#  1154

『FRANCK AMSALLEM SINGS VOL.2』
text by Masahiko Yuh


FRAM FRA -0002

フランク・アムサレム Franck Amsallem (piano, vocals)
シルヴァン・ロマーノSylvain Romano (bass)
カール・ジャヌスカ Karl Jannuska (drums)

1. ネヴァー・ウィル・アイ・マリー
2. イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ
3. ジンジ
4. ボディ・アンド・ソウル(身も心も)
5. イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー
6. パリス・リメインズ・イン・マイ・ハート
7. ジャスト・ワン・オヴ・ゾーズ・シングス
8. ザ・セカンド・タイム・アラウンド
9. ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン
10.トゥ・フォー・ザ・ロード

2013年1月 スタジオ・セクスタント録音

久しぶりに味わい豊かなミュージシャン・シンガーぶりを満喫

 これといって特筆すべきヴォーカリストとしての風格とか威厳味があるとは思えず、うっかり通り過ぎてしまう、そんなシンガーがたまにいる。ジャズの弾き語りの人、あるいは楽器を演奏するプレイヤーにこのタイプのシンガーが少なくない。ところが、ふとした機会にじっくり聴くと、これまで余り気がつかなかった味わい深さに心を温められることがある。往年の人でいうならジャック・ティーガーデンや、あるいはモーズ・アリソン、ボブ・ドローとか、チェット・ベイカーやマット・デニスら。このフランク・アムサレムもレコード評で取り上げる意図がなければ、気持よく耳に入ったあと淡い余韻を残してひそやかに通り抜けてしまったかもしれない。このアムサレムのように、スタンダード曲の中でもときには人目を忍んで花を咲かせるような玄人好みの佳曲をいとおしむように歌うタイプのシンガーは、残念なことに昨今あまり見かけなくなった。昔は、これといった褒め言葉が見当たらなかったせいか、”趣味のよいシンガー”といったお定まりの言葉を冠されることが多かったが、かつてはナット・キング・コールも例外ではなかったように味のある弾き語りや弾き歌いの名手が少なくなかった。このアムサレムもピアノがうまい。うまいなどという言い方は、92年に彼にとっての吹込デビューとなった『Out A Day』をゲイリー・ピーコック(b)、ビル・スチュアート(ds)という名手と組んで演奏した来歴を誇るアムサレムにはかえって失礼かもしれない。
 フランク・アムサレムは1961年10月25日、アルジェリアのオラン生まれのフランス人。長じて81年にボストンのバークリー音大でハーブ・ポメロイとマイケル・ギブスについて学んだ。彼が作編曲を自在にこなすのも、ポメロイとギブスに学んだことが大きい。数年後に彼の作品「Obstinated」がサド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラで演奏されたり、自国フランスの国立ジャズ・オーケストラで再演されたりしたのも決してゆえなきことではない。決してフロックでも偶然でもないのだ。ただ、ヴォーカル・アルバムでは現代のスタンダード曲の多くを生んだ往年の黄金時代の作曲家たちの作品を歌うことに主眼をおき、自己のオリジナル曲といえば本作では(6)の1曲だけ、本作の4年前に発表した第1集に当たる弾き語りCDにいたっては自作を1曲も歌っていない。それだけヴォーカル・アルバムと他のアルバムとは厳格に区別しているということだろう。
 バークリー卒業後の86年にニューヨークへ進出した彼は、マンハッタン音楽院で学ぶ傍らジェリー・マリガン、チャールス・ロイド、ケヴィン・マホガニー、ジョシュア・レッドマンらと共演し、ほどなく先記のトリオ作吹込を敢行した。彼がフランスへ戻ってパリでの活動に専念するようになったのは2001年。彼の活動がわが国に伝えられなかった理由とも関連するかもしれない。
 アムサレムが本来ピアニストであることは、先のピアノ・トリオによるデビュー作からも窺えることだが、ヴォーカルとはいったん切り離して本作での彼のピアノ演奏に照準を合わせれば、彼が優れたピアニストであることは一聴瞭然だ。ところが、彼がこのアルバムに寄せた短いコメントの中で、こんなことを書いている。「ジャズは今日、シンガーと彼らが歌う唄を通して私に語りかける。歌う行為は自己表現の中で最も純粋な形式だ。だからこそ私は、歌うことを通して、歌と出会わなければ知らないままフイにしたかもしれない音楽的メッセージを、聴く者に伝えようと努めるのだ」。そして締めくくる。「そんなわけで、ほかの演奏家たちと違って、私はシンガーと彼らが歌う唄が大好きなのだ」。
 アムサレムが好んで歌う楽曲の大半はいわゆるスタンダード曲。その中の幾つかには、今日のシンガーの歌では滅多に聴けなくなった佳曲、あるいはスタンダード史に名を刻む作曲家たちの香り高い名歌が少なくない。たとえば、先掲の第1集『Amsallem Sings』で<I Get Along Without You Very Well>(J・トンプソン詞/ホーギー・カーマイケル曲)や近年ではジェイミー・カラムが取り上げている<In the Wee Small Hours of the Morning>(B・ヒラード詞/デイヴィッド・マン曲)を聴いたときは感涙しそうになった。本作の<The Second Time Around>(S・カーン詞/ジミー・ヴァン・ヒューゼン曲)もそう。美しい曲は、どこがどのように美しいかを、彼は作曲者の気持に即しながら歌い上げるのだ。ましてや冒頭の<Never Will I Marry>(フランク・レッサーのミュージカル「Greenwillow」)などは、私の場合デビュー直後のナンシー・ウィルソンで聴いて以来最近は奇妙に耳にしていない。決して大向こうを唸らせる唱法ではないが、何度聴いても聴き飽きることがない。それが彼のヴォーカル表現であり、持味だ。
 そのオープニング曲、<Never Will I Marry>がなかなかいい。味がある。それと彼のピアノが単なる弾き語りの域を超えた技法とタッチでベースやドラムスと一体化する気持よさ。その一体的演奏を通してヴォーカルの味を引き立てる、爽やかなノリのよさが聴く者を魅惑する。20年にも及ぶ米国での活動で彼がいかに貴重な体験を積み重ね、さまざまなミュージシャンやグループから多くを吸収したかが、この1曲で如実に分かる。J・V・ヒューゼンの名歌(5)<It Could Happen to You>がロマーノの優れたベース・ソロを含めて、本作のベスト・トラック。器楽プレイヤーのヴォーカルのスマートな質感がストレートに発揮された1曲だと思うが、器楽奏者らしい息遣いやリズミック・フィーリングを縫うようにしながらメロディーを綴っていくヴォーカル表現に、アムサレムらしい格調が刻印されている。
 (6)だけが彼のオリジナル。フランス語で歌うとシャンソンに聴こえるのが不思議。ヒューゼンの<The Second Time Around>の弾き語りも味わい深いが、それ以上に感慨深かったのがアーヴィング・バーリンの傑作バラード<How Deep Is The Ocean>。往年のクロスビーをはじめ定評あるヴォーカルはほとんどがバラードだが、アムサレムはベースのフォービートに乗って軽妙なヴォーカルを披露する。そのあとの本編唯一のスキャットも聴きもの。スキャットというよりは声によるアドリブ・ソロといいたいほど、プレイヤーなればこその妙技といいたい1コーラスだった。この直後のトリオ演奏でのピアノ・ソロも出色。全編を聴いて彼がパウエル派のモダン奏法に立つピアニストであるのは明白だが、セロニアス・モンクらの影響をも消化した奏法の持主でもある点を見逃すべきではない。こういうアメリカン・スタンダード曲に妙味を発揮するフランスの、それも優れたモダン奏法を身につけたピアニストという存在自体がむしろ珍しい気はするが、それだけに得難い”ミュージシャン・シンガー”といってよいだろう。それはともかく久しぶりに味わい豊かなミュージシャン・シンガーぶりを満喫させてもらった。(悠 雅彦)

悠 雅彦 Masahiko Yuh
1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、朝日新聞などに寄稿する他、ジャズ講座の講師を務める。 共著「ジャズCDの名盤」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽之友社)他。本誌主幹。

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