『Ganelin Trio Priority/Live in Germany』

Auris Media, aum005

Slava Ganelin (p, syn, per), Klaus Kugel (ds, per), Petras Vysniauskas (ss)

1) I, 2) II

Recorded at “European Music Festival Muenster 1999”, Germany

すごく久しぶりにヴャチェスラフ(スラヴァ)・ガネリンを聴く。ウラジミール・チェカシン(sax)、ウラジミール・タラソフ(ds)とのガネリン・トリオで知られるソ連で最初にフリージャズを演奏したミュージシャンの一人だ。その存在を知ったのは、イギリスのLeo Recordsの『Live In East Germany』。25年以上も前のことである。誰かがこのトリオのことを「ソ連の山下トリオ」と呼んでいた。鉄のカーテンの向こう側の音源は珍しいこともあったが、そのインパクトはおそらく初のヨーロッパ・ツアーをした時に山下トリオが与えたものに似通っていたように思う。1985年ソ連の書記長にゴルバチョフが就任し、ソ連の政治体制は大きなパラダイム・シフトを向かえた。グラスノスチ(情報公開)、ペレストロイカ(改革)を進めていったことにより、それまでほとんど知られていなかったソ連のジャズ・シーンが大きく西側の世界で注目を集める。しかし、数年後ガネリンの活動はなぜか私の視界から消えてしまう。彼がイスラエルに移住したという話を聞いたのは、なんとローマだった。ところが最近、ちょっとした巡り合わせから、ガネリンがドイツのドラマー、クラウス・クリューゲルとリトアニアのピャトラス・ヴィスニャウスカスなどとヨーロッパでツアーを行っていることを知ったのだ。
その新ガネリン・トリオのミュンスターでのライブ録音がCD化された。ベルリンの壁崩壊から丁度10周年の1999年の録音である。現代音楽的ともいえるガネリンの端正なソロから始まり、ヴィスニャウスカスのソロを経て、三者の音が次第に絡みあっていく。ガネリンはシンセサイザーも多用し、それに仕込んだ音源を即興演奏の場面に応じて用い、シンフォニックな空間を創出。多彩な作曲活動、現代音楽や映画、演劇のための作品を書いているガネリンならではの豊かなイマジネーションが、即興演奏をひとつのドラマに仕立て上げている。ヴィスニャウスカスは、アブストラクトにサウンドを構築する一方、フォーク的な叙情性も垣間見せ、リトアニアの風を呼び込む。ヴィリニュス・ジャズ・スクールの逸材だけにその表現力は際だっている。クリューゲルもパーカッション・サウンドを空間に鏤めたり、ジャジーにパルスを打ち出したり、臨機応変な対応で空間に奥行きを与える。高度の折衷性を持って異化されたサウンドは、いわゆる西欧的な即興演奏とはまた違った位相を持つ。サウンドに喚起されたイメージの中にふと詩情を感じた。ジョナス・メカスの映画のように。 JT
(横井一江)

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