# 937
『村田陽一オーケストラ/トリビュート・トゥ・ギル・エヴァンス〜
ライヴ・アット・新宿ピットイン』
text by 望月由美
| ピットインレーベル PILJ-0005 2,500円(税込) |
村田陽一オーケストラ:
村田陽一 (arr,cond,tb,p)
奥村 晶 (tp)
松島啓之(tp)
青木タイセイ(tb)
津上研太(sax)
竹野昌邦(fl,sax)
山本拓夫(fl,cl,sax)
三好“3吉”功郎(g)
納 浩一(b)
佐野康夫(ds)
岡部洋一(per)
1. バド・アンド・バード(G.Evans)
2. タイム・オブ・バラクーダ(M.Davis,G.Evans)
3. イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ(T.Dameron)
4. ラウンド・ミッドナイト(T.Monk)
5. プリーステス(B.Harper)
6. ラスベガス・タンゴ(G.Evans)
7. ソー・ホワット(M,Davis)
8. ストーン・フリー(J.Hendrix)
プロデユーサー:村田陽一
共同プロデユーサー:品川之朗(ピットインミュージック)
エンジニア:菊地昭紀 (ピットインミュージック)
PAオペレーター:藤村保夫(新宿ピットイン)
録音:2012年1月13日 新宿ピットインにてライヴ収録
今年はギル・エヴァンスの生誕100年にあたることから何枚かのギル・エヴァンス・トリビュート作が発表されているが、本アルバムも「新宿ピットイン」で行われたギルの生誕100周年を祝う村田陽一オーケストラ『Tribute To Gil Evans』のライヴを収録したものである。編成は2トランペット、2トロンボーン、3サックスにギター、ベース、ドラムス、パーカッションという11人編成でオーケストラとしてのアンサンブルの魅力とビッグ・コンボ的なソロの楽しみの両面を備えている点にギルのマンデイナイト・オーケストラと共通するものを持っている。
演奏曲もギルの曲、あるいはギルが深く関わった曲が選ばれていてギルの演奏を思い出しながら聴いても興味深いし、ここで展開されているサウンドはアンサンブル・パートでのギルらしいハーモニーのなかからも演奏メンバーのひとりひとりの顔がくっきりと浮かび上がってきて村田陽一オーケストラの個性が色濃く出ていることを聴き取ることができる。
マンデイナイトのギルもそうであったが、村田陽一のアレンジも単に楽器の音の積み重ねでサウンドを描くというよりは個々のキャラクターをそっくりそのまま活かしているので、ギルへのトリビュートではあるが村田オケ固有のサウンドが強調され、オーケストラの個性となっている。特に今回のようなライヴではその特徴が最大限に発揮されている。
(1)<バド・アンド・バード>の軽快なバップ・チューンからスタート。奥村昌(tp)の若き日のガレスピーのようなブリリアントなソロにつづき津上研太(as)がパーカーとドルフィーのはざまを行き交うようなフレキシブルなスタイリストぶりを発揮しバンドを盛り上げる。ギルは40年代に、クロード・ソーンヒル楽団でドナ・リーやアンソロポロジーなどチャーリー・パーカーの曲を好んで編曲していたし、コンサートでもチャーリー・パーカー・メドレーなどを演奏していた。そうしたギルのビ・バップへの想いを集大成したような曲が<バド・アンド・バード>であり、村田オケもそうしたグルーヴを大事にしながら心おきなくスイングしている。7人のフロントにおとらず元気なのがリズム・セクションで、パーカッションの岡部洋一がガレスピー・オーケストラのチャノ・ポゾのような役回りで全編にわたってバンドの活性化に一役も二役も買っているし、ギターの三好功郎もクインシー・バンドにおけるレス・スパンのようなピリッと効いた山椒のようにバンドをひきしめている。(3)<イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ>では村田陽一のトロンボーンが全面的にフィーチャーされる。ギルは『Gil Evans & Ten』(Prestige)でジミー・クリーブランドのメロウなトロンボーンをクローズアップして、そこにギル自身のピアノを随所にからませながら、ギルならではのカラフルなサウンドを築き上げていたが、ここでは村田陽一のトロンボーンがその任にあたり、ゆったりとおおらかに親しみをこめてメロディを歌い上げる。また三好のギターがギルの役回りを果たし村田のトロンボーンにつかずはなれず微妙な距離感でカラフルなアクセントをつけている。アンサンブルも優雅で美しい。タッド・ダメロンの名曲にはビル・エヴァンスの『Moon Beams』( Riverside)、チェット・ベイカーの『Chet』(Riverside)など多くの歴史的名演が残されているが、本テイクも見事にその仲間入りを果たした。
そのほか、全8曲どの曲もギルゆかりの曲がならび「新宿ピットイン」の雰囲気とマッチするホットな演奏ばかりだが特に(7)<ソー・ホワット>は村田陽一の発想が面白い。ここで村田はマイルスの『Kind Of Blue』(CBS)に収録されている<ソー・ホワット>のマイルスのソロ・パートをそっくりそのままオーケストラ用にアレンジしてアンサンブルで聴かせるという手法を試みている。かつてスーパー・サックスがチャーリー・パーカーのアドリブをそっくりそのまま拡大演奏して話題になった。<ソー・ホワット>も同じアイデアであるが、多くのジャズ・ファンが口ずさめるほど耳になじんでいるマイルスのソロをとりあげたところが新鮮だし、演奏しているメンバー自身も楽しんでいる様子が伝わってくる。そしてエンディングはジミ・ヘンドリックスの(8)<ストーン・フリー>。ファンク色の濃いリズムが空間を埋めつくしフロント陣がテーマを吹き始めるとピットインは最高潮に達する。カラフルなリズムとフリーなアンサンブル、そして個性的なソロが自由に行き交うところがギルの最大の魅力であり、村田陽一オーケストラも同じ域にたっして演奏しているから演奏そのものがギルと同化していて、まさにトリビュート・トゥ・ギル・エヴァンスというムードが横溢する。
ギルは80年代にマンデイナイト・オーケストラを率いて「スイートベイジル」に定期出演していた。メンバーも固定化せず、演奏したい人は誰でも自由に参加し、ソロをしたい人はソロを取りたい時にソロをとるというかなりラフで自由な演奏形態をとっていた様子が残された何枚かのライヴ・アルバムからうかがい知れる。村田陽一(tb)はギルのそうした音楽的な姿勢に共感をおぼえ1993年の3月22日の月曜日に新宿ピットインで『トリビュート・トゥ・ギル・エヴァンス』を初演、以来バンド名を「マンデイナイト」〜「村田陽一オーケストラ」と変えながら活動を持続し今年で19年になる。メンバーも若干の交代はあったが大半は発足当時からほとんど変動がなく、気心の知れあったもの同士の集団であり、渋谷毅オーケストラが1986年に「新宿ピットイン」をホームに活動を開始したのにつぐ長寿オーケストラである。村田陽一を始めメンバー全員が個々の音楽活動と両立させながらこのバンドでの演奏をエンジョイして持続、発展させてゆくプロセスは、離散集合の激しいライヴ・シーンにあってひとつの模範となるのではないか。村田陽一オーケストラ『トリビュート・トゥ・ギル・エヴァンス ライヴ・アット・新宿ピットイン』はそんな活気と行動力のみなぎった作品であり、老舗「新宿ピットイン」の伝統の底力とピットインが今なおライヴ・シーンのホームグラウンドであり続けていることを如実に示したアルバムである。 (2012年8月 望月由美)
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