#  1096

『Norma Winstone /Dance Without Answer』
text by 神野秀雄


ECM2333

Norma Winstone(voice)
Glauco Venier (p)
Klaus Gesing (b-cl, ss)

1.Dance Without Answer (K.Gesing/Lyrics:N.Winstone)
2.Cucurrucucu Paloma (T.Mendez/Lyrics:N.Winstone)
3.High Places (K.Gesing/Lyrics:N.Winstone)
4.Gust Da Essi Viva (G.Venier/Lyrics:N.Winstone)
5.A Tor A Tor (G.Venier/Lyrics:Trad.)
6.Live To Tell (P.Leonard/Lyrics:Madonna)
7.It Might Be You (D.Grusin/Lyrics:A.&M.Bergman)
8.Time Of No Reply (N.Draktse)
9.San Diego Serenade (T.Waits)
10.A Breath Away (R.Towner/Lyrics:N. Winstone)
11.Bein' Green (J.Raposo)
12.Slow Fox (K.Gesing/Lyrics:N.Winstone)
13.Everybody's Talkin' (F.Neil)

Recorded December 2012
Auditorio Radiotelevisione svizzera, Lugano
Engineer: Stefano Amerio
Photo: Jan Kricke
Design: Sascha Kleis
Produced by Manfred Eicher

In collaboration with RSI Rete Due, Lugano

イギリスのヴォーカリスト、ノーマ・ウィンストン、イタリアのピアニスト、グラウコ・ヴェニエル、ドイツのサックス/クラリネット奏者のクラウス・ゲシングとのトリオ。2013年9月6日、ソウル・アーツ・センター(SAC)で、このノーマ・ウィンストン・トリオのコンサートを聴くことができた。8月末〜11月にわたってソウルで開催された「ECM: 沈黙の次に美しい音」展のオープニング・コンサート・シリーズのひとつだった。終演後、ノーマに「素晴らしいコンサートをありがとう。日本にもぜひいらしてください。」と言うと「あら、明日行くわよ。私用だけど。」その後、上海でもコンサートが開催された。トリオのコンサートが日本で実現しなかったのはとても残念だ。今、『Dance without Answer』を聴いてさらにその想いを強くする。
この素晴らしいトリオでの最初の録音は、2002年、オーストリア・ユニバーサルミュージックでの『Chamber Music』。ECMでは2007年に録音され、グラミー賞にノミネートされた『Distance』から3作目になり、2012年12月にスイスのルガーノでマンフレート・アイヒャーをプロデューサーに録音された。ソウル・コンサートでも、その時点で未発表だった『Dance without Answer』から多数の曲が取り上げられていた。このアルバムを聴いていると、ソウル・コンサートでの静かな興奮が甦ってくる。研ぎ澄まされた緊張感と、穏やかな安らぎが同居する心地よい空間。この不思議な空間は、自然なのか、人工物なのか、ECMではしばしば戸惑う点だが、コンサートとアルバムの音響は完全に一致していて、いずれも3人の音楽を正確に伝えている。1987年夏にニューヨーク「Fat Tuesday」で聴いたアジマス(ジョン・テイラー、ケニー・ホーイラー、ノーマ・ウィンストン)でも、人工的に思えていたアルバム通りの音響が、ライブで聴けてそれがとても自然であることに驚いたことを思い出す。それは「ECMサウンド」への誤解が解けた瞬間でもあった。
クラウスのどこまでも深く美しいソプラノサックス&バスクラリネットの音色とグラウコのピアノの透き通った美しい響きが生み出す部屋があり、風景があり、ノーマの声がその空間を満たしていく。沈黙が常にあり、透明の空気がそこにある。3人は「沈黙」の感覚を共有し、巧みに音を使うことにより「沈黙」を表現しているというのが正しいかもしれない。ほぼ同時期に『東かおる&西山瞳 / Travels』も聴いていて、ノーマ・ウィンストンの影響も感じ取れたが、対比してみるとノーマ・ウィンストン・トリオでは沈黙が常に透けて見える印象であるが、「Travels」ではグループとして重層的に音が聴こえる感があり、沈黙とは距離がありサウンドの考え方に違いを感じる。
『Dance without Answer』では、ノーマ、クラウス、グラウコの作詞作曲の作品に加えて、他のミュージシャンの曲にノーマが詞をつけたもの、そして幅広い範囲からの曲がカヴァーされている。2曲目の<Cucurrucucu Paloma>は、カエターノ・ヴェローゾのヴァージョンにインスパイアされたという。ラルフ・タウナーの<A Breath Away>、マドンナの<Live To Tell>、デイヴ・グルーシンの<It Might Be You>も。そしてアルバム全体は「farewells」がテーマになっているといい、ソウルのコンサートでもそう言っていた。なるほど、この巧みな沈黙、寂しさと切なさも感じるこの空間は、別れの表現と言われればとてもしっくりくる。でも、そこにあるのは冷たさではなく、暖かさであることも強調しておきたい。それは、コンサートでも3人の音からも姿からもふるまいからも伝わってくるものだ。
あらためて、響きの美しさ、沈黙の美しさ、つまり「沈黙の次に美しい音」の原点を教えてくれるような、このトリオの来日がいつか実現することを強く望みたい。
© Glauco Comoretto, ECM Records


© Glauco Comoretto, ECM Records


© Glauco Comoretto, ECM Records

【関連リンク】
Norma Winstone Official Website
http://www.normawinstone.com/discography
Klaus Gesing Official Website
http://www.klausgesing.com
ECM Player “Dance without Answer”
http://player.ecmrecords.com/winstone-venier-gesing--dance-without-answer
ECM Player “Stories Yet To Tell”
http://player.ecmrecords.com/winstone
“Stories Yet to Tell” PV - Universal Music France
(マンフレート・アイヒャーが参加した録音風景を含む)
http://www.youtube.com/watch?v=7f0jKIGwz7Q

【JT関連リンク】
「ECM: 沈黙の次に美しい音」展(ソウル・速報版)
http://www.jazztokyo.com/live_report/report574.html


Norma Winstone / Stories Yet To Tell (ECM2158) 2009


Norma Winstone / Distance (ECM2028) 2007


Norma Winstone / Chamber Music (Universal)


Azimuth (ECM1099)


東かおる&西山瞳 / Travels

神野秀雄(かんの・ひでお)
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。

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