Live Report #688

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2014 祝祭の日 (前編)
La Folle Journee au Japon 2014 - Jours de Fetes
2014年5月2日〜5日 東京国際フォーラム
Reported by Hideo Kanno 神野秀雄
photos by ⓒK. Miura (except shown as ⓒHideo Kanno)

        

10周年を迎え、すっかり丸の内のゴールデンウィークの風物詩として定着した「熱狂の日 音楽祭」=ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン。今年のテーマは「Jours de Fetes 祝祭の日」。10回目のお祝いに10人の作曲家が駆けつけてくる、1人ずつお友達をつれてというテーマだ。ヴィヴァルディ&バッハ、モーツァルト&ハイドン、ベートーヴェン&モシェレス、シューベルト&ディアヴェッリ、ショパン&リスト、ブラームス&シューマン、チャイコフスキー&ラフマニノフ、ドヴォルザーク&ブラームス、ラヴェル&フォーレ、ガーシュウィン&ブーランジェ。デパート状態になってテーマ性が破綻するのではと危惧したが、このなんでもあり感は、結果的に同時に幅広い音楽を楽しめるよい方向に向かったと思う。そしてジャズ的な視点で言えば、歴史の最後のバトンがナディア・ブーランジェに来ているのが大きなポイントだ。作曲者・教育者ナディア・ブーランジェがどんな意味を持つのか、それは次号でのまとめに記したい。それでは、コンサートだけでなく寄り道も含めて、ゴールデンウィーク、丸の内の音楽散歩にお付き合いいただきたい。

ルネ・マルタン トークイベント: 革新的な音楽祭のつくり方
2014年5月1日 19:00 Apple Store Ginza 3Fシアター


© Hideo Kanno

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンを2日後に控え、ルネ・マルタン(LFJアーティスティック・ディレクター)と梶本眞秀(LFJアーティスティック・プロデューサー/KAJIMOTO 代表取締役)によるトークイベントが、Apple Store銀座で行われた。
ルネと同い年だという梶本によると、ルネは真に革新的な存在であり続け、誰も思いつかないことを考え実行してきたという。梶本は新しい音楽のあり方を考えてヨーロッパの主要な音楽祭を視察するが、目新しいものはなく、その中で唯一ナントのラ・フォル・ジュルネだけがまったく違うやり方をしていて、早速、ルネ・マルタンとコンタクトをとった。そして東京国際フォーラムと組むことによって実現したと言う。
もともと、ルネはジャズやロックが好きでドラムを叩いていた。U2のスタジアムコンサートに集まる35,000人の観客を見て、これだけの人々をクラシックに呼び込むにはどうすればよいかを考えて、ロックフェスティバルも参考に、いろいろな音楽の世界を旅できるLFJというアイデアに行き着いたという。(個人的には、ノースシージャズフェスティバルとの類似性は強いと思う)
ルネのiTunesの画面を見せてもらうと、本当にたくさんの音楽が系統的に分類されている。見た場面では、アメリカのピアノ曲のカテゴリーに、フィリップ・グラスのピアノ曲が並んでいた。LFJ Japonのためだけでも300アルバムは聴くそうで、iTunesがなければ仕事にならないと言う。もちろん、全部公式にダウンロードしているよ、と付け加えることも忘れなかった。
ルネの革新性のバックグラウンドを知り、今後10年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの変化がさらに楽しみになった。

なお、Apple Store銀座では、これまでも多くのアーチストたちのトークイベントを行ってきた。Meet the Musicianでは、ハンク・ジョーンズ、小曽根真、クリス・ミン・ドーキーなど、Meet the Filmmakerとして『アナと雪の女王/Frozen』プロデューサー ピーター・デル・ヴェッチョ氏など。その多くはiTunes Storeのポッドキャストで視られるのだが、ルネ・マルタンに限って録画されていなかった。残念。


前夜祭スペシャルイベント「みんなで第九・歓喜の歌」
5月2日 19:00- 東京国際フォーラム 地上広場


金曜夜19時前の東京国際フォーラム地上広場、楽器を持った人たちが集まり出す。集まった人でベートーヴェン「第九」から「歓喜の歌」を演奏するという企画だ。2013年の前夜祭は「フラッシュモブ企画」として「みんなでボレロ」が演奏された。昨年のボレロの無限ループ感とグルーヴは特別だと思っているが、今年は合唱組がたくさん参加、また通りがかりで歌ってしまう人々と、歌ならではの広がりが楽しかった。自分で音を出すイベントと、聴くだけのイベントでは、気持ちが大きく違ってくる。あるいはしまい込んでいた楽器を持ち出すことで聴き方が変わる。静かに変わって行くLFJにとって大切なひとときのひとつだった。そして、ある人はその足で仲間と飲みに行き、ある人々はホールAの祝祭の日 プレナイト「アメリカの夜」へ向かう。
「みんなで第九・歓喜の歌」の動画をこちらで見ることができる。
http://youtu.be/g5_9EUt6N1Q

祝祭の日 プレナイト「アメリカの夜」
5月2日 20:00 東京国際フォーラム ホールA


小曽根 真:ピアノ
ルセロ テナ:カスタネット
ジャン=ジャック カンタロフ指揮
シンフォニア ヴァルソヴィア

ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
バーンスタイン:『ウエストサイド物語』より「シンフォニック・ダンス」
ウィリアムズ:スター・ウォーズ
カンダー&エブ:ニューヨーク・ニューヨーク
バーバー:弦楽のためのアダージョop.11
ヨハン・シュトラウスU世:スペイン行進曲op.433

ファリャ:はかない人生 より




フランス・ナントの本家ラ・フォル・ジュルネ、2014年のテーマは「アメリカ音楽」。プレナイトを「アメリカの夜」にしたのは、ナントからジャポンにバトンを渡す儀式でもあり、東京でも「アメリカ音楽」に大きな柱を置いていることの表明だと思う。ナント最終日も東京の前夜祭も、同じシンフォニア・ヴァルソヴィアと小曽根真が<ラプソディ・イン・ブルー>を演奏する。<ウエストサイド物語><スター・ウォーズ>も共通の演目だ。指揮は、ナントではロベルト・トレヴィーノ、東京ではジャン=ジャック・カンタロフだ。ナントのコンサートでは、ゴードン・グッドウィン&ビッグ・ファット・バンドも出演していた。その模様はこちらで視聴できる。
http://concert.arte.tv/fr/la-folle-journee-soiree-de-cloture

シンフォニア・ヴァルソヴィアは、フランスのラムルー管弦楽団などと比較してしまうと、堅実な落ち着いた音のオケで、どちらかといえば地味な印象を持っていた。しかし、<ラプソディ・イン・ブルー>での小曽根との絶妙なインターアクションに始まり、<ウエストサイド物語><スター・ウォーズ><ニューヨーク・ニューヨーク>へ。アメリカを表現するリズムの中で、スウィングそのものかどうかは分からないが、オーケストラが物凄くアメリカ的なグルーヴを見せる瞬間がある。もしかしたらアメリカのオケ以上に。この後、中欧の民族音楽を演奏する「ムジカーシュ」(ルセロ・テナの次の五重奏の写真を参照)を聴いてわかったような気がする。ヨーロッパ人がアメリカのノリを理解するのではなく、ジャズのグルーヴの源流のひとつに中欧のリズムがあり、それが時代と空間を越えて共鳴するのかも知れない。また、ピアノとオケの相性もとても素晴らしかった。
締め括りは、昨年の最終公演を盛り上げた、カスタネットの女王ルセロ・テナ。超絶なカスタネットのテクニックを披露する。そして鳴り止まない拍手にダブルアンコール。
ルセロ・テナの演奏はすばらしく、楽しみにしているが、他方、起用にあたって慎重になって欲しいと思う。デザートが美味し過ぎて、主菜の余韻がわかりにくくなる危うさがある。2013年の最終公演でもラムルー管弦楽団のラヴェルのアンコールを聴きたかったが、その余地はないし、2014年の前夜祭も「アメリカの夜」のままで締めくくった方がよいかも知れない。むしろ、ルセロ・テナの魅力を正面から、そして多面的に取り上げるリサイタルを作って、その魅力に迫れたらと思う。
「アメリカの夜/La Nuit américaine」というタイトルは、フランソワ・トリュフォー監督の同名の映画もあり、映画制作で昼間にフィルターを使って夜の風景を撮影する手法のことも指している。ともあれ、ナントから送られたバトンは、東京にしっかりと渡され、3日間のコンサートが始まった。


#117 「祝祭の夜」
5月3日 22:15-23:30


Martha Argerich、酒井茜(p)
Gidon Kremer、堀米ゆず子(Vn)
川本嘉子(Vla)、Giedre Dirvanauskaite (Vc)
吉田秀 (Cb) Juliet Hurel (fl) Raphael Severe (cl)
安江佐和子 (perc)

ストラヴィンスキー:春の祭典(2台ピアノ)

第1部 大地の礼賛
第2部 生贄の儀式

サン=サーンス:動物の謝肉祭
第1曲 序奏と獅子王の行進曲
第2曲 雌鶏と雄鶏
第3曲 騾馬
第4曲 亀
第5曲 象
第6曲 カンガルー
第7曲 水族館
第8曲 耳の長い登場人物
第9曲 森の奥のカッコウ
第10曲 大きな鳥籠
第11曲 ピアニスト
第12曲 化石
第13曲 白鳥
第14曲 フィナーレ

アンコール:
第14曲 フィナーレ


ラ・フォル・ジュルネで「マルタ・アルゲリッチ&ギドン・クレーメル」、しかも4月に入ってからの緊急発表で、話題性も抜群、興行上も気合いの入った特別招聘企画に見えてしまうが、実際全く違うらしい。下記の描写は、事実関係の聴き間違いもあるかも知れず、あくまでも「ノリの表現」として読んで欲しい。ナントのラ・フォル・ジュルネ、同じくルネがプロデュースするピアノ音楽祭「ラ・ロック・ダンテロン」の常連でもあるマルタ・アルゲリッチが、「あら、私も東京のラ・フォル・ジュルネ出てみようかしら」「ギドンも来ない?」他のメンバーも「じゃ、私も行く!」みたいなノリでとんとん拍子に決まってしまい、他方、今頃言われてももう枠がないよ!と嬉しい悲鳴で、最終枠の後、終電も危ない開演22:15に押し込んだと言う。
まるで「のだめカンタービレ」の一コマのようなリハーサルの写真が、この公演を象徴している。巨匠から20歳の若手まで音楽が楽しくて仕方がないという風だ。
定員5,008人のホールAは完全な満席となり、客席の興奮は最高潮に達していた。
ステージにマルタ・アルゲリッチと酒井茜が現れ、<春の祭典>の2台のピアノ版が始まる。繊細さとダイナミックさを兼ね備えたふたりのやりとり。酒井茜はこれまで聴いたことがなかったが、巨匠マルタからの厚い信頼が感じられ、堂々とそして楽しそうにストラヴィンスキーの壮大な音世界を紡いで行く。
<動物の謝肉祭>では、この人数の室内楽編成で、ホールAでバランスよく音を響かせることができるのか?しかし、マルタ、ギドン・クレーメルを始めとするこの顔ぶれにその心配は不要だった。確かな表現力に裏打ちされた鮮やかなアンサンブル。どこまでも美しい音色とハーモニーがホールAを満たしていく。翌日、フルートのジュリエット・ユレルのマスタークラスに参加したが、「楽器を(マウスピースの位置で)鳴らしてはいけない、管楽器を吹くということは、観客のいる遠くまで風を届けることだ」と語っていたが、この達人たちはこのワザを共通してもっているのだろう。アンコールでの<フィナーレ>でさらに感動が溢れる。終演は23:30近く。そして観客は駅へと急いだ。



トーマス・エンコ・トリオ「ジャズコンサート」
#133 5月3日 14:15-15:00 東京国際フォーラム ホールB5
#344 5月5日 15:45-16:30 東京国際フォーラム ホールC


Thomas Enhco (p) Chris Jennings(b) Nicolas Charlie(ds)

La Fenetre et la Pluie
Gaston
Wadi Rum
You’re Just a Ghost
The Outlaw
(作曲:Thomas Enhco)

#254 5月5日 16:15-17:00 東京国際フォーラム ホールD7
トーマス・エンコ・ソロ「ガーシュウィンへのオマージュ」


Fire Dance (Thomas Enhco)
It ain’t Necessarily So (George Gershwin)
Improvisation 1 (Thomas Enhco)
I Love You Porgy (George Gershwin)

「仏流美形ジャズピアニスト」「フランスが生んだ貴公子」という謳い文句に倒れそうになり、かえって第一印象はよいものではなく、LFJにピアノトリオを呼ぶことを喜びながらも、なぜ彼なのかというところに漠然とした疑問を持っていた。実際に目にしてみると「普通の好青年」が3人という印象。トーマスは1988年生まれだ。
ピアノトリオでは、キース・ジャレット・スタンダーズ・トリオに通じる3者のやりとりがあり、またブラッド・メルドー的なところもあるが、透明感があり美しい響きと旋律は彼自身のものだ。トリオでは特にホールCを満たす音響、繊細なインタープレイに圧倒された。
他方、ピアノソロでは、ジョージ・ガーシュウィンと自身のインプロヴィゼーションを交互に。インプロヴィゼーションでは、多彩な表情を見せさまざまなリズムとメロディーを自在に紡いで行く、同じく、キース、ブラッド・メルドーときて、エグベルト・ジスモンチ的なグルーヴも垣間みられた。繰り返しだが、誰かの真似ではなく、彼自身の表現になっている。
ピアノが大好きなルネ・マルタンが敢えてフランスから連れてきたことに間違いはなかった。トーマス・エンコは7月30日には、コットンクラブでのソロも予定されている。その他にもコンサートが決まるかも知れない。これから注目して行きたいピアニストのひとりであることは間違いない。


【関連リンク】
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 公式ウェブサイト
http://www.lfj.jp/lfj_2014/
La Folle Journee de Nantes
http://www.follejournee.fr

神野秀雄(かんの・ひでお)
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。

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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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