UPDATED 04.15.2007

 フリージャズ健在なり、だった。その熱さもまた。
 日本ではアトミックがブレイクしたことで有名になったドラマー、ポール・ニルセン・ラヴの新宿ピットイン2daysの初日は、ノルウェーのコングスベルグ・ジャズ・フェスティヴァルで初共演したトリオの再演だった。だが、主役はなんといってもペーター・ブロッツマン、とにかく彼の演奏を堪能した一夜だった。
 いつの間にか定着している「サックスのヘラクレス」という形容詞は言い得て妙だ。しかしながら、その爆音ゆえに豪放磊落に聞こえるサウンドは非常にデリケートな感受性によって支えられている。パワー・プレイヤーという先入観が強いが、その楽器コントロール能力と表現の多様性はヨーロッパ随一のリード奏者ならでは。どこで聞いてもそれとすぐわかる音色、独特のバイブレーション、剛勇無双な音だが、その中で極めて繊細な表現がなされていて、緻密にサウンドを構築していくばかりか、不意にエレジーを感じさせる瞬間がある。ヨーロッパの即興音楽家でフリージャズのマインドを今なお強く感じるのもブロッツマンだ。そういう意味では同世代のエヴァン・パーカーとは対照的である。
 細かい手の動きでパルスを繰り出しつつ、最後まで衰えぬパワーでスピード感をキープするニルセン・ラヴとブロッツマンの相性はいい。ニルセン・ラヴには非凡な才能を感じる。だが、欧米の強者達をわんさか聴いてきた耳には、彼の即興演奏はまだ様々な試行錯誤の最中という感は否めない。CDを何枚か聞いたところでは、彼は共演者やプロジェクトによって異なったアプローチで対応しているという印象がある。アトミックの他にもマッツ・グスタフソン、インゲブリグト・ホーケル・フラーテンとのザ・シンク、ステン・サンデール・トリオ、ブロッツマンのシカゴ・テンテットにも参加し、ポスト・エヴァン・パーカーのサックス奏者ジョン・ブッチャーとも共演するなど活動領域も広いだけに、これからを大いに期待したい。
 八木美知依は、男性陣のパワープレイに一歩もひけをとらない演奏をした逞しき紅一点。パンクも吹き飛びそうなそのアグレッシヴさは箏の世界では異端なのだろうが、同時代性をもって箏という楽器に向きあっている貴重な演奏家であると同時に優れたインプロヴァイザーであることを再認識した。スティックを用いたりするお馴染みのプレイの他に、エレクトリック・ギターを思わせる音色など随所で新しいサウンドに出会った。箏にはまだまだ色々な音や可能性が隠れている。それは八木美知依という演奏家の音楽表現の拡がりと共に立ち現れてくるのだろう。
 この日のライヴにおける最大の収穫は、「びっくりゲスト」として登場した坂田明が参加した第2部の演奏だった。坂田明の演奏を見るのは久しぶりだし、こんなフリーな演奏を聴くのはもっと久しぶりのような気がする。2管となってブロッツマンと坂田明が並んで演奏している姿を見ているとなんだか嬉しくなった。そうだ、日本にはこの人がいたのだ。彼もまた百戦錬磨の達人、彼特有の音色と持ち味、ブロッツマンに全くひけをとらない演奏である。この二人による一種のインベンションは、単なるブロー合戦とは違い、トップクラスのインプロヴァイザーで相手を知る者同士でなくては表現し得ない世界である。実に心地よく音を浴びることが出来たひとときで、スタイルに新しさこそないのだが、その醍醐味は別格だった。
 アトミックを聴いて喜んでいるのは若い層が多いと耳にしていたが、客席を見てなるほどと思った。いつものフリージャズ、即興音楽のライヴでは見かけないファン層もいたからだ。この日の演奏は、アトミックとは全く異なる音楽性のものだが、彼らをも反応させている。なんかよくわかんないけど熱さや刺激を感じさせるトンガった音を求める若い音楽ファンはいつの時代にもいる。最近のクラシック化したジャズに熱さは感じられないのでその圏外だろうが、アトミックやニルセン・ラヴはたまたま彼らのアクセス圏内に入ってきたということなのだろう。
 終演後、一陣の疾風が通り抜けた後のような心持ちになりながら、演奏に70年代的な「熱さ」を感じたこともまた久しぶりだったことに気付く。ブロッツマンが自主制作レコード『For Adolphe Sax』を発表してから40周年。それはセンセーショナルな内容であり、また、ヨーロッパでミュージシャン自らがレコード製作を行うことの端緒となったアルバムである。ブロッツマンの歩んだ40年は「ヘラクレスの選択」だったといえる。最近は、××周年という言葉や還暦という言葉をよく聞く。しかし、ヨーロッパの60代は元気で、一段と磨きのかかった表現といい、音楽創造に対する意欲は全く衰えていない。ブロッツマンを始めとして、彼らにはただただ脱帽するのみである。JT

関連リンク:
『八木美知依、インゲブリグト・ホーケル・フラーテン、ポール・ニルセン・ラヴ/ライヴ!アット・スーパーデラックス』CDレヴュー
http://www.jazztokyo.com/newdisc/komado/michiyo.html
原田正夫のコングスベルグ・ジャズ・フェス・レポート
http://www.jazztokyo.com/harada-m/v18/v18.html

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