『Sanatorium Under the Sign of the Hourglass — a tribute to Bruno Schulz/The Cracow Klezmer Band plays the music of John Zorn』

Tzadik TZ7349

Jaroslaw Bester (Bayan), Oleg Dyyak (Bayan,cl,per), Wojciech Front (b), Jaroslaw Tyrala (vln)
Special Guest: Grazyna Auguscik(vo)

1) Meshakh, 2) Galgalim, 3) Tirzah, 4) Yesod, 5) Pagiel, 6) Adithaim, 7) Hamadah, 8) Regalim, 9) Demai, 10) Meholalot

All music composed by John Zorn
All music arranged by Jaroslaw Bester

Recording: January 2005 in Krakow, Poland


『砂時計サナトリウム』というタイトルが目に留まった。しかも、ブルーノ・シュルツに捧ぐ、とある。ブルーノ・シュルツは、ポーランドのカフカと称された作家。ユダヤ人ゆえに、ナチに路上で射殺された。比喩を多用する装飾の多い文体で描かれた短編小説は、極めて独特で、どこまでも異彩を放っている。『砂時計サナトリウム』は、その中でも最も幻想的な異世界に繋がる作品だ。
作曲はジョン・ゾーンで、演奏はクラクフ・クレズマー・バンド(CKB)。『砂時計サナトリウム』の世界をサウンド・イメージ化するとしたら、これほど格好の取り合わせはない。CKBは、伝統的なイーデッシュ・ソングを主に演奏するクレズマー・バンドとは違い、よりコンテンポラリーなアプローチでクレズマー音楽を演奏しているバンドであり、ユダヤ文化や音楽に深い拘りと造詣を持つジョン・ゾーンは作曲家としても並ならぬ才能を持っているからだ。
現実の世界を断ち切るような最初の一音。ヨーロッパ、しかも東方の空気感が伝わってくる。次第に立ち現れてくるのは、クレズマー音楽を基底としながらも、小説に繋がるようなシュールでイマジナティヴな音。小説において場面が遷り変わるように、曲毎にリズムも曲想も変化する。これは異世界を彷徨うファンタジーだ。2曲にゲスト参加しているポーランド生まれで今はシカゴに住むグラジェナ・アウグスチックのヴォイスは、時に幻想的なオーラで満たし、とても魅力的。CKBは間違いなくクレズマー・バンドの表現領域を拡大している。
小説『砂時計サナトリウム』は、ポーランドのウォィチェフ・イエジー・ハス監督によって映画化されている(1973年、邦題は『砂時計』)。シュルツの他の短編小説も取り込み、捻れた時空間の中で摩訶不思議に変化する世界を鮮やかな色彩感で描いたもので、実は一度観たきりなのに忘れられない映画なのである。サウンドに喚起されるように、記憶の中から断片的に映画のシーンが甦り、映像と音楽が交錯し、なんとも不思議な感じを味わった。
寧ろ、小説や映画などの前知識などなしで聴くほうが、もしかすると音楽自体によるインパクトはより純粋で強いものなるのかもしれない。 JT
(横井一江)

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