#  653

ジョン・アバークロンビー・カルテット/ウェイト・ティル・ユー・シー・ハー
text by Yumi MOCHIZUKI

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ユニバーサルミュージック/ECM
UCCE−7004 ¥2,500(税込)

ジョン・アバークロンビー(g)
マーク・フェルドマン( vln )
トーマス・モーガン( b)
ジョーイ・バロン(ds)

  1. サッド・ソング
  2. ラインナップ
  3. ウェイト・ティル・ユー・シー・ハー
  4. トリオ
  5. アイブ・オーヴァー・ルックド・ビフォー
  6. アニヴァーサリー・ワルツ
  7. アウト・オブ・タウナー
  8. チック・オブ・アラビー

作曲:John Abercrombie except *) by Richard Rogers/Lorenz Hart

プロデューサー: マンフレート・アイヒャー
録音: 2008年12月11〜13日、ニューヨーク、アヴァター・スタジオ
エンジニア:ジェームス A. ファーバー

夜更けの川岸、遠くに見えるビルのイルミネーションが水辺の静けさをより一層深める、アルバム・ジャケットの写真と音が見事に一致している。ジャケットを眺めながら聴くとカルテットの清澄な世界に思わず惹きこまれてしまう。一曲目の冒頭からエンディングまで落ち着いた静謐な流れのなかに4人の緊密なインタープレイが纏綿と続く、イマジネイションとインテリジェンスに富んだ深みのある作品である。アルバム・タイトル曲(3)の<ウェイト・ティル・ユー・シー・ハー>を除いて全曲アバークロンビーの作曲でありメンバー全員がアバークロンビーの構想に共鳴しあって、同じ流れのなかで互いの感性を高め合いながら静寂の深さと緊張を楽しんでいる様子が伝わってきて、最後まで一気に聴かされてしまう。ギター、ヴァイオリン、ベースという三つの弦楽器にドラムスという楽器編成は穏やかな調和をもたらし時に室内楽的な風情をも醸し出す。
シングルトーンで一音一音を丁寧に紡ぐアバークロンビーのギターにジム・ホールのイメージがオーバーラップする。アバークロンビーはジム・ホールの暖かい歌心を継承しながら自らのクールでコンテンポラリーなスタイルを発展させているのである。

アバークロンビー・カルテットは、およそ10年前アバークロンビーとマーク・フェルドマン(vln)との出会いから始まっている。カルテットは二人の音楽的な共感がその基軸になっており、本作でもフェルドマンのレンジの広いヴァイオリンがサウンドに豊かで艶やかな厚みを加えている。

マーク・フェルドマンといえばカントリーから現代音楽までとオールラウンドなミュージシャンで、ジャズではジョン・ゾーン、ドン・バイロンやデイヴ・ダグラスなどいわゆるダウンタウン系との活動が多いが、アバークロンビーとのコンビネーションもまた絶妙でアグレッシブな面とロマンティックな面がほどよくブレンドしてカルテットに鮮やかな色彩を染めつけている。

さらに注目すべきはマーク・ジョンソンに代わって新加入のベーシスト、トーマス・モーガンである。一曲目の<サッド・ソング>で音数は少ないが的確なベース・ランニングとピチカット・ソロをとる。ピックアップ・マイクに頼ってギターのような高速早弾きベースが多い中、どっしりとしたアコースティックなコントラバスの音を響かせ、カルテットの重心を下支えしている。4曲目の<トリオ>でのマーク・フェルドマンが抜けた文字通りトリオでの演奏でもスコット・ラファロ〜ゲイリー・ピーコックの流れを汲む艶っぽいベース・ソロがジャズのスリルを生み出している。トーマス・モーガンは現在28歳という若さですでにポール・モチアンや菊地雅章などとプレイしており、日野〜菊地クインテットの『カウンターカレント』(sony)にも参加している。本作がECMデビューである。日本にもしばしば来日してセッションを楽しんでいる好青年である。この1月にも来日して本田珠也(ds)、八木美知依(筝)等日本のミュージシャンと共演している。去る1月16日の新宿ピットインでは本田珠也(ds)、石井彰(p)とのセッションで、そのシャープな潔い音の切れ、何よりも生音の美しさ、音の存在感にすっかり魅了されてしまった。

新宿ピットインのトーマス・モーガン (2010年1月16日)

さて、カルテットのもうひとりの刺激剤がジョーイ・バロン(ds)である。ジョーイ・バロンといえばZADIK、ジョン・ゾーン系での過激なフリー・インプロヴィゼーションが反射的に頭に浮かぶが最近はECMのニューヨーク録音作品にこぞって参加している。たとえばスティーブ・キューン(p)の『モストリー・コルトレーン』、ビル・フリゼール(g)、マーク・ジョンソン(b)のアルバム等々でECMとジョーイ・バロンは一見アンマッチなようでいて作品にリアルな臨場感と静かな衝撃の波を与え続けているので要注意である。

ジョン・アバークロンビーをはじめて耳にしたのはジャック・ディジョネット、デイヴ・ホランドとの『ゲイトウエイ』(ECM)であった。随分昔のことである。当時はディジョネットの巧みなスティック捌きに目をとられ、アバークロンビーについてはセンスの良い、サウンドのきれいなギタリストが登場したな、という程度の印象で通り過ぎてしまったが、その後の活動、キャリアでいまやECMのトップ・アーティストの一人である。本作はアバークロンビーの探求してきたサウンドが一段と高められ次なるステージへの足がかりとなる作品である。(望月由美)

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