#  782

『渋谷毅+平田王子/LUZ DO SOL太陽の光』
text by 望月由美


soramame record  SMME-1105 2,500円(税込)

渋谷毅(p)
平田王子(vo,g)

1. Sabia サビア(A.C.Jobim、C.Buarque)
2. Luiza ルイーザ(A.C.Jobim)
3. Typoon Apples台風リンゴ(平田王子)
4. Luz do sol 太陽の光 (C.Veloso)
5. Rosa 薔薇(Pixiinguinha & Otavio de Sousa)
6. Simples carinho さりげない優しさ(J.Donato & A.Silva)
7. Pua ahihi プア・アヒヒ(M.Lam & M.K..Puku’i)
8. No meio da viagem 旅の途中(平田王子)
9. Inquietacao 不安(A.Barroso)
10. Desafinade デサフィナード(A.C.Jobim N..Mendonca)
11. Isto aqui o que e イスト・アキ・オ・キ・エ(A.Barroso)
12. Desde que o samba e sambaサンバがサンバであった頃から(C.Veloso)
13. Ikigai 生きがい(渋谷毅 & 山上路夫)

プロデューサー:平田王子
録音:2010年6月25,26,27日
スタジオ:Music inn 山中湖
エンジニア:迎谷彰信(D-Sound)

平田王子(ひらたきみこ)の新作『太陽の光』は平田のヴォーカルをフィーチュアしたボサノヴァ・アルバムであるが、また渋谷毅とのデュオという点でも興味深い作品である。渋谷毅はここ数年<渋谷さんといっしょ>という演題で何人かの女性ヴォーカリストを誘い、専ら自分のオリジナル、主にNHKのTV番組<おかあさんといっしょ>で作った楽曲を楽しく唄うというセッションをライヴハウスで行っている。平田王子もよくゲストで参加しており、また渋谷毅とのデュオ・ライブもしばしば行っている。そして二人はこれまでにもなんどか一緒にレコーディングを行っているが全編デュオというのは今回が初めてである。
 渋谷毅にとってギターと云う楽器はとても相性の良い楽器のようで、石渡明廣(g)とは2006年『月の鳥』録音以来足かけ6年にも亘ってデュオ活動を継続しているし、潮先郁男、中牟礼貞則、広木光一、市野元彦といったギタリストともしばしばセッションを重ねている。平田王子もそうした仲間の一人ともとれるし、渋谷毅にとってほかのヴォーカリストとは違った存在なのかもしれない。
 二人はジョビンやカエターノの名曲やそれぞれの自作曲をボサノヴァ仕立てで演じている。ここでの渋谷毅と平田王子の場合、恋人同士のように実に自然に溶け合っていて、まるで二人は予定調和の域を超えたところで音の中にひたっているようである。しかし、べたべたとした纏わりつきはなくピアノとギターのサウンドの上を平田王子の声が爽やかに涼しげにそよいでいる。
 平田王子はスタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの『ゲッツ/ジルベルト』を聴いてボサノヴァを始め、ブラジルにも何年か滞在し現地のミュージシャンとの交流を通じて自分の音楽を深めたと聞くが、小節をきかせずに淡々と語りかける語り口には不思議な味わいがある。渋谷毅の(13)<生きがい>をのぞいて全て原語で唄っているが詩のストーリーが分かってしまうような気にさせてくれる不思議なニュアンスと説得力を持っている。
 一方の渋谷毅は自分のオーケストラのメンバーとのデュオ・シリーズとしてこれまでに石渡明廣(g)との『月の鳥』(CARCO 0008 )、松本治(tb)との『帰る方法 3』(CARCO 0009 )、松風鉱一(sax)との『Blue Blackの階段』(CARCO 0012)、そして津上研太との『無銭優雅』(CARCO 0013)とデュオ・アルバムを発表してきているが今回はいわば番外編にあたるのであろうか。平田王子の主宰するソラマメ・レコードからのリリースであり、客演的な立場で伴奏に廻るのかと思ったがそんな杞憂は無用で、渋谷毅のピアノが絡むといつもどおりの渋谷ワールドに引き込まれてしまう。いつ聴いても感じることだが、初めて聴くはずなのにどこか遠い昔に聴いたことがあるような、そんなある種の懐かしさを伴う独特の安堵感が漂う。そしてその背後には誰も入り込めない親密さがかもしだされているのである。普段よりも少しだけ音量を小さくして灯りを落すと、適度な初々しさ、微妙な機微といったものが見えてくる。
 本作『太陽の光』(Smme-1105) は全13曲がそれぞれ映画のワン・シーンのように二人の自然体で寛ぐ姿が散文的に描かれ、全体としてひとつの物語が浮かび上がってくる。二人が創り上げたものは単にボサノヴァというジャンルでは括れない自然な風情があり、聴くものの心を和ませてくれるのである。(2011年4月16日/望月由美)

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