#  1220

『Maria Schneider Orchestra/The Thompson Fields』
text & photos by Takehiko Tokiwa


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Maria Schneider (cond, arr)
Steve Wilson (as,ss,cl,fl,a-fl)
Dave Pietro (as,ss,cl,fl,a-fl,b-fl,piccolo)
Rich Perry (ts)
Donny McCaslin (ts,cl,fl)
Scott Robinson (bs,b-dl,a-cl,cl)
Tony Kadleck (tp,flgh)
Greg Gisbert (tp.flgh)
Augie Haas (tp,flgh)
Mike Rodriguez (tp,flgh)
Keith O'Quin (tb)
Ryan Keberle (tb)
Marshall Gilkes (tb)
George Flynn (b-tb)
Gary Versace (accordion)
Lage Lund (g)
Frank Kimbrough (p)
Jay Anderson (b)
Clarence Penn (ds)
Rogerio Boccato (per, 8)

1. Walking by Flashlight
2. The Monarch and the Milkweed
3. Arbiters of Evolution
4. The Thompson Fields
5. Home
6. Nimbus
7. A Potter's Song
8. Lembrança

Recorded by Brian Montgomery at Avatar Studio Room C, New York on August 26~30, 2014
Produced by Maria Schneider and Ryan Truesdell

 2007年の『スカイ・ブルー』以来、長く待ち望まれていたマリア・シュナイダーのビッグバンド作品が遂にリリースされた。故郷の農場トンプソン・フィールズの壮大な風景を描いたタイトル曲を含む8曲の新曲と、62ページに亘るシュナイダー自身のポートレイト、ミネソタ州ウィンダムの農場や自然の写真と、愛してやまない鳥たちのイラストと、シュナイダーによる詳細な曲解説で構成されたブックレットCDとも言うべき大作だ。タイトル曲の<The Thompson Fields>はフランク・キンボロウ(p)とラーゲ・ルンド(g)がシュナイダーの故郷の思い出を描き、ジョージ・ウェイン(p,producer)に捧げた<Home>は、作曲時に亡くなった父に思いをリッチ・ペリー(ts)が美しく奏でた作品。中西部の穏やかさと荒々しさを併せ持つ気候をスティーヴ・ウィルソン(as)がワイルドにプレイする<Nimbus>、前作のクラッシック作品からのリオーケストレーションで、やはり中西部の冬の夜明けを歌った詩をモチーフにし、スコット・ロビンソンのアルト・クラリネットをフィーチャーした<Walking by Flashlight>、メキシコからカナダまで旅をする蝶オオカバマダラの美しさをマーシャル・ジェルケス(tb)とグレッグ・ギスバート(tp)のコール・アンド・レスポンスで表現した<The Monarch and the Milkweed>など、故郷の人々と自然を描いた諸作が中核をなす。鳥たちの求愛のダンスを、ダニー・マッキャスリン(ts)とスコット・ロビンソン(bs)のサックス・バトルに重ねた<Arbiters of Evolution>、長年アンサンブルの要を務めて2013年に亡くなったロリー・フィンク(tp)を、親友のゲイリー・ヴァサース(accordion)が切々とメロディを歌い上げる<A Potter's Song>(フィンクは優れた陶芸家 Potterでもあった)、2010年に逝去したブラジル音楽の巨匠パウロ・モウラ(sax,cl)の100人を超えるサンバ・スクール・アンサンブルの思い出を描いた<Lembranca>が、ライアン・ケバリー(tb)、クラレンス・ペン(ds)、ロジェリオ・ボカット(per)の激しいサンバ・プレイと、チルアウトしたジェイ・アンダーソン(b)のソロでエンディングを飾る。シュナイダーの現在までのディスコグラフィーの中でも、最もパーソナルな視点を追求し、内省的と言える作品である。タイトル曲は2009年に、ファンから制作資金を募るアーティストシェアのシステムをアルバムではなく、曲に適用した最初の作品で、2009年秋の初演、2012年、13年の日本公演から、アレンジも大幅に変更され、壮大なダイナミック・レンジを誇る最終形に進化した。2014年春に完成した<The Monarch and the Milkweed>を除いた諸作は、2013年の秋までには完成しており、ロリー・フィンク(tp)亡き後の新メンバーのグループで ライヴ・コンサートを重ねて熟成された作品群である。大きく展開する<Arbiters of Evolution>と<Lembranca>以外の曲は、やや曲調の類似が感じられるが、クラリネット、フルート、フリューゲルホーンを多用したソフトなアンサンブルはシンフォニーかと思われる瞬間もあり、それらが各曲をシームレスに繋げて、交響詩のようなイメージを与えてくれる。シュナイダーは、バード・ウォッチングを愛するナチュラリストで、鳥や動物、植物が織りなす生態系からもハーモニーが聴こえると語っている。ジャズ・ビッグバンドのフォーマットで、アメリカ中西部の大自然を描ききった大作が完成した。
 4月末に予定されていたアルバム・リリースが遅れたため、ジャスト・タイミングとなったバードランドに於けるCDリリース・ライヴでも、ニュー・アルバムの曲群にファースト・アルバムに収録されていた<Dance You Monster To My Soft Song>や<Last Season>も再演された。20年以上の時をかけてシュナイダーとオーケストラのメンバーのコラボレーションが、オールド・ソングを新たなフェイズに進化させる。新たな曲たちもまた、長い時間をかけて、ヴィンテージ・ワインのように熟成されるのであろう。今は新酒の薫りを、愉しみたい。

 アーティストシェアのウェッブサイトで CD を購入すると、ボーナス・トラックとして今回再録音された<Dance You Monster To My Soft Song>と、オーケストラにブラジリアン・ギターの名手ホメロ・ルバンボを加えイヴァン・リンス(vo,kb) がヴォーカルを、引退したトゥーツ・シールマンスがハーモニカをオーヴァー・ダビングして完成させたシュナイダーのアレンジによるリンスの<Lembra de Mim Final>が、ダウンロード提供される。昨年8月からアップされた30本を超える、ショート・ドキュメンタリー・ヴィデオも閲覧出来、アルバムの制作過程や、背景を深く理解することが出来る。8年の空白を埋める大作を、味わい尽くすのも一興だろう。(常盤武彦)

【関連リンク】
Maria Schneider : http://www.mariaschneider.com

マリア・シュナイダー・オーケストラ マリア・シュナイダー スコット・ロビンソン
ダニー・マッキャスリン スティーヴ・ウィルソン リッチ・ペリー
マーシャル・ジェルケス ライアン・ケバリー グレッグ・ギスバート
マリア・シュナイダー フランク・キンボロウ ジェイ・アンダーソン
クラレンス・ペン ラーゲ・ルンド ゲイリー・ヴァサース

写真撮影:2015年6月2日バードランド、NYC

常盤武彦 Takehiko Tokiwa
1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。

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