#  1143

『ERNST GLERUM〜URI CAIN/SENTIMENTAL MOOD』
text by Yumi Mochizuki


Favorite Records (FAV9)

Ernst Glerum (b)
Uri Caine (p)

1. Black&Tan Fantasy (D.Ellington)
2. I Surrender Dear (H.Barris)
3. Evidence (T.Monk)
4. In A Sentimental Mood (D.Ellington)
5. Yesterdays (J.Kern)

エンジニア:Frédéric Bétin
録音:2013年2月 アムステルダム、Abma Studioにて

センチメンタル・ムードというアルバムのタイトルがすべてを語っている

深い慈しみのあるセンチメンタルなムードが全編に漂っている。
演奏されている曲は1920年代から1940年代にかけてのアメリカの佳曲が選ばれ、多くの人が聴くとはなく自然に耳になじんでいる曲ばかりで、忘れかけていた曲本来がもっていた力を想いおこさせてくれるような心あたたまる小品集である。これらの曲のテーマはエルンスト・フレールム(グレールム)の弓弾きで奏でられ、ゆったりとしたスローなテンポで沈着冷静に二人の思いをただよわせていて、センチメンタル・ムードというアルバムのタイトルがすべてを語っている。

エルンスト・フレールム(グレールム)(b)とユリ・ケイン(p)によるベースとピアノのデュオ。
ベースとピアノのデュオではジミー・ブラントン(b)とデューク・エリントン(p)、チャーリー・ヘイデン(b)とキース・ジャレット(p)、ゲイリー・ピーコック(b)とポール・ブレイ(p)、エデイ・ゴメス(b)とビル・エヴァンス(p)など数多くのコンビが名演を残しているがエルンスト・フレールム(グレールム)(b)とユリ・ケイン(p)の二人もこれらの名匠たちにならぶ演奏を創りあげた。エルンストとユリはアメリカン・ミュージックの伝統を深く理解した上でまったく新しい二人だけの世界を創りだしている。

エルンストは1955年アムステルダムの出身、つい先ごろICPオーケストラで来日したのでお聴きになられた方も多いと思うがICPのほかにBBG(Bennink-Borstlap-Glerum)、『Omnibus』シリーズなどの作品で知られている。アムステルダム音楽院でベースを学び、学生時代からASKOアンサンブルに参加するなど現代音楽にもかかわり、またアムステルダム音楽院のコントラバスの教師でもある。
2004年に自己のレーベル「Favorite Records」を立ち上げ、BBGやオムニバス・シリーズを発表しているが、本作品『SENTIMENTAL MOOD』(FAV9)もその中の一枚。エルンストは楽器へのこだわりも強く、今回は大きさが87cmのハーフサイズダブルベースを使用している。ブックレットにはエルンストが椅子に座りチェロのように弾いている写真が載っている。サイズはハーフだがつむぎだされる音色は重厚で美しい。

ピアノのユリ・ケインはフィラデルフィアの出身でバーナード・ペイフェール(p)についてピアノを勉強したのだそうだ。フィリージョー・ジョーンズ(ds)やジョー・ヘンダーソン(ts)からデイヴ・ダグラス(tp)やジョン・ゾーン(sax)までと、こちらも幅広い分野で活動している。アムステルダム「ビムハウスBimhuis」(http://bimhuis.nl/home)でのハン・ベニンク(ds)とのデュオ・ライヴ『Sonic Boom』は好評だった。
ここでのユリは華麗な装飾音を付けたり、饒舌に弾きまくることもなく簡潔に選び抜いた音を丁寧に弾いてエルンストとの調和を保っている。

二人は1998年にドン・バイロン(cl)のフランス・ツアーに参加した時に出会い、その後エルンストが「ビムハウス」へユリ・ケインを誘ったりして親交を温めてきたそうだがここでも二人の交流の深さを感じる。

エリントンの(1)< Black&Tan Fantasy>はエルンストの弓弾きでテーマが奏でられるが、その深い響きからは、はるか遠い昔のエリントン・サウンドが浮かび上がる。ベースの弦から、まるでハリー・カーネイ(bs)が居るかのように聴こえるから面白い。続いてソロをとるユリ・ケインは音数少なくストレートに端正に弾く。ジョン・ルイス(p)か渋谷毅(p)のようにまさにシンプル・イズ・ザ・ベスト。(2)<I Surrender Dear>は、もともとはビング・クロスビー(vo)がヒットさせた曲なのだそうだがモンクの愛奏曲でもあり、『ブリリアント・コーナーズ』(Riverside、1956)と『ソロ・モンク』(CBS、1964)でソロを弾いている曲で、おそらくモンクは子供の頃、巷から流れてくるこの曲を聴いていただろう。こうした曲にエルンストはアメリカン・ミュージックのルーツを求めたのであろう。また、本作にはモンクとエリントンの影が奥にひそんでいる。(1)<Black&Tan Fantasy>はモンクも『Plays Duke Ellington』(Riverside、1955)でこの曲を弾いているし(3)< Evidence>もモンクの曲。(4)<In A Sentimental Mood>もエリントンの曲で、みんなエリントン〜モンクでつながっている。また、ここでのユリ・ケインはいつものユリらしいフリーな一面を少しだけのぞかせるがその内容はセンチメンタルでデリケート。(5)<Yesterdays>はビートルズの曲ではなくジェローム・カーンの曲。繊細で深いエルンストの弓弾きがそこはかとない風情をたたえる。

ジャケットのレーベル表記のところに「E.P. Favorite」と記されている。おそらくCDのEP盤だということを表現しているのだと思われる。このアルバムは全5曲で21分ほどの長さで、丁度LPレコードの片面分の長さである。音楽に集中して向き合うにはちょうど良い長さで、つくづくLPというのはよくできていたなあと思う。近頃はCDという器(規格)に合わせて70分をこえる作品が多くなっているが一気に聴くにはちょっとしんどいものもままある中で、このアルバムは内容が凝縮していればこの長さで十分よい作品が作れるんだということを実証してくれている。(望月由美)

※編集部注
オランダのベーシストErnst Glerumのカタカナ表記について、これまで一部のレコード会社や販売店にて「グレールム」との表記がなされていましたが、オランダ語の発音に即して「フレールム」という表記へ移行しつつあることをふまえて、筆者の承諾のもとエルンスト・フレールム(グレールム)としました。
招聘した東京ジャズのサイト
http://www.tokyo-jazz.com/jp/program/program_club.html
スーパーデラックスのサイト
https://www.super-deluxe.com/room/3725/

望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。
フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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