#  907(アーカイヴ篇)

『Andreas Schmidt/Hommage à Tristano』
『Pieces for a Husky Puzzle』
text by 伏谷佳代


『Andreas Schmidt/Hommage à Tristano』
Konnex KCD 5180 (2006)

Andreas Schmidt(アンドレアス・シュミット;pf)
John Schroeder(ジョン・シュレーダー;ds)
Christian Ramond(クリスチァン・ラモンド;b)

1. praeludium from cello suite nr.2(J.S.Bach)
2. note to note (Lennie Tristano)
3. bud(Lennie Tristano)
4. j.a.c.(A.Schmidt)
5. lennie’s pennies(Lennie Tristano)
6. carol’s dream(Connie Crothers)
7. pieces 4 a husky puzzle(A.Schmidt)
8. gazelle(Jimmy Halprin)
9. how deep is the ocean(Irving Berlin)
10. free sketch(Schmidt-Schroeder-Ramond)
11. what is this called?(A.Schmidt)
12. dinner in Dortmund(A.Schmidt)
13. it’s you or no one(Sammy Cahn-Jule Style)

録音:2005年9月19日@A-Trane、ベルリン(ライヴ・レコーディング)



『Pieces for a Husky Puzzle』
Jazzwerkstatt 075 (2009)

Andreas Schmidt(アンドレアス・シュミット;pf)
Samuel Rohrer(ザミュエル・ローラー;ds)
Thomas Heberer(トーマス・ヘベラー;1/4 tone tp)

1. puzzle piece no.1
2. puzzle piece no.2
3. puzzle piece no.3
4. puzzle piece no.4
5. puzzle piece no.5
6. puzzle piece no.6
7. puzzle piece no.7

録音:2008年6月30日@A-Trane、ベルリン(ライヴ・レコーディング)

日常ベルリン・シーンの絶好のサンプリング-----俊英シュミットによるピアノ・トリオ2作品


新旧クラブ数多しといえど、ベルリンを代表するジャズ・クラブといえば、旧東側がミュージシャンのゾトシュ兄弟が経営するB-Flat、旧西側がザヴィニー・プラッツにあるA-Trane(アー・トラーネ)だろう。ザヴィニー・プラッツは骨董品店やお洒落なカフェ・レストランが立ち並び、映画関係者も多く住む。旧西ベルリンの文化的な豊かさが独特のゆったりとした佇まいで息づいている地区だ。A-Traneといえば、アンドレアス・シュミット(p)による「月曜日セッション」である。毎週月曜日、地元在住はもとより、偶然ベルリンを訪れたミュージシャンたちも入れ替わり立ち代わり顔を出す。入場も無料。このセッションは1995年から続いているロング・ランである。今までに登場したミュージシャンは700人以上、そのなかにはMark Murphy(マーク・マーフィー)、Till Broenner(ティル・ブレナー)、Barbara Buchholz(バーバラ・ブーフホルツ)、David Friedman(デイヴィッド・フリードマン)、 Lee Konitz(リー・コニッツ)など。この月曜セッションからいくつかのディスクが結実しているが、そのなかの2枚である。Konnexとjazzwerkstattという、いづれも地元密着型のレーベルに採録されている。伝わってくるのは、とにかく音でのみ勝負しているミュージシャンたちの、琴線の高さと潔さである。無駄な言は弄さない。何かと注目のベルリン・シーン、日常的なセッションにおいていかに高レヴェルが実現されているかが垣間見える。


アンドレアス・シュミットはベルリン芸術大学で高瀬アキ、Walter Norris(ウォルター・ノリス)門下。ジャズの文脈以外でも、Ute Lemper(ウテ・レンパー)やKatja Riemann(カーティヤ・リーマン)など舞台表現者たちのツアー・ピアニストとしても絶大な信頼を得ている。かのMaria Joao(マリア・ジョアォン)もシュミットを称賛する。まず特筆すべきは、その音色の美しさであろう。リリカルで芯のある音色であり、自在な浸透圧を有す。リバーブ効果を素のなかに含み込む。師ゆずりともいえるが、「どんなジャンルをやらせても巧いだろう」という揺るぎない確信を与える。緻密なコンポジション能力と大胆なフリー・インプロの拮抗、網の目のような細かさと大局的な見通しの良さは、当然のものとして同居する。大抵のことはアコースティック状態でやれてしまうし、やれてナンボだ-----そんな気概が見てとれる。実際、鍵盤から内部奏法への移行も、絹のようななめらかさだ。


『Homage à Tristano』はドラムにジョン・シュレーダー、ベースにクリスチァン・ラモンドを迎えてのオーソドックなトリオ編成、『Pieces for a Husky Puzzle』はドラムにザミュエル・ローラー、トランペットにトーマス・ヘベラーを配したベースレス・トリオ編成だが、ほぼ100%「生楽器による対話」のみであらゆる蝕手が張り巡らされる。スウィングもフリーフォームも変則的に連続するが、それらが聴く側には覚醒した一種の統一感として伝わってくるところは、やはり熟練者のみが生む余裕だろう。『Hommage〜』で瞠目するのが、とりわけシュレーダーの抜群の食いつきの良さである。「丁々発止」などという陳腐な構図に当てはまらぬ、デリケートなサポート力と拍子の裏からの完璧なまでの時空の制覇は、閉めの一曲「It’s you or no one」のインタープレイでも白眉。相手の音楽のもっとも深いところへの洞察が、自己の自由な放出と全くイーヴンな次元にある。その思慮深さと爆走のちぐはぐな収まり具合こそまさに生命の不思議さ。シュミットはコニッツと親交を深めて久しいが、コニッツの師匠でもあるトリスターノへのオマージュは、自己の音楽のルーツを辿るということでもあるのだろう。Jimmy Halperin(ジミー・ハルペリン)の「gazelle」、バッハのプレリュード、自作の「j.a.c.」ともども、アイディアは精査され、新しくもクラシカルな輝きを放つ。完成度の高さという点で、どの曲も揃い踏みのレヴェルを誇る。


一方の『Pieces for 〜』では、トーマス・ヘベラーの4分音トランペットが冴え渡る。照りと音量が増すごとに沈潜と哀切の度合いも増す相反的な音色は、まさしくヘベラーにしか出せぬ個性的情緒である。ここにシュミットの甘美に屹立した音色が加味され、ダブルヘッダーのごとく空間を刺し色で埋めてゆく。唯一跳躍感を見せるのが、ザミュエル・ローラーのドラムであり、メロディを担うかのようにリズムと空白が浮き出る。天性ともいえる聴覚バランス感覚の若手ドラマー。ドラムも含め、高音部の露出が多いが、不思議と暗欝に捉われるアルバムである。しかし、一見メランコリックな表層のゆらぎには、深い沈思黙考の力が垂直に貫かれている。コンポジションはすべてシュミットに拠るが、『空虚なパズルのための断片』というそのタイトルはまさしく挑発されている。フリー部分の充実、偶発の倍音を自由に泳がせつつ引き締める真の技巧。コンポジションという規定は空虚なのではなく、有用な飛翔を生むための母体、音楽における出来事はすべて同一線上であり、真の自由とは規定など軽く含みこむのだと、語っているようだ。そういえば、先の『Hommage à Tristano』もバッハのチェロ組曲で始まる。定型がそのまま究極の自由であるバッハを持ってくるあたり、心憎い (*文中敬称略。伏谷 佳代/Kayo Fushiya)。


【関連リンク】
http://www.zerozero.de/start.html
http://www.a-trane.de/

http://john-schroeder.de/
http://www.thomasheberer.com/
http://www.samuelrohrer.com/
http://de.wikipedia.org/wiki/Christian_Ramond

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