UPDATED 01.15.2006
失われた音楽 秘曲の封印を解く
タイトル:『失われた音楽 秘曲の封印を解く』
著 者:金澤 攝
発行所:龜鳴屋 〒920-0046 金沢市大和町3−39
    電話076-263-5848
定 価:2800円

山口の知人数学者から送られてきた一冊。深緑と黒のシックな変形版が、すでに何かを語りだす。売れることなんかハナから無視、読める人だけ読んで頂戴!とばかりの面構え。なるほど、猛烈に癖のある中身だ。
「クラシック」と呼ばれる過去300年余りの音楽遺産のうち、現在日の目を見ているのはごくわずか。埋もれた天才作曲家の名作群が実は山ほどあるのであって、生まれ持ったる「名作探知機」によって無辺なる砂の中から発見した「砂金」およそ3000曲を後世への文化遺産として残すのを使命とする、というのが著者、金澤攝の宣言である。長い間、モーツァルトやショパンが理解できず、退屈のみならず、堪え難い不快感すら催していた著者は「ガゼッラ版」(校訂譜)を見てはじめてその音楽の本質を了解、「作曲家の目から見た価値を知った」とある。今や現代人必須のサプリメント、 モーツァルトが耐えられない、とは何たる痛快発言! となれば、金澤の「ガゼッラ版」モーツァルトやショパンを是非とも聴きたくなるのは人情。なのだけど、残念、ディスコグラフィーには記載なし。
3歳で楽器店に出掛け「ピアノを下さい」と言った金澤は、8歳でオーケストラ曲の断片を書き、スコアやレコード蒐集を開始、10歳で母のバレエ団のピアニストとしてロシア公演に同行、15歳でパリに留学、でも作曲は完全独学という「はみだし神童」。ちなみに中学生で傾倒、「私の起点」と語る作曲家にはシュリッペンバッハの師ツィンマーマン(@JTインタビュー #32)の名が。いくつかの有名コンクールでも優秀な成績を収め、中でもチャイコフスキー・コンクール(1982)でのスクリャービンは満場を凍り付かせた、とか。つまり減点制(ミスなし=日本的優等生演奏=高得点=高順位)での順位争いなんぞ音楽とは関係ないぜ!とばかり啖呵切ってくれた唯一の日本人と いうこと。
4年後に帰国した金澤はパリでの研究、すなわち「砂金」発掘の成果を世に問うべく、さまざまな天才作曲家の作品紹介コンサートを開始。本書はその折々に書かれた文章や雑感を集録したもので、ブゾーニ、ヒンデミットなど有名どころも含め20人余りの「知られるべき」作曲家や作品が並ぶ。これらが真の名作なのかどうか、読んだだけでは「凄いらしい」としかわからないわけで、こちらも是非とも聴いてみたくなる。のだけれど、残念、音源は全て廃盤、品切れ・・・うう、ストレスたまるゥ。
その強烈な自意識に辟易しつつも、独学ならではのスタンスできょうびの楽壇をなで切るさまも心地よく、演奏されることなど全く度外視、書きたいように書いた作曲家としての欲望の塊だけの自作作品群もすこぶる魅力的。100人の演奏家を動員する15秒の交響曲『マイクロシンフォニー』、非人間的なスピードの極限に挑む、児童合唱と11器楽奏者への『さるとおじぞうさま』、音による秘仏として録音録画を禁ずる33奏者への『甘露』などなどの初期作品に、わが「是非とも」欲求は高まるばかり・・・。
ともあれ、作曲に演奏に獅子奮迅の著者、なのだが、その報われなさも相当なもの。「楽譜を入手するのも大変なら、練習するのも大変、苦労して準備し、コンサートに漕ぎつけたところで、“知らない曲だから聞きに行かない”と人は集まらない。」
さて、この一文をお読みくださった方、本を手に入れ、コンサート情報を仕入れ、著者の嘆きを幾ばくかでも減らす気になったでしょうか? JT (丘山万里子)

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