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本書はLIBRARY #32で取り上げた『キース・ジャレット 音楽のすべてを語る』(立東社)とある意味で対をなす著書である。サブタイトルに「山下邦彦との会話」とあるように、前掲書を編集するベースとなった山下によるキースへの15時間にわたるインタヴューのほぼ原形に近い再現である(と思われる)。結果として前掲書の読者は併せて当時のキースの思考の流れを本書を通じて確認できる機会を与えられることとなった。
本書誕生の経緯はきわめてユニークである、と同時に両者の誠実さと強い信頼関係を示すものでもある。1989年、前掲書の日本での刊行を確認したキースは英語版制作の希望を山下に申し出る。山下は同書の全訳とともに15時間におよぶインタヴューのカセットテープのコピーをキースに提供する。英語版編者のティモシーと資料を念入りに吟味したキースは「獰猛な欲望」から「透明なエネルギー、透明な感情」まで7つのパートに章立てした著書に編み直す。再編集にあたってキースとティモシーによる削除と加筆の作業があったが、この時、山下が前掲書に挿入した総計139におよぶキース自身の他のメディアにおける過去の発言と内外の音楽家たちによる傍証がすべて削除の対象となった。彼らの7年間におよぶ尋常ならざる努力は、結果として、山下の<キース・ジャレットの人生と芸術性に対する深い洞察を通して><瞬間における創造力というテーマをくっきりと浮かびあがらせ>ることとなった。それは、<「西洋的に考える」東洋人と、「東洋的に考える」西洋人の両方にとって興味深い問題>についての考察であり(引用は編者ティモシーの序文より)、キース自身が序文で述べるように<私の仕事(音楽)の理解において中心となる重要なもの>であった。
1984年に行われた武満徹との対談におけるキースの<一方ではしゃべりの多過ぎる世界があり、行為の代わりにしゃべりをやる。そして一方では行為だけがあって、その行為そのものについては知ろうとは思わない。でもその両方とも間違っている>という発言にヒントを得て「キースの行為そのものについて」のインタヴューを敢行した山下の思いは、じつに17年の歳月を経て日英両国語併記によるキースの著作という理想的な形で世界に向けて公開されることになったのである。
JT
(稲岡邦弥)
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