『野瀬栄進/Burning Blue』

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1. Hope 2.The Lure 3.Burning Blue 2005 4.Staying 5.Sense of Wonder 6.My Cousin 7.Free Improvisation " Good Bye Zorome " 8.When a Dinosaur' s Pissed Off 9.Burning Blue 2006 10.Kuba

野瀬栄進(p)

録音:2005年6月2日、2006年7月25日、同8月7日@The Studio (NYC)

野瀬栄進というピアニストは活動の拠点を現在はニューヨークにおき、年に1度帰国したときに数回のライヴを行うだけなので、よほど彼を知る熱心なファンを別にすれば名前も知らない人がいても不思議ではない。ただし、ニューヨーク在住時期のベーシスト井上陽介とドラマーの小山太郎のトリオで吹き込んだ『ホーム・スウィート・ホーム〜望郷』が2年半ほど前にポニー・キャニオンから発売されたことがある。これはメンツといい、トリオのバランスといい、3者の息がよくそろった優れたピアノ・トリオの作品だった。そういわれれば記憶にある、とおっしゃる人がもしかするといるのではないだろうか。
彼は私が秘かに期待する若いピアニストの1人だ。井上陽介氏の紹介で知りあって以来、帰国ライヴ演奏を楽しむ機会も増えた。独立不覊の精神が旺盛な彼は、井上陽介や小山太郎が滞米生活を終えて帰国後も1人ニューヨークに留まり、彼の地での活動に区切りをつけようとはしなかった。このことについては彼は本心を明かそうとはしないが、期するところがあるのかもしれない。
本作は『 Here Now Hear 』、前掲『 Home Sweet Home〜望郷』に続く野瀬の第3作にあたるリーダー作で、デビュー作同様、自主レーベルでの発売である。前2作とは違ってソロ・ピアノの1作だけに、ピアニストとしての技量や楽器への思いのほどはトリオのとき以上にアピール度は強い。彼の技術的な精度の高さは冒頭の「 Hope 」を聴けばよく分かるが、このピアニストは、テクニックだけで後は何もないというピアニストではない。続く「The Lure」のリリカルな、あるいは詩的なフレージングや表現が、もしかすると野瀬の真骨頂なのではないかとふと思わせる。そういえば実際、彼はタイトル曲の「Burning Blue」に短い自作の4行詩を書いてジャケット裏に載せており、そこから想像しても意外や子供のように夢を追い続けるロマンティストなのかもしれない。ソロ・アルバムゆえに、そうした彼の隠れたまま表に出なかったナイーヴな面がよりくっきりと顔を現したといえるのではないかと思う。
この「 Burning Blue 」はここには、2005 年版と2006 年版の2つのトラックが収録されている。後者の2006 年版では唯一、鳥山健明と内田豊という2人のドラマーが打楽器で参加している。ソロ・ピアノ集の中で異色のトラックといっていいが、これがどれだけこの1作にとって有効だったかといえば、率直にいって首を捻らざるを得ない。宇宙から見た地球の「Blue」がいかに美しいブルーであるかを、野瀬は野瀬なりの感覚で強調したかったのかもしれないが、個人的な意見に従えばソロ・ピアノ作品として統一したアルバム作りに意識と情熱を集中すべきだったのではないだろうか。もちろん大きな傷ではない。だが、ピアニスティックなソノリティーと繊細な詩情で物語が気持よく展開されていく序盤から中盤にかけてのせっかくの心地よい流れを、彼の力強いピアノ奏法でさらにドラマティックに盛り上げる方へと気持を切り替えていたら、一段と目覚ましいソロ・ピアノ作品が完成したのではないかと思ったのだ。期待が高いせいで、辛口に過ぎる注文となったかもしれないが。
ここに収録された10曲はすべて野瀬自身のオリジナル。みずからのプロデュースで制作した1作であり、オリジナル曲だけで構成した彼の意図は悪くないし、聴き手に媚を売るような選曲などがなされていないせいか、むしろ安心して彼の演奏に集中しながら楽しむことができた。といって、いつもオリジナルで勝負せよといっているわけではない。曲、つまり素材が何であれ、そこに彼が真剣勝負の演奏を披露してくれる1つの出発点となるような心構えさえ見えればいい。彼のような新進気鋭の演奏家には余り策を弄するようなアルバム作りをして欲しくないし、野瀬栄進が今のような気持を捨てない限り次回作への期待もいや増そうというものだろう。JT

(悠 雅彦)

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