#  065

アヴァンギャルド・ジャズ〜ヨーロッパ・フリーの軌跡
text by 稲岡邦弥


書 名:アヴァンギャルド・ジャズ〜ヨーロッパ・フリーの軌跡
著 者:横井一江
版 元:未知谷
初 版:2011年6月10日
定 価:本体2,800円+税



腰巻きコピー:
1960年代、ヨーロッパのジャズは独自の言語を獲得した政治の季節、権利獲得の時代に呼応し、ドイツ、オランダ、イギリスを中心に、同時多発的にフリージャズから新たなムーヴメントが勃興、プレイにとどまらず自主レーベル、自主組織等新しい音楽の在り方を提示した。
1980年代からドイツのジャズ祭を中心に取材、数々のミュージシャンのインタビューから見えた本格的に紹介されることがなかった未踏のシーン。
ひとつのヨーロッパ文化論。

まず、タイトルが潔い。「アヴァンギャルド・ジャズ」。そして、「ヨーロッパ・フリーの軌跡」。直裁に内容を提示している。次に、カヴァーの写真がイカしている。“イカす”という言葉は石原裕次郎が使い出した一種のスラングだがこの場合、他に形容の言葉がみつからない。短い吸い口に紙巻きタバコを差して口にくわえた大柄な男がやや背をまるめながらピアノを弾いている。頭髪はすでに頭頂部がほとんど禿げ上がり、むき出しになった天頂部がユニークなフォルムを描いている。かすかにたなびく紫煙。まあ、一筋縄ではいきそうもない輩のようだ。イタリアン・リアリズム・フィルムのひとこまか。
男の名は、ミシャ・メンゲルベルク。ジャズ・ファンには『ラスト・デイト』でエリック・ドルフィーと付き合ったピアニストとして知られている。1枚の写真がじつに多くのことを語り、多くのことを暗喩しているが、本書に掲載された多くの写真に共通するその事実は筆者がフォト・ジャーナリストであることに由来する。筆者は念願のメンゲルベルクとのインタビューを通して50年代から現代に至るオランダのフリージャズの流れを俯瞰する。ダダ、エリック・ドルフィー、ジョン・ケージ、フルクサス、そして、インスタント・コンポーザーズ・プール(ICP)、ビムハウス、さらにICPオーケストラへ。ひとりのキー・ミュージシャンの証言を通して語られる半世紀の歴史。そしてオランダを代表する他のふたりのミュージシャンの証言によって客観化される事実。眼で直視し、耳を傾け、会話で肉声を聴き、文献で確認する、本書を通じて駆使されるこの手法はまさにジャーナリストのそれであり、さらに写真として記録を残す技術を持ったフォト・ジャーナリストとしての資質が遺憾なく発揮された結果が本書であると断言しても過言ではないだろう。
本書は、第1章「ヨーロッパとジャズ」で、戦前と戦後におけるヨーロッパとジャズの係わりから起こし、第2章で「ヨーロッパ・フリーの系譜」について述べた後、第3章「ヨーロッパ各国のフリー・ムーヴメント」で、ドイツ、オランダ、イギリス、フランス、イタリア、スイス各国のムーヴメントについて詳述される。圧巻はドイツで、シュリッペンバッハやブロッマン、高瀬アキら多くのミュージシャンとの交友を通じて得られた情報が駆使される。加えて、第4章「ジャズ祭」でも触れられるベルリンやメールスのジャズ・フェスティヴァルでの豊富な見聞が情報を確実なものにする。そして何よりもミュージシャン自身の肉声で語られる生身の証言が、「ヨーロッパ・フリーの軌跡」という一種近寄り難いテーマを身近なものとする。
断片的な情報のパッチワークで事足れりとするネット時代にあって、生活の一部となった感さえあるあくなき取材活動の集積として「ヨーロッパ文化論」を目指す本書をまとめあげた筆者の労苦を讃えると共に、この出版不況下に本書の産みの親を引き受けた版元の未知谷社に読者を代表して感謝する次第。(稲岡)

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