#  1045

『Yeahwon Shin/Lua Ya』
text by 多田雅範 (Masanori Tada)


ECM 2337

Yeahwon Shin(voice)
Aaron Parks(piano)
Rob Curto(accordion)

Lullaby (Shin/Parks/Curio)
Moving Clouds (Chung Keun/Lee Soo Yin)
Island Child (Han Yin Hyun/Lee Hong Rueol)
Mysteries (Shin/Parks)
The Moonwatcher And The Child (Yoon Seok Jung/Hong Nan Pa)
The Orchard Road (Park Wha Mok/Kim Gong Sun)
Remembrance (Choi Soon Aeh/Park Tae Jun)
Beads Of Rain (Kwon Oh Soon/Ahn Byung Won)
A Morning Song (Shin/Parks)
Travel Blue (Shin/Parks)
Beads Of Rain, var. (Kwon Oh Soon/Kim Gong Sun)
The Orchard Road, var. (Park Wha Mok/Kim Gong Sun)
Sunrise (Shin/Park)

Recorded by Rick Kwan at Mechanics Hall,Worcester,MA, May 2012
Mixed by Jan Erik Kongshaug, Manfred Eicher and Sun Chung at Rainbow Studios, Oslo
Produced by Sun Chung

イェーヲン・シン。女性ヴォーカル?韓国系?

サンプル音源を一聴して、ECMは新しい時代に突入したことを、すでに何かが始まっていたことを告げられた。この歌は、どこから来ているのだろう?...それにしても、このピアノの音、ピアノのタッチに連れてゆかれる。思うのだ、ピアノを録音するレーベルとしては新時代の一等地を確保しているではないか、アンドラーシュ・シフをクレイグ・テイボーンをボボ・ステンソンをケティル・ビョルンスタを耳にするこの10年に。しかし、この盤でのピアノの音の立ち現れる距離はこれまでのものとは違う感触も持つ。

無垢で、よだれがたれるくらいに甘えてもいいだなんて、子守唄、アコーディオンの郷愁。

歌を、インプロヴァイズドなヴォイスを、楽器を聴くとき、歌い手の母国語を探る構えはあると思う。そもそもわたしはインプロヴァイズド・ミュージック全般に対して、奏者の母国語というファンクションを先立って感知してしまう偏向がある。なぜ、このような作品が日本で起こらなかったのか、ヨーロッパやラテンアメリカやイスラム圏のどこかの国のシンガーでもまた可能なのか、そんな余計なこともやっぱり考えてしまう。80年代のポストパンクの日本に存在してもいいではないか、とか。

連想は飛び。電電公社の音声の音質は、進化させていない。音質が良くなると、ヘンタイが増えてしまうからだ。見知らぬ若い女性が耳元で囁く、唾液の流れやべろの動きまで聴こえてしまう。そうなら、もうCD買わない、ヘンタイになる。

イェーヲン・シンの唾液の流れやべろの動きまで聴こえてしまうレコーディングだったりするんだぜ。

核心はそこではない。耳をそばだてること、だ。先鋭的テクノでも、高音質なR&Bでも、弱音系インプロシーンでも、たぶんどこでも、サウンドの解像度というのは進化していて、言うならば、エレクトロアコースティックな水準の更新で、そばだてる耳も変化している。耳が変化すれば、音楽も変化し、録音も進化する、あ、逆か、逆か?

この作品は、エレクトロアコースティックへの適応もふまえた上での、立ち現れたアコースティックECMミュージックだと思う。

アイヒャー・プロデュースのECMサウンドには、40年来の変遷と歴史の確立があるけれども、それにしても、このサウンドの涼しさはどうだ、抑圧の無さは何なのだろう、

ここまで考えたところで、わたしは、この作品がECMの新しいプロデューサー、サン・チョンの手によるものだとクレジットで知ったのである。サン・チョン制作の第1弾がこれなのだ。ECMレーベルの後継者となるべくマンフレート・アイヒャーの許で研鑽し、これが世に問うた第1弾。

(はいはい、サンプル音源を一聴して、ECMは新しい時代に突入したと断じたことを、自慢しているんです、わたしはECMファンクラブ会長 since 1982 なのですからね)

経緯は、サン・チョンがアーロン・パークスのピアノ・ソロを録音している時に、イェーヲン・シンと即興で合わせてみたところ、二人の異様な音楽的感性の合いかたで、このトリオ編成での録音に進んだということらしい。これはちょっと、ドラマチックだ。

イェーヲンは10年に ArtistShare から初リーダー作『Yeahwon』をリリース、サイドメンが凄い、マーク・ターナー、ジェフ・バラード、ベン・ストリート、1曲だけエグベルト・ジスモンチ参加、とても並みの新人とは思えないメンバーで。ArtistShareは大手の影響を排した自主制作的な方針でのレーベルだ。11年にはカエターノ・ヴェローソやミルトン・ナシメントとともにグラミーにノミネートされる快挙であったとのこと。

し、知らなかった...。韓国のジャズ雑誌で表紙を飾っている(別号でアイヒャーも飾っている)。

ECMの新しいプロデューサー、サン・チョンは指揮者チョン・ミョンフンの息子で、ヴァイオリンのチョン・キョンファは伯母さんだ。サン・チョンは、NYの菊地雅章のロフトに出入りし「レーベルを作るから!」と言い、消えた若者だったともきく。

まだ、音楽のことを書いていない。ヨーロッパ的な視線が感じられない。子守唄のようなアルバムでもある。インプロヴァイズすることが至上な音楽ではない。なぜ日本でこれが起こらなかったのかをまた考える。彼女もまた、反重力の系譜なのだろうか?ぼくはまだ韓国出身の演奏家たちを知らなすぎる。ECMは、知らない場所へ誘(いざな)っている。(多田雅範)

* 試聴サイト;
http://player.ecmrecords.com/yeahwon-shin---lua-ya

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NEW1.31 '16

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COLUMN
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#10 Contents
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