#  932

『アンリ・バルダ/2008年東京ライヴ〜ブラームス、ベートーヴェン、ショパン』
text by 伏谷佳代


Sisyphe SISYPHE018

アンリ・バルダ (Henri Barda;pf )

ブラームス;クラヴィーア・シュトゥッケop.76
ベートーヴェン;ピアノソナタ第28番op.161
ショパン;バルカローレop.60
      バラード第1番op.23
      バラード第2番op.38
      バラード第3番op.47
      バラード第4番op.52

録音:
2011年12月18日紀尾井ホール、ライヴ・レコーディング
エンジニア;Norio Okada
スーパーバイザー;Yoshiharu Kawagushi
マスタリング;Augustin Muller
プロデューサー;Yve Riesel ( SISYPHE )
使用楽器;スタインウェイ

野太きロマンティシズムの奔流〜バルダ・ノンストップ

かつてフリードリヒ・グルダのアルバムに『グルダ・ノンストップ』という一枚があったが、このアンリ・バルダの2008年紀尾井ホール・ライヴにも「バルダ・ノンストップ」と名付けたくなるような、有無を言わせぬ「バルダ流、音の奔流」が一貫して渦巻いている。ピアノの音色について述べれば、ホールの音響、レコーディング技術、使用楽器などの諸条件を抜きにしても、「曳き」の多さ、外向的で華やかな色彩、瑞々しくエモーショナルな躍動感、などが個性の筆頭に挙げられよう。バルダの一音は多弁である。はちきれんばかりのエナジーは、ひとつの音像のなかで遊色効果のような多面性を湛える。アルバムには、ブラームス、ベートーヴェン、ショパンという3人の性格の異なる作曲家の作品が収められているが、それぞれの差異を際立たせるという点においてそれほど顕著なものは感じない。すべてを覆う「バルダ色」があまりに濃厚であるがゆえ。

バルダのピアニズムを語るとき、その低音の迫力ある追い上げは大きな魅力のひとつだろう。強引に踏み込んでは聴き手の心を根こそぎかっさらってしまう、前時代的ともいえる非常にマッチョなグルーヴ。フリー・ジャズの息吹を無理やりクラシックの様式美に封じ込めたようなピアニスト、と一昨年の公演レヴューでは述べた(http://www.jazztokyo.com/live_report/ report302.html)。悠々と弾き進められる音楽が、得も言われぬ香気を発散し始めるのは、やはり後半のショパンである。巷にある洗練と柔和なポエジーの極みであるショパンとは一風も二風も異なる、荒削りのロマンディシズム。作曲家の境遇、作曲された当時のヨーロッパ、その生活の臭いまでをもそのままナイフで削り取ったかのような、ダイナミックな彫像がここにはある。とりわけ、バラード各曲でのアッチェレートの嵐と内省的な静寂とのコントラスト、場面が塗り替えられる興奮を体感されたい(通常は地味な存在の第2番など、そのドラマ性の激しさに瞠目)。落雷に見舞われるように音に打たれる衝撃は、ライヴ会場に居なくとも充分に伝わってくる(*文中敬称略)。(伏谷 佳代 Kayo Fushiya)

【関連リンク】
http://www.abeillemusique.com/Sisyphe/clelab-50.html

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