#  660

Anton Delecca Quartet/Lost City
text by Masahiko YUH

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『Anton Delecca Quartet/Lost City』

Jazzhead HEAD120

Anton Delecca (tenor saxophone)
Mac Hannaford (piano)
Jonathan Zion (acoustic bass)
Danny Farrugia (drums)
Elvis Aljus (congas on < 1 >)

1.Catalyst
2.The Beautiful Corner
3.A Dog' s Tale
4.Blues Bungle
5.Why Can' t Everybody Be Nice Like Gareth ?
6.Regulated
7.Elena' s Dilemma
8.Living With Weirdness
9.Lost City

2009 年 3月23,24日,メルボルン録音

 いずれ折りを見て,巻頭文の<ライヴの食べ歩き>ででも触れたいと思っているのだが,去る1月16日に新宿の「ピットイン」で催されたマイク・ノック・トリオの演奏には、ふと良き時代の在りし日を懐旧させる不思議な感動があった。昔に戻ったかのようなゆったりした快感。といって,セピア色の写真を見て昔を慈しむ風情とも違う。ノックは別にこれといった細工を施して演奏しているわけではない。だが、彼のタッチから生まれるサウンドは柔らかで懐かしい風情に彩られており、聴いているこちらの脳裏にモダン・ジャズに心躍らせた在りし日が気持よく映っている心地よさ、といえばよいか。しかし特筆したいのは、私たちが忘れかけているその心地よさが今日、現にジャズの第一線で活動しているマイク・ノックというピアニストの普段着をまとったタッチから生まれていることだ。

 本作とは直接には何の関係もない話題を枕にしたのは、初めて聴くこのクヮルテットの音楽にもマイク・ノックのピアノ演奏と通じ合うカラーとムードがにじみでていたからである。本作はオーストラリアのジャズヘッド・レコード社から郵送されてきた。してみると、かの国にはこういうセンスの演奏家が多いのかしら。リーダーのアントン・デレッカをはじめ共演者たちのプレイに接するのも初めてだったが、興味半分で聴きはじめてすぐ、オープニングの「カタリスト」のテーマ旋律が耳に入ったとたん、若かったころ夢中で聴いたブルーノート・ジャズの匂いがほのかに立ち上ってきて引き込まれた。ファンキーとかグルービーなどの言葉に象徴されるモダン・ジャズの魅力をたたえたあの懐かしいサウンドの風味、だ。それが、今日の感覚で味付けされたり、単なるコピーだったりされて甦っているのではなく,デレッカという演奏家自体のセンスから自然ににじみでてくるらしい。そんな好ましさがこのCD全般,とりわけ前半に強く感じられる。
 添付資料によると、アントン・デレッカはオーストラリアの有名音楽大学(VCA) を卒業した1991年に活動を開始し、同国の人気ファンク・バンド “The Bamboos”で名をあげたテナー奏者。2000年にはニューヨークへ渡り,デイヴ・リーブマン,ジョージ・ガゾーン、クリス・ポッターらの指導を受け,マックス・ローチとは縁の深かったバンブーズ時代にローチのもとにいたオデオン・ポープ、アーサー・ブライスらとも共演したとある。現在40歳前後という、脂の乗った年齢にあるテナー奏者だろう。
 彼がクヮルテットを結成したのは98年らしいが,検索してみたら2001年に吹き込んだ『Flow』が高い評価を得たとあった。このときのピアニストはマーク・フィッツギボンといい、私がメルボルン屈指のライヴハウス“ベネッツ・レイン”での彼の優れた演奏に魅了されたのはちょうどこのころだった。デレックにとってはニューヨークとメルボルンを行き来していた時期でもあるが、クヮルテットを新しい陣構えにして立て直したのはバンブーズでの活動が一区切りした2007年ごろ。このとき迎え入れたピアニストがウィル・ポスキットだったが、期待と注目が集まり出したその矢先の2008年11月、突然この世を去ったのだという。その直前にはニューヨークに進出し,クリストファー・ヘイル・アンアサンブルと吹込を行うなど本腰を入れた活躍が視野に入っていたときだから,オージー・ジャズ界の損失には測り知れないものがあったろう。とりわけ彼を迎えてクヮルテットの新しい出発を遂げたばかりのデレッカの落胆がいかに大きかったかは想像に余りある。この新作がウィル・ポスキットの思い出に捧げられたのは当然だろう。

 収録曲は1曲(4)をのぞいてアントン・デレッカのオリジナル。速いワルツで演奏されるその1曲「ブルース・バングル」がポスキットの作品。
 この新作はデレッカがリズム感覚に優れたテナー/ソプラノ奏者だと分かる1作(ここではソプラノは吹いていない)だった。前進するリズムと一体化する非凡な楽器操縦で3拍子でも5拍子(6)でも巧みに乗りこなす。先に触れたAABA 形式34小節の「カタリスト」にしても,アフロ・キューバンのリズムをバックにフォア・ビート感覚と軽妙なノリでフレーズを畳み掛けていく彼のサックス奏法が、ジャズの伝統的妙味と表現の現代性の間を縫っていく気持よさを湧出させて格別だし、デレッカの個性や重層的なセンスを窺うことができるオープニングといってよいだろう。
 ゆったりと流れる4拍子のリズムの上を短調の淡い抒情的な微風が通り過ぎていくといった(5)も印象深い。そうした間隙を縫って、おどけたユーモラスなリズムを伴ったテーマが面白い(2),速いワルツ調の(4)や変拍子の(6)などで変化を生む、全体の構成も悪くない。
 ポスキットに変わってピアニストの座に座ったマック・ハナフォードもいいが、ベースのジョナサン・シオンとドラムスのダニエル・ファルージアのセンスのいいプレイがいっそう印象的だった。彼らの演奏技法や方向性からもオーストラリアのジャズ演奏家は日本同様、米国のジャズに絶大な影響を受けて今日にいたっていることが分かる。デレッカにはさらに豪州ならではのオージー・ジャズを生む主導的な活躍を期待したい。2010年2月18日。(悠 雅彦)
♪関連リンク:
http://www.jazztokyo.com/newdisc/356/mothership.html
http://www.jazztokyo.com/newdisc/komado/big-small-band.html

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