Aziza Mustafa Zadeh/contrasts

『Aziza Mustafa Zadeh/contrasts』

JAZZIZA RECORDS JR 1969-1

Aziza Mustafa Zadeh ( Piano, Vocals )

1. Singing Nature 2 . Night Life in Georgien 3. Stars Dance 4. Dreaming Sheherezadeh 5. Bachuana 6. Last Days of Chopin 7. Past of Future 8. Contrasts 9. Egocentric Bumble-Bee 10. Jazzerei in Traumerei 11. Bolero 12. The Way to the Palace 13. The Mirror of the Miracles 14. The Nightingale & The Rose 15. Cloudy Evening

Produced by Aziza and Eliza Mustafa Zadeh
Recorded at the Jazziza Records Oct. - Nov. 2005
Edited and mastered at the Bauer Studios by Adrian von Ripka and Aziza Mustafa Zadeh in consultation with Eliza Mustafa Zadeh in Oct. - Nov. 2005

 昨2006年春にリリースされたアジザ・ムスタファ・ザデの通算8枚目となる新作「コントラスツ」は、流通を自身のウェブサイト通販とコンサート会場での直接販売に限定しているため、海外でもあまり話題となっていない。しかし本作を聴くと、そうしたインティメートな聴き手とのつながりこそ、今のアジザが大切に求めているものであることが、とてもよく理解できる。BGMのように流して聴くと淡白にも感じられるが、ひとたび音楽だけに意識を集中させると、万華鏡の如く無限の拡がりが現れてくるという、そういう種類の作品である。レトルトやジャンク・フードではなく、贅沢な和菓子のような佇まいというか。
 ところでジャズとクラシックから発して独自のピアノ音楽に到達した点では加古隆を思わせるが、アジザはピアノと同時にコブシの効いた民謡風情緒を感じさせる「歌(スキャット)」も歌う。さらにソ連を代表するジャズ・アーティストであり 39 歳で早世した父ヴァギフによるムガームを取り入れたピアノ奏法も引き継いで探究を続け(ちなみにアジザの母はグルジア出身の民謡歌手でクラシック歌手としても将来を嘱望されていた)、そうした故郷の伝統音楽のエッセンスを濃厚に残しているところが何といっても特異だ。
 新作「コントラスツ」はピアノと歌のソロ録音からなり、前作「シャーマン」の路線を継承し発展させたものだが、目立つのはクラシックの発声法を積極的に取り込んでいるところ。そのために表現のニュアンスや色合いが一段と繊細になり、さらには曲構成の叙事詩的な特徴も深まって、スタンスとしては、心身の内側から沸き出す響きと一体化して演ずるジャズよりも、沸き出した響きがある形態を保ちつつ振動している状態を客観的に呈示するクラシック音楽の作法に近づいている、と言えそうだ。とはいえ、彼女の音楽の魅力は、つねに(この新作においても)泉のように湧き出る変幻自在で清冽な詩情(ポエジー)にあって、まさしくそれはジャズの力(エネルギー)にほかならない。これもまた自明の事。したがって本作に漂う整然とした印象は、アジザ自身の内面的成熟が、深まった音楽の内容を支えるために形式への配慮に傾いた結果ではないか、とも映る。選び抜かれた音、各フレーズの強弱やタッチの繊細なコントロールの背後にある、物語を構築する意志の存在が明確に伝わる。一音一音に神経が走り、ぴくぴくと脈打っている。
 また今回はクラシック曲を取り上げているのも注目すべき点で(以前もクラシック作品の断片的フレーズは登場していたが)、リムスキー=コルサコフ、シューマン、ラヴェルの音楽が、アジザの手にかかって驚くほど新鮮な魅力をまとって生まれ変わっている。超絶技巧のピアノとヴォーカル多重録音で描かれた「ボレロ」の渦巻く高揚感は、アジザの想像力の翼の大きさを伝えてあまりある。アルバムは、最後に、内省的なピアノの響きがフェイド・アウトした後、柱時計の鐘が十二時を告げる音で静かに幕を閉じる。かけがえのない時が、まだそこに留まって、それが永遠に続いていくという余韻を残しつつ。霊的な美しさを伴い、真摯な態度で、勁く、激しく、静謐に、優しく、心奥に語りかけてくる稀有な音楽である。JT

[付記]
 下記アジザのホームページで過去のアルバム作品も部分的に試聴可。また通販では、新作以外に、前作「シャーマン」(★)と、ドイツ・コロムビアから2000年にリリースされた「インスピレイション」の2枚が購入可能。アジザの手元に残っている貴重なストック。とりわけ後者「インスピレイション」は発売当初から販売契約エリアが限定されていたらしく、入手困難なレア・アイテム。内容は新曲以外に、「オールウェイズ」と「ダンス・オブ・ファイアー」の録音セッションでの未発表曲や別ヴァージョンからなり、たぎるようなパッションと濃厚なアゼルバイジャン色が薫り立つ、唯一無二の<ジャズ>が頭の先から尻尾までぎゅっと詰まっている。この二作を聴いてアジザにガツンとヤラレた覚えのある音楽ファンならば必聴のアルバムだろう。

★「シャーマン」(2002)は、アジザ内部のクラシック音楽の源流に重きを置いて制作されたピアノ弾き語り作品で、アゼルバイジャン〜黒海〜トルコ周辺の情緒が纏綿と絡み合っている。アジザの最愛の作曲家であるバッハとショパンの様式で作曲したピアノ曲や、パーカッションのみをバックにしたヴォーカル多重録音、トルコの民謡のアレンジなど、全編聴き応え充分。アビーロード・スタジオでの録音もクラシックのセッションを思わせる繊細な響きを捉えていて素晴らしい。ピアノのタッチもかつてなく凛々しく決然とした印象を与える。残念ながらデッカとの契約終了のため、既に世界各国で廃盤。

※下記サイトでは、注文用ウィンドウの上部に「英語」を選択できるボタンがあります。私の場合は、注文して二週間以内にCDが届きました。

Aziza Mustafa Zadeh Offcial Website
http://www.azizamustafazadeh.de/

●参考ページ
アゼルバイジャン・ジャズの至宝 ヴァギフ・ムスタファ=ザデ
(付:アジザ・ムスタファ=ザデの魅力)
/岡島豊樹(東欧〜スラヴ音楽リサーチセンター)
http://homepage3.nifty.com/
musicircus/odessa/012.htm

(堀内宏公)

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