#  753

『ハクエイ・キム/トライソニーク』
text by 悠 雅彦


アレア・アズーラ〜ユニバーサル UCCJ - 2084 2, 800円

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ハクエイ・キム(p)
杉本智和(b)
大槻 'KALTA' 英宣(ds)

1.トライソニーク 2.クアランプール 3.ホワイト・フォレスト 4.ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング 5.バード・フード 6.ディレイド・レゾリューション 7.ヒドゥン・ランド 8.テイク・ファイヴ 9.ジ・アーキオロジスト

Produced by トライソニーク
録音:2010 年 9 月 27、 28 日@青山ビクタースタジオ

 このところ活きのいい新鋭の台頭がいちじるしい。特に、寺久保エレナの例で明らかなように、才能に恵まれた新人女性演奏家の進出ぶりには目をみはるものがある。だが、話題の上では圧倒されている観はあるものの、男性演奏家の中にも将来の大器と期待できる有望な若手が実は少なくない。その1人、ピアニストのハクエイ・キムが、ついに鳴り物入りでメジャー・デビューを飾ることになった。本作はそのキムのメジャー・デビュー作である。
 ハクエイ・キムについては、今年の1月に来日し、新宿ピットインで演奏したマイク・ノックから聞いていたのでマークはしていたが、じかに聴く機会がなかった。ノックによれば、キムは彼がシドニー音楽院で教鞭を執っていたときの生徒で、卒業後もオーストラリアにとどまり、10年を超える研鑽で能力を飛躍的に高めた注目すべきピアノの逸材だということだった。
 彼が日本人と韓国人の両親の間に生まれたことと直接関係があるわけはないだろうが、一聴して日本の若いピアニストたちとは何かが違うなとピンとくる。それは即興演奏のアプローチの在り方でもあろうし、音楽的センスの違い、あるいは楽曲の把握の仕方が独特なのかもしれない。明らかなのは稀に見るスケールの大きさであり、鋭敏な感覚性だ。特に、後者に関してはリズミック・センスにそれがよく現れている。米国でもヨーロッパでもなく、彼が留学先にオーストラリアを選び、しかも彼の地のジャズ界で現在の語法や演奏技法のベーシックな要諦を学んだに違いないと思えば、彼の特異な感覚性がオージー・ジャズという環境のただ中に身を置いたことで磨かれたと考えても、あながち的外れではないような気がする。
 本吹込メンバーの面々とはハクエイが豪州から帰国後に共演を重ね、まもなくグループとして正規に活動するようになり、「トライソニーク」の名で活動を本格化させてきたという。3者がデビュー作(本作)吹込のために集まっただけの間柄でないことは、最初の数曲を聴いただけで分かる。プロデュースがハクエイ個人ではなく、トライソニークとなっていることにも、彼個人のリーダー性とは別に3者の共同体としてのユニットにおける協調性に力点をおいている彼の意気込みとコンセプト(考え方、つまり戦略)がうかがわれる。実際、3者の呼吸はどの演奏でも乱れることなく、臨機応変に躍動する。この点も本作の聴きどころだ。収録曲のうち、ミシェル・ルグランの(4)、オーネット・コールマンの(5)、ポール・デスモンドの(8)以外の6曲はすべてキム・ハクエイのオリジナルだが、演奏上のアレンジがトライソニークとクレジットされているところにも3者一体のグループの在り方を重要視するハクエイの狙いが朧げに見えた。
 聴きものは、ハクエイのプレイを中心に選べば(1)、(3)、(5)、(8)で、いずれもフォー・ビートなどのアップテンポもの。とりわけコールマンのバピッシュな「ハード・フード」におけるハクエイの15コーラスにわたるソロ、及びインテンポにもかかわらずフリーな感覚と流れを活かした3者の熱闘ぶりに強く惹きつけられた。(5)だけでなく、オープニングのブルース・コードの12コーラス、(3)の16小節モチーフに基づく8コーラスなど、ドライヴがかかった鬼気迫るかのようなハクエイのソロは一聴に値する。5拍子を解体して強烈な4ビートで演奏した(8)「テイク・ファイヴ」での、原曲のコード進行には拘泥せず、左手のリズムに乗った右手の意思的なラインもそう。もう1つ、クッションのような感じを与えながら通常のバラード風処理を超えたルグランの(4)や(6)、エリック・サティの曲調をしのばせる(9)などにも注目した。杉本智和のベース・ソロにも拍手を惜しまない。(2010年12月8日 悠 雅彦)

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