は有村架純、歌は小泉今日子)が影武者で歌っていたことが明らかになったことで、ようやく発売が可能となった。ストーリー上では天野春子はデビューすることなく闇に葬られるが、その無念さがリアルワールドでの天野春子名義でのシングルCDと『あまちゃん 歌のアルバム』の発売で晴らされる形となった。
1986年の<潮騒のメモリー>、2009年の<暦の上ではディセンバー>、ヒットチャート1位となったという設定の歌謡曲を劇中で作ることは相当にチャレンジングだ。余談だが、この原稿を錦糸公園のベンチで「宇崎竜童&Team KITAJIMA」ジャズライブ(宇崎も大友に先駆け明治大学でジャズを演奏していた)を横で聴きながら書いている。歌われている山口百恵に書かれたヒットチャート1位の曲の数々の凄みに圧倒される一方、宇崎は山口がどんな変化球も受け止めてヒット曲に昇華させる真の天才であったことに言及していた。
ラブソングの常識を破壊し、昭和のヒット曲をコラージュした<潮騒のメモリー>の歌詞を宮藤は5分で書いたというが、さすがの大友も一人でNo.1ヒットとなる歌謡曲を完成させるのは厳しく、<潮騒のメモリー>にサインウェイブ奏者のSachiko Mが作曲のメインに加わり、江藤直子、高井康生も協力、<暦の上ではディセンバー>ではさらに江藤、高井が作曲者に加わる。いわゆる音色やメロディーを捨て正弦波のみにこだわってきたSachiko Mが歌謡曲を書くことはそれ自体衝撃であったが、新宿ピットインでの『大友良英サウンドトラックス』では自ら歌うサプライズもあり感動的だった。
<潮騒のメモリー>では、1980年代歌謡曲の特徴を徹底的に研究し、2012年9月の原案から完成まで半年も練られている。特筆すべきは、小泉今日子も参加し積極的にアイデアを出していたことで、たとえばクライマックスのひとつとなる「波のように」に続く「激しく〜〜」は小泉の発案という。また『schola 音楽の学校 シーズン3』収録のためにNHK放送センターにいた某氏がスタジオに顔を出し、大友の相談に応え手を加えて行く。また江藤も手を加え編曲し、いずれも「手を加えた」ポイントが後に曲を強く印象づけることとなる。何よりも小泉今日子に委ねられる中で「小泉節」として歌に生命が宿り、編曲、収録にも力が入り、ドラマのスタッフ全体のチームワークの中で仕上がって行く。そして7月31日にシングルCDとして発売されると実際にオリコン1位を獲得する。
この制作秘話については、KBS京都ラジオ『大友良英のJAM JAMラジオ』ポッドキャスト版で大友、江藤、Sachiko Mが2週にわたり語っているので聴いて頂きたい。大友は多弁・多筆であり、『大友良英のJAM JAMラジオ』の他、ブログ『大友良英のJAM JAM日記』、サントラのライナーノーツも含め、制作過程がリアルタイムで公表されているのも異例で、関心のある方は、ドラマのストーリーと音楽と大友のコメントを同時に追うのは貴重な体験になると思う。<暦の上ではディセンバー>についても上記のポッドキャストやブログをご参照頂きたい。
ボーナストラックのカラオケの一部についても、単に歌を抜いただけでなく、たとえばスナックのカラオケのチープさを表現するために高井が一から打込みを行った。それは「音響」に徹底してこだわる大友の姿勢であり、スコアリングが中心となる映画・ドラマ音楽のあり方とは一線を画すことを象徴している。また、ドラマの終盤に向けて、大友は音楽のバリエーションを増やし300曲を超える。宮藤の多発する小ネタに対抗するとも語っているが、既出の曲の表現や音色の幅を急速に広げ、ノイズ的なギターの音使いも増えている。ドラマ開始時に意外性も感じながら受け止めた大友の音楽のブレイクも、そのキャリアと世界観があって実現していることを実感する。まだまだ先の見えない大胆なストーリー展開の中、大友とそのチームによる音楽もどこまで突き進むのかを楽しみにしたい。

【JT関連リンク】
http://www.jazztokyo.com/live_report/report542.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report556.html
http://www.jazztokyo.com/five/five1013.html

【関連リンク】
大友良英JAM JAM日記
http://d.hatena.ne.jp/otomojamjam/
KBS京都ラジオ 大友良英のJAM JAM ラジオ ポッドキャスト版
http://www.kbs-kyoto.co.jp/radio/jam/
NHK連続テレビ小説「あまちゃん」
http://www1.nhk.or.jp/amachan/
プロジェクトFUKUSHIMA!
http://www.pj-fukushima.jp/

【追記】
<潮騒のメモリー>参加ミュージシャン
プロデュース:大友良英
作詞:宮藤官九郎 作曲:大友良英、Sachiko M
小泉今日子(vo) 大友良英(g) 江藤直子(p) 近藤達郎(keyb) 今堀垣雄(g) かわいしのぶ(b) 芳垣安洋(ds, perc)
ストリング: 金原ストリングス
コーラス: サンズリバーズ(高瀬"Makoring"麻里子、飯田希和、加藤圭子)
エンジニア: 薮原正史 ディレクター: 木谷徹(ビクター)制作: 佐々木次彦


天野春子(小泉今日子)/潮騒のメモリー
(ビクターエンタテインメント VICL-36830)
2013年7月31日 12cmシングル
\700(税込)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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