齋藤 徹,今井和雄,ミッシェル・ドネダ/Orbit 1
『齋藤 徹,今井和雄,ミッシェル・ドネダ/Orbit 1』

Travessia/TRV-001 (2006)

●齋藤 徹(contrabass) 今井和雄(g) special guest:ミッシェル・ドネダ(ss)
●orbit 1 (65:35)
●Recorded and mastered by Takeshi Yoshida
●Recorded live at Plan-B in Tokyo, on March 1, 2006

 コントラバス奏者の齋藤徹(さいとう・てつ)とギタリストの今井和雄は中野のライヴ・スペース Plan-Bで「百歳の軌道」と名打たれたデュオ・ライヴを続けている(本CDのタイトルの orbitとは軌道のこと)。毎回、1時間にわたる完全即興の演奏だが、2006年3月は、ゲストにフランスのサックス奏者ミッシェル・ドネダを迎え三者による即興演奏が繰り広げられた。本盤はその演奏をまるごと収録したもの。そしてこのライヴ盤は、齋藤自ら立ち上げたレーベル"Travessia"の第1作となる。
 何もなくがらんとしたコンクリートの打ちっぱなしの場で全体の照明は落とされ、演出といえば奏者に柔らかくスポットライトがあてられるだけ。彼らの完全な生音と聴き手は単純に向かい合うことになる。ここでは三者ともに旋律を紡ぐことはない。我々が通常慣れ親しんだコントラバスの音はなかなか姿を見せない。今井のアコースティック・ギターしかり、ドネダのソプラノ・サックスしかり。
 三人はあらゆる技法と工夫をもって、楽器を鳴らし、音を響かせ、有形の時間を形作ってゆく。音が誰から(どの楽器から)発せられているのかわからなくなる事もある。誰が発しているかという音の所属が、聴き手にとって問題でなくなる瞬間は何度も訪れる。抽象が高度にとぎすまされ、送り手の個性や方法論が消える美しい瞬間だ。
 時に聴き手にとって予想外の音が乱入する。誰の発した(そしてどうやって発した)のか、聴き手は思わずその音源を見てしまう(あるいは考えてしまう)。この時、齋藤の、今井の、そしてドネダの肉体が立ち現れる。
 透明になる(あるいは匿名になる)彼らが現れては消え、他者の発する音を聴く耳と自らの音を作る自我を持つ彼らもまた消えては現れる。肉体の存在と非存在の入れ替わりは、三者が同調することもあって実にスリリング。彼らの集中力はまったく弛緩することなく、高い状態で最初の一音から、演奏を終えたと三人が判断したその時まで続く。60分以上にわたり持続する集中力とそれを支える技術・肉体の強靭さは驚異的である。
 齋藤と今井はこのデュオ・ライヴを中野の plan-B で今後も続けてゆくようだ。ぜひ足を運ばれることを薦める。
 本CDの注文・問い合わせに関しては、 http://tetsu-saitoh.com/html/top.html の NEWS をクリック。
 また、レーベル Travessia の第2作もリリースに向けて制作進行中だという。2006年9月2日から24日にかけて行われる齋藤徹とJean Sasportes(ダンス)のデュオ・パフォーマンス・ツアーの情報も含めて http://blog.tetsu-saitoh.com/ を参照のこと。 JT
(原田正夫)

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