# 648
Pat Metheny/Orchestrion(オーケストリオン)
text by Kenichi IMAMURA
Nonesuch/ワーナー・ミュージック (1/27発売予定)
Composed and Arranged by Pat Metheny
All music performed by Pat Metheny, guitar and orchestrionics (pianos, marimba, vibraphone, orchestra bells, basses, guitarbots, percussion, cymbals and drums, blown bottles, and other custom-fabricated acoustic mechanical instruments, keyboard)
Produced by Pat Metheny
Recorded at Legacy/MSR Studio , NYC, October, 2009
ジャケットの被写体でもあり、本作のアルバム・タイトルでもある<オーケストリオン>というこの機械、パッと見はスチーム・パンク風だが、相当なハイテクの数々が動員されている。実際に動いている様はメセニーのオフィシャル・サイトやyoutube(http://www.youtube.com/watch?v=hIZ2Ldrr5ok)で確認してほしい。
メセニーのギター・ソロを除き本作の演奏の全てを担うこのマシンは、19世紀後半から20世紀初頭に実在した、からくり仕掛けで複数の楽器を同時演奏する同名の装置(プレイヤー・ピアノや手回しオルガンの拡張と言ってもいいかもしれない)のアイディアをメセニーが現代風に発展させたものだ。専門家とプロジェクト・チームを組んで自動車や工業機器に使われるようなロボトロニクスや空気力学等を応用した最先端テクノロジーの結晶で、複数のアコースティック・ギターやピアノ、パーカッション類やウインド・インストゥルメンツが巧みに制御されている。
というか、その自動演奏の制御があまりにも巧み過ぎて、パッと聴いた耳にはいつものパット・メセニー・グループと大きな隔たりがあるわけではない。曲想もいつもの彼の作品群の延長にある。当初、彼のサイトで音質の悪いストリーミング音源で試聴した時には、グループとしての新作かと一瞬勘違いした程だ。
“グループメンバー各々のエゴや手癖に左右される通常の作品とは異なり、メセニーの脳内世界が忠実に再現されている作品”と一言で定義するのは簡単である。しかし、<多重録音>でなくリスナーの耳に届くのとは別の部分でメセニーは膨大な手間と労力とコストを本アルバムの制作に注ぎ込んでいる点が重要である。今やハードディスク上のセッションでどんな生演奏だって切り貼りできるし、あまつさえメセニーは『ザ・ウェイ・アップ』というハードディスク録音の手法を最大限に生かしたジャズ・サウンド構築の頂点を05年に極めている。のに、彼は本作を作った。
まるで映画『アバター』を最新CGではなく、昭和の東宝特撮の技術陣をフル動員して撮るようなものだ。アウトプットは似ていても、コンピューター処理ではなく人間の贅を尽くした“スタジオの空気”を捉えることが、レコーディング芸術としてのジャズの本質だとメセニーはおそらく考えている。思えば10年前の00年前後、シカゴのトータスやシカゴ・アンダーグラウンド・トリオを中心とする一連の若手ミュージシャン達がプロトゥールズ上で編集されるインストゥルメンタル・ミュージックを作って新時代を切り開いたが、本作ではあくまでスタジオの空気をアナログ的に振動させることにメセニーが心血を注いでいることが非常に興味深い。
テン年代においてジャズは最新テクノロジーとどう関わっていくのか。いくべきか。まずは本アルバムが最初の問題提議を我々に投げかけた。(今村健一)
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