#  852

『リスト・プロジェクト:ピエール=ロラン・エマール』
text by 大木正純


ドイツ・グラモフォン/ユニバーサル
UCCG-1551/2 3800円

ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)
録音:2011年5月 ウィーン・コンツェルトハウス

CD 1:
1. リスト:悲しみのゴンドラ S.200
2. ワーグナー:ピアノ・ソナタ 変イ長調 WWV85
  《マティルデ・ヴェーゼンドンク夫人のアルバムのための》
3. リスト:灰色の雲 S.199
4. ベルク:ピアノ・ソナタ 作品1
5. リスト:凶星!(不運) S.208
6. スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第9番 ヘ長調 作品68 《黒ミサ》
  リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178
7. Lento assai - Allegro energico - Grandioso -
8. Cantando espressivo
9. Andante sostenuto - Quasi adagio -
10. Allegro energico - Presto - Andante sostenuto - Lento assai

CD 2:
1. リスト:エステ荘の糸杉に寄せて 第1(葬送歌)S.163の2《巡礼の年》第3年から
2. バルトーク:哀歌 作品9aの4、Sz45の4《4つの哀歌》から
3. リスト:小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ S.175の1《伝説》 から
4. ストロッパ:タンガタ・マヌ(鳥人)《気まぐれなミニチュア》 第1巻から
5. リスト:エステ荘の噴水 S.163の4《巡礼の年 第3年》 から
6. ラヴェル:水の戯れ
7. メシアン:カオグロヒタキ《鳥のカタログ》第2巻 から
8. リスト:オーベルマンの谷 S.160の6《巡礼の年》第1年 から

 生誕200年のアニヴァーサリー・イヤーとあって、今年は猫も杓子もと言いたいくらい、ピアニストたちがリストに殺到した。だがコンサートにしてもディスクにしても、多くはたとえばお決まりのロ短調ソナタを目玉にあとは適当に曲を並べてお茶を濁す程度で、独自の視点でこの作曲家に切り込もうという意欲には、あまり出会えなかった気がする。そんな中、1年も終わりに近づいたいまになってようやく現れたのがこの2枚組アルバムだ。これは現代の最先端をゆく切れ者エマールならではの、ピアニストとしての鋭い本能と強靱な知性との合体である。
 何よりも考え抜かれたプログラムが秀逸。1枚目のメインはなるほどロ短調ソナタだが、それに先だってまず晩年の特異な小品(「悲しみのゴンドラ」ほか)を3曲配し、前衛作曲家としてのリストの先進性を浮き彫りにする。しかも以上4曲を繋ぐ3つのブリッジとして、先達でもあり義父でもあるワーグナーと、ピアノ音楽に新たな道を切り拓いたベルクとスクリャービンのソナタを1曲ずつ、間に挟むという凝りよう。それら3曲がすべて単一楽章作品であるのもむろん偶然ではあるまい。
 きりがないので2枚目の趣向については簡略に述べるが、こちらは暗黒(リスト「葬送歌」ほか)から光明へ、というのがひとつの隠しテーマか。その頂点となる、水と光のきらめくラヴェル「水の戯れ」の前には、この曲の直接のルーツであるリスト「エステ荘の噴水」を置くべくして置いている。余談だが私ならもう1曲、ドビュッシーの「水の反映」を加えてみたいところだが。
 こうした卓抜なアイディアも、それを生かすか殺すかはむろんピアニストの力量次第。その意味でも、エマールに勝る器量がいま、ほかにあるだろうか。冒頭の「悲しみのゴンドラ」から、早くも研ぎ澄まされたピアノ美学が展開する。ベルクのソナタは、まるで精巧なガラス細工のような美しさだ。しかもそのガラスは硬質で、強靱で、脆さの影はみじんもない。ロ短調ソナタも、いかにもエマールらしい、緻密に構築されたクールな大宇宙である。
 2枚目では、その後半、「水の戯れ」の究極の透明感に唖然とさせられたあと、メシアン「鳥のカタログ」の超絶的な演奏を挟んで、リストの隠れた傑作「オーベルマンの谷」がくる。その名演奏が、ドン・ファンな山師のように思われているリストの、詩的で高貴で荘厳な一面を強く示唆してプログラムを締めくくるのが、また何とも見事な設計ではないか。(大木正純)

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