#  915

『Jeff Denson/Secret World』
text by 伏谷佳代


Between the lines;2012 BTLCHR71229

Jeff Denson(ジェフ・デンソン; db, vocal)
Ralph Alessi(ラルフ・アレッシ;tp)
Florian Weber(フローリアン・ヴェーバー; pf)
Dan Weiss(ダン・ワイス;ds)

1. Rise
2. Autumn Song
3. Not Anoter Moment’s Thought
4. Where the Water Moves
5. Merry-Go-Round
6. Longing

『Horizon Suite』
7. Setting Sun
8. Dusk
9. Nightfall
10. Dance of a Bittersweet Victory

録音:2011年8月17,18,20日@Acoustic Recording, Brooklyn, N.Y.
エンジニア:Michael Brorby (マイケル・ブロービィ)
プロデューサー:Jeff Denson/Volker Dueck (フォルカー・デュック)

迸る想像力とエナジーそのままに、高度に構築されたインストゥルメンタル

「めくるめく」という表現がまさにしっくりと来るほどに、徹頭徹尾メロディのフロウに貫かれたアルバムである。どこを切り取っても、ビシビシとした心地よい刺激に襲われる。しかしながら、不意を突く爆音の類は全くなく、あくまでも優雅だ。メロディの着想とフリー・インプロ部分でのとめどない飛翔と、緻密なアレンジメントから垣間見えるストイックの極みのような構成力。それらが混淆しては大きなうねりとなって押してくる。一言で表現するならば、全方位から鳴り響く音楽、である。遠近法の効いたサウンドでありながら方角を特定することは難しい。各楽器の音域が、どれも例外なくダイナミックに採られており、どこかに定住することはない。しかし、一瞬として散漫になることのない磁力が働いている。

バンド・リーダーはJeff Denson(ジェフ・デンソン)。ニューヨークを拠点とする30歳を超えたばかりの若手であるが、欧米ではすでに評価の確立したベーシスト及びコンポーザーである。ベルリン、JVC (パリ)、モントリオールなど各地のフェスティヴァルに出演。ニューヨーク・タイムスやワシントン・ポストなどメディアでも絶賛されている。驚くべきは活動領域の広さであり、クラシックのオーケストラからジャズ/インプロ界隈、R&B、ポップスまで垣根はない。最近ではLee Konitz Quartetのメンバーとしても活動し、このクァルテットのアルバムはフランスの『ジャズマン・マガジン』で2010年のアルバム・オブ・ジ・イヤーにも輝いている。ダブルベースというと、伸びの少ない乾いた音色の楽器、という先入観があり、とりわけベースレス編成が珍しくもなくなった近年では、オールド・ファッションなイメージがどうも拭えなかった。しかし、ジェフのアルバムを聴き、この巨体ともいえる楽器の底力をまざまざと見せつけられた思いがする。久方ぶりにクラシック・カーがエンジンを吹き返して圧倒されたような感慨か。

アルバム全体を異色なものにしているのが、2. Autumn Songと6. Longingでみせるジェフ自身によるヴォーカルとスキャットであろう。男性にしては高めであるアルトが、中性的な情緒をかもし出す。各プレイヤーを見てゆけば、まずFlorian Weberのピアノが実に個性的な音質である。熱砂を連想させる、独自の発光点がある音だ。一定の熱さが維持され、キレのよいアタックの際(きわ)に封じ込められる。それは単音のメロディでもコードでも変わらない。連綿と推移してゆくインプロでは、Ralph Alessiのトランペットが照りと肉厚な豊かさの点で白眉。インプロのセンスはさすがヴェテランの余裕で、いともやすやすとさまざまな場面が乗り越えられてゆく。Dan Weissのミリ単位も外さぬ見事な変拍子の切り替えにも舌を巻く。理屈抜きに心地よい覚醒が最短でもたらされる。常ながら思うが、一瞬の微音において怜悧さと音楽性の双方を発揮するドラマーにこそ、真のタフネスを感じる(が、なかなか出会うことはないのが現状)。Jeffはしなやかな弓圧で、ダブルベースをチェロ的に歌わせるアプローチも随所でみせているが、これもアルバム全体のフロウと緊迫を格段に高めている。他の楽器が存分に歌い込めるように「ノセる」契機として作用し、インプロへの大きな亜空間がここで口を開けるのだ。通常のリズム・キープ部分が、さらに引き締まった弾(はじ)きとして感知されるのも、こうした即妙な歪曲を盛り込んでこそ。頭脳犯ともいうべきか、自在な発想力がエッジの効いた構成力として自然に結実する。またそれを可能たらしめるのが、各プレイヤーの洒落にならぬほど卓越したアコースティック能力であることは言うまでもないが。地味な1曲だが、個人的に愛聴して止まぬのが、5. Merry-Go-Round。終盤、トランペットの繊細なるリップトリル、蜘蛛の歩行のようにかすかな網の目を張り巡らすピアノの高音部と精妙でやわらかなシンバル、そのすき間を縫ってつま弾かれるダブルベースによる弱音のフリッカー世界。あまりに美しいものを見たときに思わず目を閉じてしまう-----それにも似た生理的反応を引き起こす。ダブルベースのみならず、すべての楽器好きを満足させる1枚であろう(*文中敬称略。伏谷佳代Kayo Fushiya)。


【関連リンク】
http://www.jeffdenson.com/
http://www.ralphalessi.com/
http://www.florianweber.net/
http://www.danweiss.net/

http://www.betweenthelines.de/
http://izumi-productions.com/jeff-denson/whatsnew/  

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