Concert Report#418

東京・春・音楽祭 ふたつの《四季》〜ヴィヴァルディ&ピアソラ
2012年4月6日 @東京文化会館大ホール
Reported by 佐伯ふみ
Photos by 林喜代種

ラ・ストラヴァガンツァ東京
 Vn:松野弘明、井上静香、城代さや香、西川茉利奈
 Va:篠崎友美、森口恭子
 Vc:植木昭雄
 Cb:黒木岩寿
 リュート:佐藤亜紀子
 チェンバロ:小森谷裕子

バンドネオン:三浦一馬
ギター:大萩康司
ボーカル:小島りち子

 どちらも「ラテン」の2人の作曲家、「四季」を主題とした作品を並べた興味深い公演。このプログラミングの妙と、ラ・ストラヴァガンツァ東京の覇気に満ちた演奏で、とても楽しいひとときとなった。
 まずはこの公演の最大の売り物であるプログラムを以下に掲げよう。これを眺めるだけで、ラ・ストラヴァガンツァ東京がやりたかったことが見えてくるだろうから。

【春】
  ヴィヴァルディ:《四季》より〈春〉第1・2楽章
  ピアソラ:《タンティ・アンニ・プリマ》(ギター+コントラバス)
  ピアソラ:《ブエノスアイレスの四季》より〈春〉
  ヴィヴァルディ:《四季》より〈春〉第3楽章
【夏】
  ヴィヴァルディ:〈夏〉第1楽章
  ピアソラ:《タンゴ組曲》より〈アンダンテ・ルバート、メランコリコ〉
  (バンドネオン+ギター)
  ピアソラ:〈夏〉A
  ヴィヴァルディ:〈夏〉第2・3楽章
休憩後に、ボーカル+バンドネオン+コントラバスでピアソラの2曲(チキリン・デ・バチン、ロコへのバラード)。そして――
【秋】
  ヴィヴァルディ:〈秋〉第1楽章
  ピアソラ:〈秋〉
  ヴィヴァルディ:〈秋〉第2・3楽章
【冬】
  ヴィヴァルディ:〈冬〉第1・2楽章
  ピアソラ:〈冬〉
  ヴィヴァルディ:〈冬〉第3楽章

 ピアソラの《四季》は、J.ブラガートと三浦一馬の編曲により、バンドネオン+ギター+Vn2+Va+Vc+Cbによる演奏。
 ヴィヴァルディとピアソラをこんなふうに並列させて、まったく違和感がないのには驚きである。特に「夏」のセクションで、ピアソラの《ブエノスアイレスの四季》からヴィヴァルディの《四季》後半に移ったとき、そのつながりがなんとも自然で、しかし何か目を瞠るような新鮮さを感じさせて、非常に面白かった。
 《タンティ・アンニ・プリマ》では、前奏のギター(大萩康司)のえもいわれぬ美しさに惚れ惚れ。ラ・ストラヴァガンツァ東京の面々が終始、熱狂的なムードをかもしだす舞台にあって、切れ切れに聞こえてくる大萩のギターの抑制のきいた表現、しっとりと湿り気のある温かさには、何かほっとさせられる気分だった。
 バンドネオンの三浦一馬は健闘と言うべきか。曲目に助けられて存在感は十分だが、音楽はまだまだ若いという感じ。同じ曲目で御喜美江のアコーディオン・ソロをこれまでに何度か聴いてきたが、人生の哀歓の込もった起伏に富む音楽づくり、細部に至るまで磨き込まれた表現といった点で、三浦にはまだまだ学ぶべきことがありそうだ。
 ボーカル2曲は、第2部の開幕にふさわしい。客席出入口から登場した演奏者たちが、舞台と客席の狭い空間に陣取って、親密なムードをかもしだす。マイクを通した歌にも違和感がない。いい声だ。
 ラ・ストラヴァガンツァ東京は、リーダーの黒木岩寿(コントラバス)、松野弘明(ヴァイオリン)の強力なリーダーシップのもと、各々の奏者たちの自発的かつクリエイティヴな表現が魅力。冒頭、ヴィヴァルディの〈春〉では、森の中で自由に鳴き交わす鳥たちをほうふつとさせる表現が出色。一転して〈冬〉の冒頭では、弦の刻みをわざと濁ったサウンドで(ピッチの正確さや一定のテンポという制約をはずして)たたみかけてくる。何を表しているのかは定かではないが、非常に面白く印象的である。アンサンブルのなかで筆者が特に魅了されたのはチェロ(植木昭雄)だった。熱気あふれるアンサンブルを突き抜けて響いてくる、美しく明晰なチェロは忘れがたい。
 ラ・ストラヴァガンツァ東京の演奏で少々気になったのは、個々のフレーズの処理のしかただ。フレーズのスタートはいいのだが、フレーズの途中から終わりにかけての注意が十分に払われていないと感じることが多々あった。メリハリがあり推進力のある、スピーディな音楽を目指していることはよくわかる。が、個々のフレーズがこのように扱われてしまうと、音楽全体の密度、ふくよかさや余韻といったものが薄れてしまう。なによりも、この音楽の意味を、聴く者にどうしても伝えずにはおかない、という気迫が感じられなくなってしまうのだ。アンサンブルのメンバーは舞台の上でひたすら熱いパフォーマンスを繰り広げている。しかし存外、客席は今ひとつその「熱気」に乗りきれていない。伝わっていない。そんな印象をもったのは、筆者だけだろうか?
 終演後の光景も、その1つの象徴と見えた。カーテンコールが何度か繰り返され、これで最後と客席が明るくなって演奏者たちが袖に引っ込んだ瞬間、客席まで響きわたるほどの嬌声が舞台裏から聞こえてきたのである。感極まった演奏者たちが大声で喋りまくっているのだった。大真面目に目くじらを立てることではないにしろ、ふと疑問に思ってしまった。彼らの頭の中には果たして「聴衆」はいたのだろうか?……自分たちだけの楽しみになってしまってはいなかったろうか、と。  













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