#  740

『ポール・モチアンTrio2000+Two /ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード Vol. III』
text by 多田雅範


Winter & Winter/Bomba BOM25010 2,625円(税込) 解説:原田和典




2010年、極上のジャズ。録音は2006年12月10日だがね。

プーさん(菊地雅章)の、この音、から始まるピアノ・ソロ、おれもヴィレッジ・ヴァンガードの客席にいる、気になって、耳をすます。これは、あの曲?この曲?・・・そんなことはどうでもいいんだ、ピアノの音の連なりに、時間の感覚がなくなるスローな、いや、これはもうCDになって世界じゅうの耳たちがここに集っているような晴れがましさまで感じている。すでにECMにソロ録音とトリオ録音がリリース待機していて、なんでまだ出ないんだ?世界はキクチを待っているのに・・・。確実に世界は動く・・・。そんな状況待機に、このライブ盤が先行して世に出た、納得の味わい。時間にして3分ちょっと。キクチのソロをイントロに、拍手にかぶさるようにクリス・ポッターら、バンドが奏ではじめる・・・。

Winter & Winterの総帥ステファン・ウインターが「ヴィレッジ・ヴァンガードでのポール・モチアンTrio2000+Twoによる忘れられない一週間のライブの模様を記録している。ウインター&ウインターはこの一週間にアルバム三枚分を録音した。」と宣誓するように録音されたこのシリーズも、足掛け3年かけてリリースされての三枚目だ。いま、ネットや店頭でこれのVol.1、Vol.2を入手しようとしてもなかなか難しい、というあまり笑えない事態が寂しい。

おれの知る限りモチアン・メソッドの現代ジャズにもろ手をあげて賞賛しているのは、トップハムハット卿、ルフィ大佐、益子博之さん、原田和典さん、ディスクユニオン御茶ノ水店のひと、ボンバレコードの社長ぐらいしか思いつかない。

コンポストのインタビューで、フリゼールがモチアンとの出会い、それから菊池雅章が一音だけピアノを鳴らしたことを語っている。現代ジャズの神話のようなエピソードだ。

Jazz Tokyoでおいらが書いたモチアン作品評。
「年間ベスト2008」
「ブロードウェイVol.5」

80年代、ヘイデンもモチアンもずいぶんな言われ方をしていたよなー。下手だ、と。スティーブ・ガットが上手いと言われてもな!いま誰も聴かないだろ!ECMファンですら、クリステンセンとディジョネット以外は要らないと言うしなー。トニー・ウィリアムス・・・、エルヴィン・ジョーンズ・・・、いや、どっちが上手いとかそういう話じゃないし。

モチアンのビッグ・バンはいつ起こったのか。・・・おお、これは思考に値するモンダイだ。

だいたいモチアンについて、あの伝説のビル・エヴァンス・トリオのドラマーだという紹介自体が間違っている。いや、間違ってはいないんだが、スコット・ラファロを含めた3にんのインタープレイは聴く価値があるが、そもそもおれはビル・エヴァンスのピアノが嫌いだ。生理的に合わない。そんなことがあってもいいだろ。01年9月11日、WTCに飛行機が突っ込む45分前に、おれはベイエリアのスタジオでスタジオライブ収録中の菊地雅章と立ち話をしていて、「おれはさ、ビル・エヴァンスがダメなんだよ。おれとゲイリーがさ、トリオ64の演奏だけは良いという意見で一致してるのが面白いだろ?」とプーさんが言うわけだ。おれは内心度肝を抜いたよ、ビル・エヴァンスがダメだと言っていいんだー!

モチアンのビッグ・バンは、ズバリ、ジャレットのアメリカン・カルテットでの音楽の徘徊、死のロードを体感したモチアンが、パット・メセニーに紹介されたジョー・ロヴァーノとビル・フリーゼルという新進と鳴らした瞬間であっただろうし、その後、プーさんとゲイリーと最初に録った『ファースト・ミーティング』はそれを進化させた、と、そこらへんだとおれは睨んでいる。

はっきり言ってクリス・ポッターが化けたのもモチアンと出会ってからだが、このポール・モチアン・トリオ2000+Two、というタイトルだってよく考えておく必要がある。トリオ2000というのは、クリス・ポッターとのトリオでモチアンは名乗るのである。ポール・モチアン・エレクトリック・ビバップ・バンドはギターを這わせてサックスを複数泳がすものだ。

トリオ2000+Two、は、+Twoを客演待遇として、の、総勢クインテットであり。このライブ・シリーズでは1枚目、2枚目にグレッグ・オズビー(サックス)が菊地雅章とともに+Twoを担っていたが、2枚目から登場したヴァイオリンのマット・マネリが、この3枚目では菊地との+Twoとして全編活躍している。一子相伝微分音即興の老父ジョー・マネリの息子マット、お母さん似、ハンサム、が、参加したことに本シリーズ2枚目を聴いておののいていたが・・・。マットはヴァイオリンなんだよ!想像できますか、このサウンド・・・。

本作、ヴィレッジ・ヴァンガード Vol.3を聴いて、イントロのプーさんのピアノ・ソロでノックアウトされたわたし。その後の桃源郷のようなモチアンの温泉ジャズぶりのユルい叩き(いや、もちろん名人芸なのだよ!)に、ちょっと心配になるくらいなトロトロ感に、もちっと息詰め緊迫テンションを期待したいかなー、などと思っていたら、トップハムハット卿が「ううむ、ポッターとマネリのブレンド音響がたまらんのう・・・、オズビーよりこっちだなあ・・・」とつぶやくのをきいて、おー、ちょっとモチアンの叩きに耳が決め聴きしてしまったー、ポッターとマネリのブレンド音響!そこだ、この作品のキモは!と、膝を叩く。

・・・ホント、おれはね、本作とトロティニョンの『Suite...』の2枚を引き寄せたことで今年の下半期、年間ベストのロイヤル・ストレート・フラッシュが完成したような気持ちになっているんだ。・・・おれにジャズ誌の編集長をやらせろ。この2枚に満点オジサンを付けて、2枚並べてゴールドディスク!責任はおれが取る、止めてくれるなおっかさん、ニセコロッシには現代ジャズを、現代ジャズを「これだ!」と名指して、音楽の神さま、きっと女神、彼女と笑みをかわしあう、涙がこぼれてはつうと頬をつたう、冷たく強い風、きみとぼくは笑う・・・

ちょっとだけステファン・ウインターに言いたい。この売れないコアな作品をドキュメントしてくれてありがとう。この4年の間にも、モチアンはヴレッジ・ヴァンガードに毎シーズン以上にひんぱんに出演、しかもポール・モチアン・オクテットだなんてのもあるし、そういうの、全部録っていませんでしょうか・・・。

「これまでのジャズを野球を観るように聴いていたとするならば、現代のジャズはサッカーを観るように聴かれなければならない。」

21世紀なんだからライブの音源は数時間後には高音質で販売するというビジネスモデルはアリだと思うんだが。(多田雅範)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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