#  1184

『クリス・ポッター・アンダーグラウンド・オーケストラ/イマジナリー・シティーズ』
text by Masanori Tada


ECM/ユニバーサル・ミュージック
UCCE-7023 \2700(税込)

Chris Potter (tenor and soprano saxophone, bass clarinet)
Adam Rogers (guitars)
Craig Taborn (piano)
Steve Nelson (vibraphone and marimba)
Fima Ephron (bass guitar)
Scott Colley (acoustic bass)
Nate Smith (drums)
Mark Feldman (violin)
Joyce Hammann (violin)
Lois Martin (viola)
David Eggar (cello)

1. Lament
2. Imaginary Cities 1 Compassion
3. Imaginary Cities 2 Dualities
4. Imaginary Cities 3 Disintegration
5. Imaginary Cities 4 Rebuilding
6. Firefly
7. Shadow Self
8. Sky
Music by Chris Potter

Recorded December 2013@Avatar Studio, NY

クリス・ポッター・アンダーグラウンド!!!…オーケストラ?はあ?と思う。

「哀歌」と題された1曲目、優雅で緩やかなオーケストレーションと、クリス・ポッターの朗々としたサックス・・・。まるでECMではないか・・・、粒立ちの儚げなピアノが際立つ。わずかな時間、ギターがカラーリングされたようだったのが、2曲目で対照的に華やぐのだった。

2曲目は、1曲目のセカンド・ヴァリエーションのように組曲の第一楽章。

コンポジションを並べる際に、四楽章の組曲を確定させて、のちに「哀歌」を冒頭用に仕上げたのだな、と、聴きながら“読む”わたくし。

真の実力者デイヴ・ホランド(ベーシスト)の長年のグループで研鑽したクリス・ポッターのコンポジション資質のスケールのありよう、それをファンクやグルーヴで沸騰させたかのような自分の出世グループ“アンダーグラウンド”での大活躍。“アンダーグラウンド”はサニーサイド(レーベル)からのヴィレッジ・ヴァンガード・ライブ盤2枚で堪能でき、人気投票ナンバー1(この記事参照→http://www.jazztokyo.com/best_cd_2014b/best_cd_2014_inter_10.html)になる原動力になった。

もうひとつの原動力はパット・メセニー・ユニティ・バンド/グループへの定着。

本作は、アンダーグラウンドで発揮するコンポジション資質を、バンドをアコースティック仕様に置き換え、弦楽四重奏の響きの美学と調和させた見事な大作なのだ。なんだか、聴かなくても書けるような記述になってしまうことに苦笑してしまうが、スティーヴ・ネルソンのヴィブラフォンが華やぐと、デイブ・ホランドのグループとは一枚上手な敷き詰め感が心地良く、思わず熱くなってゆくのであった。この、じっとくる感じは赤外線放射のある銭湯の感じなのかな。

しかしながら、ぼくがポッターを評価する原動力になったのは。

『Paul Motian Trio 2000+One/On Broadway Vol. 4 or the paradox of continuity』
http://www.enpitu.ne.jp/usr/bin/day?id=7590&pg=20080123

『ポール・モチアンTrio2000+Two/ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード Vol. III』
http://www.jazztokyo.com/five/five740.html

『Chris Potter/ウルトラハング Ultrahang』
http://www.jazztokyo.com/newdisc/609/potter.html

このラインである。

ジャズのサックス奏者としての、インプロ能力、これに尽きる。

そう、『ウルトラハング』の次なる獰猛さと不穏の顕現を待っているのだ。

ECMレーベルはクリス・ポッターを捕獲した。ECMに獰猛さと不穏を期待することはできない。

『クリス・ポッター/ザ・サイレンズ』 ECM初リーダー作
http://www.jazztokyo.com/five/five972.html

ECMでのセカンド・リーダー作として本作を位置付けてみると、落ち着きは良い。ECMらしい上質な音楽である。

つまりは、わたしはいつもないものねだりをしては、ECMならではの果実を見失ってばかりいるようなのか。


(付録)
クリス・ポッターについては、08年のJazz Tokyo年間ベスト記事を参考のために復刻しておく。

『おいらの偏狭な現代ジャズ・ヴィジョン』 2008年12月25日記

『ポール・モチアン・トリオ2000+2/ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード Vol.II 』
定価¥2,625(税抜価格¥2,500)BOM25007(ボンバ・レコード)

この盤を今年のベストに掲げるにあたって、ひとこと言いたい。ジャズはもういい!・・・、あ、まちがった、おいらの偏狭な現代ジャズ・ヴィジョンは今日の作文でひと段落つけたい。だって今行きたいクラシックのコンサートがたくさんあるのだし、来年はクラシック漬けになってほっぺたぴかぴかになりとうでごわす。2008年は指揮者の井上道義62さいとグスターボ・ドゥダメル27さい(ベネズエラ)にコンサートで出会いましたし、三善晃作品全国駆け付けプロジェクトも4年目を迎えまする。ジャズは若いひとにまかせまする、・・・と言いつつJazz Tokyoサイトのジャズ部長代理にもなってしまおうかと虎視眈々。・・・そんなアンビバレンツな心境の中での海外盤ということですが、まー、演奏の驚異という点では、まさにグールドスタンダードを40年ぶりに更新する演奏だったセルゲイ・シェプキン、解像度、スケール、技術、動き、速度、フレキシブル、これはもうハイヴィジョンのゴルトベルグだと言っていいもので、そのCD「シェプキンのゴルトベルク」だったりする。このCD、メジャーから出たものじゃないところにも応援魂が宿る。「シフのECMゴルトベルク」と「高橋悠治76年ゴルトベルク38さい」と併せて今年は記憶したいのだ。

で、今年のJazz Tokyoベストには、『The Remedy: Live at the Village Vanguard/Kurt Rosenwinkel Group』 ArtistShare (2008)を掲げることにさっきまで決めていた。ところがこの盤についてわたしが書いた新譜レビュー(おいらならではの形容がうまいぞ)が次回更新で掲載されるので、同じヴィレッジ・ヴァンガードのライブでもモチアンのほうを選ぶことにした。わたしは昨年の年間ベストに掲げた『Night Songs/Ferenc Nemeth』 Dreamers Collective Records (2007)に続いて、そろそろ出てきたマーク・ターナーの真髄を聴ける(メジャーでのリーダー作は音がタキシード着てて明らかな制作上の無理解がある)作品を示す意図があったので記憶しておいてほしい。そして、それぞれArtistShare、Dreamers Collective Recordsというすばらしい名前を持つ新興レーベルからの作品であることも。

『ポール・モチアン・トリオ2000+2/ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード Vol.II』
このWinter & Winterの総帥ステファン・ウインターが「ヴィレッジ・ヴァンガードでのポール・モチアンTrio2000+Twoによる忘れられない一週間のライブの模様を記録している。ウインター&ウインターはこの一週間にアルバム三枚分を録音した」と宣誓するように録音されて昨年から発表されているものだ。「音楽はいつも生まれる時と場所に深く関わっている。17世紀のような非凡な時代とヴェネツィアのような特別な場所が独創的な芸術の生まれるきっかけとなる。アントニオ・ヴィヴァルディの活気溢れ、間違えようのないバロック音楽は、その時と場所の非凡な組み合わせなくして存在しなかっただろう。人種のるつぼニューヨークと20世紀とくればジャズ。そしてニューヨークの中心にあるヴィレッジ・ヴァンガードはこの音楽の最重要機関のひとつである。・・・」ウインター自身の書きっぷりが自信に満ちたものである。みんなは当然知っているだろうけど、ウインターは80年代にJMTレーベルを興してM-BASE一派をドキュメントしたプロデューサーだ。ちなみにJMTの日本制作サイドBambooレーベルは五野洋プロデューサーであった。

トリオ2000+2のメンバーをおさらいしておくと、クリス・ポッター、ラリー・グレナディア、ポール・モチアン、が、トリオ。「+2」の部分、つまりゲスト待遇は、Vol.Iが菊地雅章とグレッグ・オズビー、Vol.IIが菊地雅章とグレッグ・オズビーとマット・マネリ(!)である。そうか!マット・マネリがとうとうモチアンの耳にかなう展開となったか!思えば、95年のECMスティーブ・レイク制作ジャズ盤『三人歩きThree Men Walking』、ジョー・マネリ、ジョー・モリス、マット・マネリ、を、いち早くおれは彼らの価値を認め、98年にはユニバーサルのECM担当者に面会に行き「ジョー・マネリとルイ・スクラヴィスを国内盤にして出す責務がある」と談判しに行ったくらいにして、スティーブ・レイクはLonely Night-time Rolly Driver(おれはそう自称した)に過ぎない極東のECMファンにいろいろメールで教えてくれたものだ・・・。

そうそう、最近はベースばかり弾いているけどギタリストとしてのジョー・モリスへの注目もあった。当然、デヴィッドSウエア、マシュー・シップ、ウイリアム・パーカーのNY沸点カルテットを軸とした90年代ジャズの耳の視野もあった。21世紀に入ってウエアとシップは失速した。ロブ・ブラウンのピュアなアルト、サビア・マティーン、ギレルモEブラウン、といった猛者もいた。景気悪化のNYで彼らはどんな年末を過ごしていることだろう。

昨年Jazz Tokyoの多くのコントリビューターが掲げたマイケル・ブレッカーの遺作。ハンコック、メルドー、メセニー、パティトゥッチ、デジョネットとの生前友人葬。どこがいいんだ?闘病する父親に子どもがつぶやいた言葉を曲にしたTrack 5の5分45秒からのブレッカーの演奏には、同じ父親として感ずるところがあった、にしても。詳細に5回も聴いたが、とてもジャズとして寂しい思いしかしなかった。ゼニはひとをおとすものだとつくづく思う。生前ブレッカーは発言していた。注目しているサックス奏者はクリス・ポッターとマーク・ターナーだと。おれはさすがだと思ったよ、ブレッカーは誰に現代ジャズ・サックスのバトンが渡っているのか自覚していた。

クリス・ポッターでベストだとおれが思うのは、トリオ2000+2がヴィレッジ・ヴァンガード・ライブの前に出した、『Paul Motian Trio 2000+One On Broadway Vol.4 : Or The Paradox of Continuity』Winter & Winter (2006)での演奏。クリス・ポッターの若いのに大胆不敵で涼しげで自由闊達でゆるゆるな振る舞い、だ。おじさんたちはたじたじなんだよ。この盤、グレナディアの奥さんレベッカ・マーティンのヴォーカルがスタンダードを歌うトラックもあって、じつに聴きやすくもある。ここでのプー(菊地雅章)、もちろんプーはいつだって最高なんだが、凄まじい沈み込みを見せている。おれは後悔してんだ。2006年のベストにこの盤を掲げそこねた、ってね。

ポール・モチアン。今年はヴィレッジ・ヴァンガードでポール・モチアン・オクテット(!)というスケジュールがあった。
Paul Motian Octet
Tony Malaby-sax, Chris Cheek-sax, Steve Cardenas-gtr, Ben Monder-gtr, Matt Manieri-gtr, Jerome Harris-b, Ben Street-b
オクテット。ギター3台だぞ。2サックス。2ベース!。エレクトリックビバップバンドの編成にベースとギターがさらに1台加わっている。モチアンいわく「今度のOctetはちょっといけてるぜ。」だと。77さいのじじいが言うセリフかよ。たまんねーなー。

モチアンは来年の3月25日で78さいになるんだぞ。いいのか?ジャズ・ジャーナリズムはモチアンの言葉をたくさん残しておかなくても。
(jazz.comに、FMラジオWKCRで今年の9月4日に収録されたモチアンへのインタビューが載っている。今年ESPレーベル65年のローウェル・デビッドソン23さい・トリオ、ミルフォード・グレイブス23さい、ゲイリー・ピーコック30さい、が、復刻されているが、モチアンはこのピアニスト、デビッドソンの才能をすごく買っており、76年には一緒に録音までしたという。それがすごいんだ、と、モチアンは言い、そのテープをモチアンはアイヒャーに渡してあるんだが、アイヒャーにきいたらどこにあるかわからんと言われたとこぼしている。こらアイヒャー、ラヴァとボラーニにあんなデュオを強要録音、おまえが監視してるのがわかるような作品じゃないか、してるひまがあったら、このテープを徹夜して探せよな。あとモチアンは55−56年ごろにテオ・マセロのもとでエドガー・ヴァレーズと録音をしていたと述懐している。ヴァレーズを、じゃなく、ヴァレーズと、だと?で、そのバンドは8・9人編成でアート・ファーマーもそこにいたという。あ?アート・ファーマー、ですか?・・・あと、80年にメセニーと演奏していて、まじか?、メセニーにギタリストを推薦してもらったのがフリーゼルだったとも語っている。尊敬しているタイコはケニー・クラークで、やっぱり!、パーカーとギグしているのを夢中になって聴いたという。トリスターノとのハーフ・ノート時代のことも語ってほしいぞ。まさにモチアンこそ生きたジャズ史ではないか。)

78さいの闊達で最前線なジャズのドラマー、って、どうなのよ。次世代のドラマーは誰かいないのか。ポール・ニルセン・ラブもジム・ブラックもナシート・ウエイツもマヌ・カチェも本田珠也もエリック・エシャンパール(Eric Echampard)もギレルモEブラウン(Guillermo E. Brown)、ハミッド・ドレイクもいいが、おれはひそかにノルウェーのトーマス・ストローネンに期待している。ストローネンは音楽が視えている稀有なパーカッショニストだ、おれはこの未知数である単勝万馬券に賭す。ストローネン、いいからはやくニューヨークに出て来てジャズと向き合え。

この作文を。ウイリアム・パーカーにささげる。ニューヨークのジャズ・シーンの中心的な存在であるベーシスト、バンドリーダーだ。会ったことはないけどその人柄はおびただしい数のCDの音に残されている。いや、さ、いまWilliam Parkerとぐぐって彼のサイトにアクセスしてみたら。音楽が流れてきて、おいおいおい、これだよ、と、聴き始めたら泣けてきた。ニューヨークのジャズは鳴りやまない。なんかねー、盆栽の広告文のようなわが国のジャズ業界は恥ずかしいよ。ジャズはもういいわけないです。(多田雅範)

多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

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