#  1261

『椎名豊/フューチャー・スイング』
text by Masahiko Yuh 悠雅彦


Scene-a Music/ Roving Spirits
RKCJー2060 ¥ 2,800(税込)

椎名 豊 (piano)
マイク・ロドリゲス (trumpet)
ティム・アマコスト (tenor sax soprano sax)
中村恭士 (bass)
ルディ・ロイストン (ds / 1、2、4、5、6、7、8 )
広瀬潤次 (drums / 3、9 )

1. Future Swing
2. Even
3. PNJ
4. Flowers
5. Blues Anticipation
6. If You Could See Me Now
7. Movin' Forces
8. Eternal
9. In Case You Missed it

Produced by Yutaka Shiina
Recorded at Samurai Recording Studio in New York, on June 11 & 12, 2015
Recorded, Mixed and Mastered by Katsuhito Naito

オープニングの<Future Swing>。これといった当てがあったわけでもなかったのだが、聴きはじめた瞬間、演奏者たちの凄まじいと言いたいくらいの意気込みが私のハートを射た。進化という大きな物語が終焉した今日では、あらゆるコンセプトを貫通して爆発するこうしたパッションが最高の贈り物になる。それだけの熱気がここでの全演奏に横溢しており、<Future Swing>ではあたかも演奏者たちの汗が飛んでくるかのような熱い迫力に、月並みな言い方だが久しぶりに最後まで一気に聴いた。

添付された資料によれば、椎名は昨年、ニューヨークでテナー奏者ティム・アマコストとドラマーのルディ・ロイストン、それに今年の東京ジャズ祭で注目を浴びた「ニュー・センチュリー・ジャズ・クィンテット」のベース奏者・中村恭士からなるクヮルテットを結成し、今年の6月には現代のトップ・トランぺッターの1人マイク・ロドリゲスを加えたクィンテット編成で、待望のレコーディングをおこなった。それがこの『Future Swing』で、彼自身の椎名ミュージック(Scene-a Music)の第2弾として世に出ることになった。クヮルテット時代には日本各地での演奏を成功させたというが、残念ながら私は聴く機会を持つことができなかったし、残念ながら第1作も聴いていない。しかし、だからといって評を書く資格がないわけではあるまい。この新作の冒頭からハートに体当たりしてくるかのごとき熱いプレイの迫力に触れると、野球などでよくいう一球入魂の、プレイに没頭する椎名以下のプレイヤーたちのパッションが、脳天に反響して快感を呼び起こす。その結果、モダン・ジャズにおける最上のスイングを喚起するバトル、ともいうべきスリリングな瞬間の炸裂が眼前に肉迫してくる。といって、別に頭を捻らせる仕掛けがあるわけでも、考え込ませるかのごとき展開が潜んでいるわけでもない。そういえば、ドラマー兼コ・リーダーのユリシス・オーエンスJrが「ご機嫌にスイングするストレート・アヘッドなジャズがやりたかった」と、ニュー・センチュリー・ジャズ・クィンテットを結成した理由を語っていたが,椎名がこのグループでやろうと意図したこともそれと相通じるところが、アルバム全体の演奏の在り方,特に有無を言わせぬ爆発的なスイング性と高揚感からも感じ取れる。

何やら椎名豊の心意気をストレートに写し出したアルバムとして強調しているうちに、紙幅の大部分を費やしてしまった。彼の意気込みは収録曲のうち、タッド・ダメロン作の名高いバラード曲(6)とボビー・ワトソンの(9)以外の7曲が彼自身のオリジナルだという一事にもうかがえるが,とはいえ椎名とは同世代のアマコストといい、数年前にはリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラに在籍していたマイク・ロドリゲスの明快なシャープさが印象的なプレイといい、椎名の意図を汲んだとも言うべきストレート・アヘッドな演奏で期待にこたえる。それ以上に演奏の核心部をズバリ突き刺すようなルディ・ロイストンのドラミングが熱く心地よい。狙った的を外さない冷静さと的確さをドラミングの推進力に据え付けたかのようなコンセプトの持主と聴いた。バネのある前進力とスイング性をがっちり支えた中村恭士の肉厚の太いサウンドとビート力が、ロイストンとのコンビで生む現代的クィンテットの真髄を突き、椎名の狙うモダン・スイングの王道を支える。(1)についで(3)が快適な椎名のソロといい、全体にも簡潔な流れが印象的な好トラックで、アマコストのソロもいい。(4)のゆったりしたワルツでのソロもさることながら、逡巡するところがないパワー全開の椎名のソロで(3)が本演奏のベスト・トラックと聴いた。50を超えて椎名はある種の達観を得たのかもしれない。

悠 雅彦 Masahiko Yuh
1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、朝日新聞などに寄稿する他、ジャズ講座の講師を務める。
共著「ジャズCDの名盤」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽之友社)他。本誌主幹。

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