#  661

Jemeel Moondoc/MUNTU RECORDINGS
text by Kuniya INAOKA

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『Jemeel Moodoc/MUNTU RECORDINGS』
NoBusiness Records (リトアニア) NBCD 7-8-9 (3CDセット)

CD 1: MUNTU ENSEMBLE / First Feeding

Jemeel Moondoc -alto saxophone
Arthur Williams - trumpet
Mark Hennen - piano
William Parker - bass
Rashid Bakr - drums

1.First Feeding 5’09”
2.Flight (From The Yellow Dog) 13’57”
3.Theme For Milford (Mr. Body & Soul) 20’37”

Recorded April 17, 1977 at Bob Blank Studios, New York City.

CD 2: JEMEEL MOONDOC & MUNTU / The Evening Of The Blue Men

Jemeel Moondoc - alto saxophone
Roy Campbell Jr. - trumpet
William Parker - bass
Rashid Bakr - drums

1.The Evening Of The Blue Men, Part 3 (Double Expo) 21’02”
2.Theme For Diane 19’39”

Recorded March 30, 1979 live at Saint Marks Church in New York City by Peter Kuhn of Big City Records.

CD 3: MUNTU / Live At Ali’s Alley

Jemeel Moondoc - alto saxophone
William Parker - bass
Rashid Bakr - drums

1.Theme For Milford (Mr. Body and Soul) 36‘35“

Recorded April 20, 1975 live at Ali’s Alley

Producer: Jemeel Moondoc
Executive Producer: Danas Mikailionis
Co-producer: Valerij Anosov

リトアニアのNo Business レコードからとんでもない音源(音楽)が届けられた。シールを外す間ももどかしくCDをプレーヤーのトレイに載せる。熱い音楽が迸り出る。1977年4月、NYマンハッタンのボブ・ブランク・スタジオでの録音。ジェミール・ムーンドックのアルト、アーサー・ウィリアムスのトランペット、マーク・ヘネンのピアノ、ウィリアム・パーカーのベース、ラシッド・ベイカーのドラムス。70年代マンハッタンの街の諸相が鮮烈に甦る。街を 徘徊するアル中患者。音も無く忍び寄るプッシャー(ドラッグ密売人)。客引き。ホテル・フロントでの盗難。ホテル廊下での殺人、レイプ。クラブ地下でコーク(コカイン)と遊ぶミュージシャン。一瞬の気を許すこともできない危険と緊張感に満ちたマンハッタンで澎湃(ほうはい)と起こったロフト・(ジャズ・)ムーヴメント。発端は70年のオーネット・コールマンasによる「アーチスト・ハウス」と名付けた自宅ロフトの解放。続く、72年のサム・リヴァースtsによる「スタジオ・リヴビー」の開設。雨後の筍のように次々と新設される演奏スペース、ロフト。背景には公民権法の制定(1964年)からキング牧師の暗殺(1968年)へと続くアフリカン・アメリカンによる反人種差別運動がある。ジャズ界では1967年のジョン・コルトレーンtsの死から1970年のマイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』があった。
アフロ・アメリカン系のミュージシャンが自ら所有し、自ら運営するクリエイティヴな音楽のためのスタジオ(日本の1DKルームに相当する)やロフト(工場や倉庫跡を住居や多目的用に改造したスペース)。そういう状況、環境下で演奏された音楽の貴重なドキュメントがリトアニアの新興レーベルからリリースされた。
これはCD3枚とブックレットを含むボックスセットで、時系列的にみると、CD3が1975年、CD2が1979年、そしてCD1が1977年の演奏。ブックレットによるとNYのいわゆるムーヴメントとしてのLoft Era(ロフト時代)は、1970年から1978年と規定されており(ただし、各種イベントは80年まで続いたのでロフト・ムーヴメントは70年代を通じた“ポスト・フリー[脱フリー]の成果となった一運動”=悠雅彦/文春新書『ジャズCDの名盤』、ということができよう)、ロフト期後半を生き抜いたジェミール・ムーンドックas率いるMUNTUの演奏集である。
MUNTU(スワヒリ語でMan=人間、人類)のキー・メンバーは、リーダーのムーンドック(1951~、シカゴ)、ウィリアム・パーカーb (1952~、NY)、ラシッド・ベイカーds(生年不詳、シカゴ)の3人。ムーンドックは仲間と連れ立ってボストンを出奔、ウィスコンシンで教壇に立つセシル・テイラーpを追い、教えを乞う。CD1のピアニスト、マーク・ヘネン(1951~、ウィスコンシン) もテイラーの教え子で、2曲目、3曲目のテイラー譲りのソロは圧巻。パーカーとベイカーのコンビは1980年に始まるテイラー最後のレギュラー・ユニットのキー・メンバーとして活躍するので、MUNTU自体、音楽的、精神的にブラック・カルチャーのシンボルのひとりセシル・テイラーの薫陶を受けたグループなのだ。しかし、ムーンドック自身はCD2の演奏まもなく、パーカーとベイカーのコンビが活動の中心を自らの師テイラーとの共演にシフトしていったためMUNTUを維持できなくなりシーンから身を引いて行く。パーカーは現在でもダウンタウン系のバックボーンとして大活躍中で(http://www.jazztokyo.com/live-report/v238/v238.htmlhttp://www.jazztokyo.com/live-report/v242/v242.html参照)、このふたりに冷酷なミュージシャンの消長を見る思いがする。事実、3枚のCDを通じてパーカーの存在感は圧倒的で、CD1/#2、#3でのピチカートのソロ、CD2/#1でのアルコとピチカートを併用した壮絶なソロには戦慄を覚えるほど。CD2は教会での演奏(NYでは教会でのジャズ・コンサートが珍しくない)で録音は決して良くないが、イマジネーションの限りを尽くした演奏にいつしか観客のひとりとなっていく。#1で沸点を超えた演奏の後、#2では一転、情感をたたえたバラード演奏でムーンドックの懐の深さが窺われる。
CD3は未発表音源で、MUNTUのコア・トリオによるもの。開始から20分近くムーンドックの抑制の利いたステートメントが続く。続くパーカーとベイカーのソロも良くコントロールされておりMUNTU初期の演奏として興味深い。会場のAli’s Alley(アリズ・アレイ)は、ドラムスのラシッド・アリが1973年にグリーン・ストリートにオープンしたロフトで、1年後にはリカー・ライセンス(酒類販売許可証)も取得(「アリズ・バー」とも呼ばれた)、代表的な存在のひとつとして79年まで存続した(ほぼムーヴメントの終息にも通じた)。
筆者は、弁護士Bob Cummins氏の主宰するレーベル India Navigation(http://www.jazzdiscography.com/Labels/indianav.htm)を通じてデイヴィッド・マレイやアーサー・ブライス、チコ・フリーマンなどロフト期の熱い演奏を国内発売した経験を持つが、このボックスセットのようにMUNTUというひとつのグループの軌跡を追ったアルバムを通じて30-数年を経た今ロフト・ムーヴメントを再検証することができた。添付されたブックレットには、ムーヴメントの考察、解説、代表的なロフトの紹介、地図、ムーンドック自身のエッセイ、写真、フライヤなどが満載、資料として代え難い内容を持つ。併せてパッケージ・メディアとしてのCDの存続の可能性のひとつをリトアニアの新興レーベルに示唆された。限定1000セットと明記されている。アメリカの有力サイト、Point of Departureにも特集されたので残部があるかどうか。ジャズファンには購入をお薦めしたい (e35+5 / http://www.nobusinessrecords.com/NBCD7-8-9.php)。
なお、発売元のNoBusiness Recordsの新譜には、『カーティス・クラーク・トリオ/Taagi』(限定1000部)、『ハワード・ライリー・ソロ』(限定500部)など興味深いCDがリストアップされている。(稲岡邦弥)

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