Live Report#437

JapzItaly〜Jazz Aid for Japanese Children
2012年5月26日 @Palazzo Isimbardi, Milano
Reported by 稲岡邦弥 Kenny Inaoka
Photos by 米田泰久 Yasuhisa Yoneda

フランコ・ダンドレア (piano-solo)

Roberto Masotti WYSIWYG:
ロベルト・マゾッティ (visual laptop)
グィード・マッツォン (tp,cornet)
坂田 明 (as)
大由鬼山(尺八)

タイガー大越 (tp, flgh)
アキレ・スッチ (b-cl, as)
小野塚 晃 (p)
藤原清登 (b)
クリスチアーノ・ヴァイラティ (ds)

最終的に会場が決まったのは公演の10日ほど前ではなかったろうか。パラッツォ・イシンバルディという由緒ある宮殿のパティオにしつらえられた仮設テント。ミラノ県庁から特別の使用許可が下ろされたということなのだが、如何せん決定が遅過ぎた。初日に続いて出演者には本当に気の毒なわずかな聴衆を前にしての公演になってしまったが、演奏はどれも内容が濃く、寒さを吹き飛ばす快演に観客は釘付けとなった。
口火を切ったのはフランコ・ダンドレア。もの腰の柔らかな老年のイタリア紳士が鍵盤に向かうと文字通り豹変する。今年71才になるこのピアニストの健在振りは、昨日の公式レセプションでの演奏で確認済み。渡辺貞夫(as)と小野塚 晃(p)の<ナブッコ>やG2us(高谷秀司g+マサ大家g)の<ハイサイ叔父さん>で和んだサロンにダンドレアのクリスタル・カットのピアノで一陣の風のような緊張感が走った。会場のゲストは皆、耳をそばだて、思わず襟を正したのだった。この夜もまったく同じ。磨き抜かれた、鋭利ともいえるピアノのタッチでオリジナルを挟みながら、モンクやパウエル、コルトレーンの名曲が次々に紡がれてゆく。時に優しく、時に激しく、伝統と現代を自由に往き来しながら独自の世界を築き上げて行く。この夜は共演を拒みソロにこだわったダンドレアの文字通りソフィスティケイトされた粋で刺激的なピアニズムを1時間余にわたって堪能することができた。
二組目は、“WYSIWYG” (ウィジウィグ=What you see is What you get:目で確認したそのものが得られる) というIT用語をテーマに掲げた映像と音楽による即興演奏。ECMやスカラ座のカメラマンとして永らく活躍して来たミラノ 在住のロベルト・マゾッティが、日常の何気ない風景や事物を巧みにコラージュ、エディットしたり、リピートさせることで非日常的な世界に作り替えた映像とグィード・マッツォン(tp.cor)、坂田 明(as)、大由鬼山(尺八)が即興で造り出す音楽とのコラボレーション。生憎、演奏者用にステージに向けて設置された大型モニターがトラブルで役に立たず、マッツォンがステージ背後のスクリーンに投影される映像を見ながら演奏をリードする形となったが冒頭10分ほどはお互いが探り合うような演奏が非条理な情感を醸し異空間に連れ出されたような不思議な感覚を味わった。マゾッティがビデオ・テクニシャンとリアルタイムでマニュピレイトする映像がイメージの堆積と時の経過を麻痺させる効果を狙ったパートでは、激しく咆哮する坂田のアルトと大由の尺八にミュートのかかったマッツォンのコルネットが鋭角的に切り込んで行くという当夜のクライマックスを味わうことができた。唯一の難点を挙げるとすればプログラムがやや冗長に流れたことで、2/3程で切り上げていれば密度の濃いパフォーマンスになったであろうと惜しまれる。
クローザーはタイガー大越率いるクインテット。大越のオリジナルや日本のわらべ唄がアレンジされていたため、事前にネットを介してチャートがミュージシャンに配布され、スタジオでのリハーサルを終え万全を期しての登場となった。<ハロー・ドーリー>で陽気に幕を開けたセットで、大越のトランペットに対してアキレ・スッチにバス・クラを持たせるあたりに大越のアレンジャーとしてのセンスを窺わせたが、寒さと予想外の長丁場に会場にすでに演奏を聴き込む雰囲気が失われていたのが残念だった。日本側からはタイガー大越に小野塚 晃(p)、藤原清登(b) という実力派が参加し、イタリアのアキレ・スッチ、クリスティアーノ・ヴァイラテ(ds)という気鋭のミュージシャンとアンサンブルを組む好機ではあったが、予期されたレヴェルに達することの出来ない環境のまま幕を降ろさざるを得なかったのは出演者も多いに不本意であったろうと悔やまれる。アンサンブルはともかく、それぞれのソロが流石と思わせる内容であったのが救いではあったのだが。  



   
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