ライブレポート
#197 石井 彰 ソロ・コンサート reported by 望月由美

石井の音は立ち上がりが鋭く、ピアノから紡ぎだされる音は輪郭が明瞭でいささかの迷いも無いほどに潔い。一音に集中し、高い次元を求め、そして次の一音に繋げる。音の余韻は時には長く響き渡り、時には瞬時にして消え去る、そのコントロールが絶妙である。スタンダードから武満徹、そして自作曲に至るまで、石井のソロにはそのダイナミックなタッチと、流れるようなメロディ、激しいリズムの裏に入念な構想とサウンドへの細心の気配りが感じられる。当夜はそうした石井の強い意思が全面に打ち出された個性的で心地よいコンサートであった。日野皓正クインテットのハードなスケジュールをぬって、自己のトリオ、カルテット、北浪良佳とのデュオ・プロジェクト、その他諸々のセッション、さらには大阪音大やミュージック・スクールの講師と多忙なスケジュールのなか、このようなコンサート形式のソロ活動にも力を注いでいる。


石井 彰 at 杉並公会堂

会場の杉並公会堂は、荻窪駅から歩いて6〜7分、青梅街道沿いに大、小二つのホールとリハーサル・ルーム等を備えており、響きの良いことで評判で、日フィルのフランチャイズとしても知られているが、当夜のステージはその小ホール、席数200程で天井の高いピアノ・ソロには最適のホールである。
PA過多のコンサートが多い中でアコースティックな響きが耳に気持ちよく新鮮で、今日は素晴らしいステージになるのでは、との思いが一瞬、頭をよぎったが、以降のステージは期待通りの展開が繰り広げられた。


左手で和音のうねりを響かせる 石井 彰

<カム・レイン・オア・カム・シャイン>から始まった一部は<ホワット・イズ・ディス・シング・コールド・ラブ>、<リトル・ガール・ブルー>、<ゴールデン・イヤリングス>、<ハルシネーション>というスタンダードやよく知られたジャズの名曲で構成され、石井がかつてジャズに係わるきっかけとなったエバンスやキース、モンク、レイ・ブライアント、バド・パウエルといった先達にリスペクトあるいはトリビュートしての選曲のようで、石井の現況がうかがい知れる。1曲目、エバンスやキースで耳なじみの<カム・レイン・・・>で、石井はホールに伝わるピアノの音色を確かめるようにゆっくりと鍵盤をさぐる。長い序奏には<ポーギーとベス>の一節や<ニューヨークの秋>など耳なじみのメロディが断片的に散りばめられ、徐々に気持ちが高揚してゆき、ピークに達したところで<カム・レイン・・・>のテーマがあらわれる、効果的な導入だ。
2曲目の<ホワット・イズ・・・>では曲の途中で<ストレイト・ノー・チェイサー>を交えながらのインプロヴァイズであったがそのつながりも自然で、石井のジャズの原体験、彼自身の音楽性がありのまま音に託されているように響いた。そして<リトル・ガール・ブルー>、あのロジャース&ハートの美しいメロディをカデンツァなしに丁寧に、丁寧にしっとりと情感をこめて弾く、センチメンタルでスマートな心情がくっきりと浮かび上がる。


ジャズ・ジャイアンツへのソロ・トリビュート

 2部の冒頭で、石井は武満徹の曲と自作曲を2曲続けて弾く。武満徹の<Litany〜II>では、澄んだ透明なタッチで聴き手を幻想の世界にいざなう。石井は北浪良佳(vo)とのプロジェクトでもしばしば武満の曲を演奏しているが、このようなピアノ曲を真正面から取り組む姿勢は清々しく強く共感。音大作曲科に進んだ石井は学生時代、武満本人の特別講義を受けた事もあり、その静かながらも芯の強い人柄にも惹かれたと云う。その敬愛してやまない武満を弾くときの石井は緊迫感が漂い思わず聴くものの襟を正す。続く自作曲<Boulogne>はフランスを旅した際の印象を曲にしたものだというが、エッジの効いたタッチで軽快にホールの空間を埋め尽くす。武満とオリジナル2曲のつながり、調和が見事に美しい。


フェイヴァリット・ナンバーをインプロヴァイズする石井彰

一呼吸おいて、キースとカーラの曲を続けて弾く。キースのヨーロピアン・カルテットが「My Song」(ECM)で演奏していた <Tabaruka>を明るく軽快にスイング、カーラの<King Korn>はポール・ブレイとジャコとの共演で知られている曲だが、演奏途中で<アイ・ガット・リズム>が飛び出すなど鮮やかな切り口にリラックスしたムードが漂い面白かった。そして<エンジェル・アイズ>。私にとってMJQの「フォンテッサ」(Atlantic)でミルト・ジャクソンに涙した曲だが、石井も曲想、メロディを原曲に沿って弾きながら、クールな叙情を漂わせて会場を酔わせた。石井はアルバム「Voice In The Night」(ewe)でもこの曲をトップに選んでいるし、お気に入りの愛奏曲のようだ。エンディングはモンクの<エヴィデンス>。石井はパウエルがモンクの曲を好んで弾いたのと同様によくモンクを弾く。パウエルがモンクにリスペクトしながらも自らのスタイルで弾いたように石井も彼自身の音楽性、直感を活かしてモンクを弾く。


モンクの<エヴィデンス>を弾く石井彰

アンコールで武満徹の<小さな空>を弾く。石井は一音一音、ホールに響くピアノの音をかみ締めながら、淡々と優しさに満ちた音色で弾きこんだ。音がやんだ後の静寂がホールに吸い込まれ、一瞬の沈黙の後、盛大な拍手が沸き起こった。
当夜の石井はジャズのスタンダードを巧みに組み合わせながら自己の個性を際立たせ、卓抜のセンスでジャズのフォームを超えた斬新なプロセスを展開し密度の濃い色鮮やかな空間を作り上げており、満席の会場を爽やかなサウンドで魅了し深い余韻を残した。


アンコールで武満徹<小さな空>を弾く石井彰

Set List
1st
Come Rain or Come Shine (Mercer-Arlen)
What is This Thing Called Love? (Cole Porter)
Little Girl Blue (Lorenz hart-Richard Rodgers)
Golden Earrings (Victor Young-Jay Livingston-Ray Evans)
Hallucinations(Bud Powell)

2nd
Litany〜PartU(武満徹)
Boulogne(Akira Ishii)
Tabarka(Keith Jarrett)
King Korn(Carla Bley)
Angel Eyes (Mat Dennis&Earl Brent)
Evidence(Thelonious Monk)

Encore
小さな空(武満徹)

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UPDATED 10.12.2008