#  968

『Masaaki Kikuchi菊地雅晃/on forgotten potency』
text by 多田雅範


CERBERA RECORDS
CER 001

菊地雅晃 (b, effect, club mix)
松村拓海 (fl, b-fl, effect)
坪口昌恭 (synth, effect, etc)
藤井信雄 (ds)

1. Potency (13:54)
2. Aqualine 1987 (12:11)
3. Conjecture (11:40)
4. Fluctuation (12:21)
5. Estol (4:53)
6. Chan's song (12:16)

All sons written by Masaaki Kikuchi
Except "Chan's song" written by Herbie Hancock and Stevie Wonder

若きベース奏者菊地雅晃のコンテンポラリーを聴く

2001年の同時多発テロ「911」の発生しているリアルタイムに、ぼくは菊地雅章(プーさん)と菊地雅晃と吉田達也と山下邦彦と淡中隆史とベイエリアのスタジオに居たのだった。スラッシュ・トリオのスタジオ・ライブを聴いていたのだ。スラッシュ・トリオの録音は残ってないから早く録られるべきだ、と、話したところから実現したのだっけ、プーさんと話せるだけでもうれしい夜だった。「おれ、ビル・エヴァンス、だめなんだよな、トリオ64だけはいいけどな、トリオ64に関してはゲイリーもおんなじだって言っててさ」ときいて、ぼくもおんなじだったことにハッピーアイスクリーム(古語)な気持ちで。

スラッシュ・トリオに菊地雅晃はいた。プーさんのピアノに、アウトサイドな変拍子ドラマー吉田達也、アウトサイドなベーシスト菊地雅晃、つまりアウトサイドが二重になった刺激的なトリオだと、そんじょそこらのフリージャズにもモダンジャズにも解消できない沸騰するような殺気を期待できるトリオだったわけだが。若き菊地雅晃は演奏のあと、ぶっ倒れていた記憶があって何かを話したと思うんだけど。

考えてみればあれから12年、68年生まれの彼はもうベテランのベーシストだ。若き、と記述するのは適切ではないや。

フツーのジャズ・ベースじゃない資質、は、プーさんが求めたものであって、甥っこだからトリオに入れたということではあり得ない。それはこちらの耳が理解している。

現代ジャズ・シーンをリアルタイムに体験し発信している音楽評論家の益子博之が通うライブのラインナップに菊地雅晃の名が散見されるのは知っていた。益子さんが手にするCD、通うライブ、そのセレクトの確かさに仲間内では「おおお、神の手だ」と騒ぐわけだけれど、日本のライブハウスにセレクトされた最先端に名前があるわけだ。

ぼくはライブに通いもしなければ、CDも00年前後のベースソロ作品を聴いたきりだった。

新作が発表された。おお、坪口昌恭が参加しているでわないか。「幻惑のアーバンサイケ・ミュージック」「これぞテン年代の世田谷アンダーグラウンド!」「このアルバムのテーマは、ジャズ・フュージョン・サイケ・AORなどをミックスすることにある」「今宵あなたと共に、いざアーバン=サバービアンサイケの旅へ」・・・

・・・アーバンなんたら、とか、今、ですかあ?ジャケがまさしく、アーバンな多摩川沿いの郊外、バブル前夜っぽい感じがする。アーバンという語感が、未来と懐かしさが同居している。そういう空振り感満々なジャケなのに少しめげた。テン年代の現代ジャズ感覚のジャケ・デザインでわないよなー。キュートとポップとノイズと東洋が、何らかの図形を描く構成を伝えていないと、なあ・・・。

などと思いながら、CDプレイヤーのスイッチを入れて。

つらつらと書いたこちら側の勝手な予断が、ある程度予想の範囲内に収まってしまい、「まあ、この音楽の射程はこんなところだよなあー」と、耳の構えを下ろしてシートに身を沈めて過ごしていると・・・、フルートがやたらいい!のだ。菊地も坪口も藤井も、その力量を足し算しているのに対して、フルートが化学反応を起こす・・・。

耳のトリガーが入る。ずっぽりそちら側のタイム感覚にトリップし始める。深夜のあてのないドライブで信号待ちで青色の道路標識の文字に見惚れるような。・・・ぐぐっ、それってこのジャケの左下方に見える道路標識に感触にピッタリではないか。・・・ジャケを先に見ていたからだろう?どちらが先なのかわからない。

菊地雅晃のサイトがあった。
http://blog.livedoor.jp/leoneturbogt2/
プロフィール:マチャアキ。午前2時から4時までをこよなく愛するベーシスト。「午前3時に多摩川沿いでサバービアンに音楽と車と人生を思想するブログです」とある。なんだか、さばけてるというか。「最近ECMからアルバムを出した某日本人有名ジャズピアニスト(笑)も絶賛してくれました」という書き方も、どういう距離感なんだか。

つい、ヘヴィロテになってしまった作品である。

おお、佐藤英輔さんがいいレビューを掲げている>
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121227-00000307-tower_r-musi

こういうのはアメリカのミュージシャンには作れないだろう。かくして、菊地雅晃は旧来から綿々と続くジャズ保守から外部であり続けながら、ドメスティックな異空間を奏でているのである。得がたし、得がたし。

(多田雅範/Niseko-Rossy Pi-Pikoe)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

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ポール・ブレイ Paul Bley

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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カンサス・シティの人と音楽
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Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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