『ケティル・ビヨルンスタ&テリエ・リピタル/ライフ・イン・ライプツィヒ』

ECM/ユニバーサル UCCE-1101 ¥2,500(税込)

ケティル・ビヨルンスタ(piano) テリエ・リピダル(electric guitar)

1. 海 2.ザ・プレジャー・イズ・マイン、アイム・シュア 3.海 4.フローテーション・アンド・サラウンディングズ 5.イージー・ナウ 6.夜想曲(断章) 7.アライズ・ルーム 8.バイ・ザ・フィヨルド 9.海 10.ル・マンフレート/フォラン・バイセン 11.ザ・リターン・オブ・パー・ウルフ

録音:Matthias Sachers live by MDR, October 14, 2005 during the Leiptiger Jazztage
レコーディング・プロデューサー:Christian Cerny
エグゼクティヴ・プロデューサー:Manfred Eicher

 ジャズファンもクラシックファンも素通りしてほしい。おれはECMファンとだけ話したい。標題音楽はある。音楽史において標題音楽は当然低位の範疇であることはわかっているし、それは保育園児が楽しむようなものだ。それでも、90年代ECMの代表格として提示したい作品 『海 The Sea』 (ECM 1545) は、一音の足し引きもできない、鳴り出したとたんに北欧の海が眼下に映り始めるという、書いていて恥ずかしいのはわかっているけれどもやはりそう書くしかない、表題音楽であり、ときに人生をつらぬくヴィジョンを与えるようなレコーディングの謎だ。70年代の最高の編集者である故小野好恵氏の散骨の際に、この音楽が流されたことを氏の評論集のあとがきで読んだ時の、感性の連なりといった確固たる信仰や祈りのような受け止め。

 そんなことを言われても読んだひとはどんな音楽かわからんくて困るわな。編成は。ヤマハピアノ教室の主任レベルのすっくと一音一音置き切る非ジャズのピアニスト、アメリカのヒッピーなれの果てを隠匿するヒーリング・チェリスト、ストラトキャスターをギンギン鳴らすだけで北欧の空を描く永遠のギター小僧、痙攣するシンバルワークと地鳴りのようなバスドラの非リズム不確定ドラマー、というのが 『海 The Sea』 を奏でていた。この4人、録音後 The Sea Quartet としていくつかの公演をこなしている。ブライトンにいた友だちに頼んでMDを聴かせてもらったが、ライブ盤を出すに相応しい出来である。

 『海 The Sea』 の録音、94年9月から11年後、この奇跡のふたりの主犯ケティル・ビョルンスタとテリエ・リピダルのライブが録音された。The Sea Quartet は99年まで断続的に活動し、この年からふたりはデュオ公演をスタートさせていたのだという。

 このふたり、ノルウェーの同じ学校にいて、ビョルンスタは5年先輩のリピダルがギター・ヒーローとして存在しており、リピダルが 『ブリーク・ハウス』 でデビューした71年、ビョルンスタはオスロ・フィルとの共演のためバルトーク3番を準備していたのだという。それ以降の経緯は「テリエとの旅」と題されたビョルンスタのテキストに譲る。国内盤は小山さち子さんの丁寧な翻訳と、大村幸則さんのすばらしい解説がある。

 音合わせを終えて楽屋に戻る。建物もお客も雰囲気も気に入った。エネルギーが戻ってきた。テリエはまだ犯罪小説の粗筋についての話があるようだ。音楽についての話はいつもたくさんある。テリエはぼくに、ベーゼンドルファーのでかい低音から入ったらどうだい? という。うんうん。途中でさ、グリーグを1曲入れてみようよ。それはいいね。プロモーターが楽屋のドアを叩いて開演を伝える。さあ、始まりだ。そして、なんでもありだ。それでこそ、ライプツィヒのこの夜だ。(ケティル・ビョルンスタ) [翻訳・おいら]

 『海 The Sea』 の「V」と「II」をブリッジを加えて続けて、20分以上のオープニング・ナンバーにしている。

 ライプツィヒのコンサートでは、このふたりとオレゴンがブッキングされていたというのだから、ヨーロッパにはECMファンがそんなにいるのだ。

 おれはゆうべエグベルト・ジスモンチのオーケストラ作品を沼尻指揮東フィルで聴いてきた。[東京の夏]音楽祭2008 のオープニングアクトだ。オーケストラ、沼尻、ジスモンチが、一体となった巨大なジスモンチを出現させた。稚拙な物言いだろう、だけど、ソリスト+オケというクラシックの図式、インプロヴァイズもしくは瞬間的相互関係、といった、分析する刃(やいば)を寄せ付けない塊(かたまり)だ、おれは長年の旅をして大きな大きな遠回りをしてECMサウンドを理解しようとしている。真の意味のフュージョンとして、ECMはこういうものだったのか、と。ふふふ、前衛なぞ旧いものだ。

 この 『ライフ・イン・ライプツィヒ』 を甘く見てはいけない。わたしたちはこういう音楽に気付いて生きることを味わわなければ。「Le Manfred」と、アイヒャーに捧げられたトラックもあるぞ。JT

(多田雅範)


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